12RIVEN -the Ψcliminal of integral-(サイバーフロント)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント5−3+4−3+8−
シナリオ:打越鋼太郎
原画:滝川悠/bomi
音声:フル
主題歌:有(オープニング:『third bridge』/エンディング:『プロセス』)

<シナリオ>
 「ミュウ」という少女が殺される。そんなメールを受けて、それぞれにメールで指定された「インテグラル」の屋上へ向かう二人の主人公、鳴海と錬丸。その屋上で出会ったのは、未知の能力「Ψ」を使う少年だった……。
 という、まあ、ストーリー説明を大雑把にしてしまえばこんな出だしなのですが、ここからは視点が「鳴海」と「錬丸」の二つに分かれて進行します。
 ストーリー紹介をすることそのものがネタバレになってしまいますので、ここでは細かいストーリー説明は避けますが、これまた最低限のネタバレ(序盤に出てくる話ですので、あえてネタバレとして出しますが)をすると、この後錬丸とミュウは別の世界へと飛ばされてしまいます。つまり、「二つの異なった世界」で物語が進行していく、というつくりになっているわけです。
 基本的に『Ever17』と同じスタッフが作っているということと、同じ「Infinityシリーズ」であるということから、どうしても『Ever17』との比較になってしまいますが、こちらもその雰囲気や物語展開への意外性などは充分に感じられます。
 この作品(だけでなく、『Ever17』でもそうではありましたが)のポイントは、「うまくだましてくれる」というその一点に尽きますでしょう。
 とにかく最初から最後まで、文章や舞台設定に至るまで詳細に伏線や仕掛けが張り巡らされており、それが「ある」ことがわかっていても見破れない、物語の中の壮大なトリックを楽しめる作品です。
 それはもはや、「まだ仕掛けが始まっていないだろう」と思えるような、それこそ冒頭部分から「仕掛け」が始まっているというそのシステムに、物語を読み終えた後のプレイヤは驚愕せざるをえない、という仕組みですね。
 当たり前のことのように物語の中で語られていることが実は当たり前でなく、それそのものがトリックであり、大きな謎解きのための伏線である……という、いわゆる「叙述トリック」というジャンルのものです。
 そして、その叙述トリックジャンルのものとして、この作品の完成度はきわめて高いです。
 今作品においては、「時間」がキーワードになっているので、その意味では『Ever17』よりも構造が複雑です(厳密には『Ever17』も時間がキーワードではあるのですが)。なので、ただ漠然と読んでいると、クリアした後にも結構謎が残ったままになってしまいますので、ある種気になるところはメモをとりながらやるとか、そのほうが結果的には楽しめるし、作品のトリックを理解できるかもしれません。
 ただ、そういう複雑さをさしおいても、「これがこうだから、実はこうだった」というタネ明かしに辿り着いたときの驚きや感動というのは確かにあります。なんと云っても、そうだったのか! という意外性こそがこの作品の一番の楽しみどころなのですから。
 さしあたり、このへんについて語ろうとすると、結局はネタバレに触れなければならなくなってしまうのであまり深くは語りませんが、とにかく「最初から最後まで伏線と回収と、その回収されたものが新たな伏線になっている展開」で埋め尽くされており、読み進めるたびに新しい驚きで楽しませてくれること請け合いです。あまり穿った見方をせず、素直にエピソードを考えながら読み進めていき、ひとつひとつの展開に驚くのがこの作品を楽しむベストな方法でしょう。
 この作品、とにかく「謎のキーワード」や「謎のエピソード」が数多く出てきます。もちろんそれ一つ一つがちゃんと物語の伏線になっているのは云うまでもないのですが、一見すると散逸的で、これは何なんだろう、と考えさせることが多いです。
 キーワードのほうは「言葉」なので、物語が進行してはじめて一致するものではありますが、エピソードのほうは、一つ一つが切り離されたものとして考えさせてくれます。それについて「考える」ことと、(変な云い方ではありますが)考えた結果が裏切られることが、この作品の何よりの面白さなのです。
 また、『Ever17』の場合、トリックがトリックとして語られ始めるのが中盤から後半に集中しているため、どうしても中だるみというか、前半から中盤にかけての展開が退屈なものになりがちでした。中盤以降の急展開を描くには、どうしても前半の部分の日常と非日常の境界を描くことは必須ではあったのですが、それでもやはり物量の多さは現実のものとしてそこにありました。
 また、さらにそれぞれのキャラクタごとのルートが存在しているがゆえに、その仕掛けの面白さに気がつく前に「飽きてしまう」人も多いのではないかと思います。
 この『12RIVEN』では、そこが改善されています。もちろん謎解きについての詳細が始まるのは中盤以降なのですが、前半から物語的にきっちりとヤマが作られていて、読んでいるプレイヤを最初から最後に至るまで飽きさせません。
 云ってしまえば、いきなり「非日常」から始まるので、だらだらと間延びした感じというのはそれほど受けないのはいいところでしょう。文章のテンポも非常によく、また、ルートも「鳴海」「錬丸」とその後とわかりやすくまとまっており、『Ever17』に比べるとすべての謎が解けるまでのクリア時間は大幅に短縮されています。
 これはもちろん「飽きづらい」という点においてもいいところではあるのですが、この作品を「叙述トリックもの」ではなく、もっと単純に純粋な物語として読む場合でも、このヤマのあり方はポイントになってきます。物語として読んで、それの読後感とでも云うか、作品を一つ読み終えた際のボリューム感が必然的に高いものになっているのです。
 不満があるとすれば、「叙述トリックもの」としてこの作品を見た場合、そのトリックの種明かしが、最後に説明的に行われている部分が多い、ということでしょうか。
 『Ever17』の場合、これが物語の中で自然に溶け込んでおり、読んでいく中で物語に隠されたトリックが解けていくというパターンで、あえてこれがこうだったからこうだったんだ、という説明は最小限でした。
 ところがこの作品の場合、エピローグ付近において、それが非常に説明的に為されている部分が多く、なんとなく「手品のタネはこうでした」と明かされているような気分になります。
 もちろん、全体に張り巡らされたトリックからすればその割合はあくまでも少ないものなのですが、これがまず一つ気になった点ではありました。
 そしてもう一つ、この作品を通常の「女の子が出てくるアドベンチャーもの」として見た場合、キャラクタの魅力がややスポイルされている印象を受けました。
 実際にそういう視点で見るかどうかは別にして、『Ever17』の場合、それぞれのキャラクタがいわゆるギャルゲー的目線で見ても魅力があったことは確かだと思います。それはやはりそれぞれのキャラクタが非常に個性的だったから、ということに他なりません。
 この『12RIVEN』では、登場するメインキャラクタがやや少ないせいもあり、はたまた物語の展開上どうしても奇抜なキャラを出せないこともあり、キャラクタの個性がやや殺されているきらいがあります。
 こうなってくると、萌えるとか萌えないとかそういう次元の話ではなく、作品が終わった後に印象に残るキャラクタというのがどうしても作りにくいのは仕方がない話でしょう。文章の端々でそのへんで工夫している節は見て取れるのですが、しかしそれでも物語全体の構造上、それを完全に補うことはできません。
 ただし、話としては上にも書いたとおり、非常に素直に楽しめる作品だと思います。逆にへんに斜に構えて読むと、あら捜しに終始してしまいつまらなくなってしまいます。
 事実(尤も、わたしの理解や読解力が足りてない部分もあるかとは思いますが)、ある程度解け切れてない謎が残っているのも確かなので、そこをつついて「これはダメだ」と云うのは簡単なことでしょう。
 でも、それはきっと、作品を楽しむ上ではものすごく「損をしている」のではないかと思うのです。だってこの作品、「読む」ことそのものを楽しめる作品なのですから。

<CG>
 二人の原画家で描かれているのですが(厳密には、鳴海ルートと錬丸ルートで担当している原画家さんが異なっているようです)そんなに絵的に違和感が出るほど離れているではなく、キャラ絵のレベルで見るとそんなに悪くありません。
 ですが、これが一枚絵になると途端におかしなことになっている絵があちこちに見受けられます。どこがおかしいかと云うよりも全体的に時空がゆがんでいる感じで、これは非常に惜しい感じ。個別で見れば背景とかも描きこまれていて悪い感じはしないんですが。
 また、PS2の表現上の限界からか、大量の血が出るシーンなどは、ネガ・ポジが反転した状態で表示されます。まあ、レーティングの関係で仕方がないのでしょうけれども、結構これがうっとおしくなってきます。PC版も発売されるので(これを書いている段階では未発売です)、このPC版ではこのあたり改善されていて欲しいなあという気はするのですが。
 PS2の場合、プレイ環境によってかなり画面の綺麗さなどは変わってくるのだと思いますが、うちの環境の場合(PS3のHDMI接続+40インチ液晶)、全体的に絵がボケている感じはしました。これはまあ、仕方がないことなのかもしれませんが。

<システム>
 そんなに悪くはありませんが、よくもありません、といった感じ。スタンダードないわゆる「エロゲーシステム」ですが、マウスやキーボードが使えない、コントローラーだけのPS2環境ということもあり、PCでの操作に慣れてしまうとそんなに良くはないです。
 良くはないですが、それなりに工夫もされていて、ちゃんと選択肢ごとのオートセーブ機能などもありますし、スキップもかなり高速です。また、セーブ・ロードが×ボタンででき、□ボタンでバックログが読めるというシステムなので、慣れるとあまり手の動きがなく操作ができます。
 ただし、R2ボタンが、既読・未読を問わない無条件スキップに当てられており、コントローラーを持っているとこれを勝手に押してしまうことが多々あって(これはまあ、PS3コントローラの仕様でもあるので仕方がないのかもしれませんが)、それでログを読み返しに行くことが何度かありました。
 バックログの中でセリフを聞きなおしたりもできますし(操作は少々面倒ですが)、その中から任意の場所に戻ってプレイをやりなおすこともできますので、PS2インターフェイスとしてはがんばっているのではないかとは思います。

<音楽>
 歌ものの印象は(なぜか)それほどでもありませんが、劇中曲は結構聴かせてくれます。特にこれが、というほどの印象ではないのですが、全体的に聴いていて『Ever17』などのシリーズの雰囲気をきっちり継承している感じ。初回版にはちゃんとサントラがついているので、これもまたありがたいです。
 声も悪くありません。遊々の声にちょっと無理があるような気はしましたが、他は結構きっちりはまっているのではないかと思います。ただ、演出の都合上声が出たり出なかったりするので、仕方ないとは云えちょっと落ち着かない部分はあるかも。

<総合>
 この作品、一応、細かいところを云えばいろいろ不満もあります。
 たとえば、特に鳴海の推理があまりにもご都合的と云うか、普通はそんな都合のいい考え方はしないだろー、という展開がポツリポツリと出てきますし、それによって謎が一気に解決してしまったりす部分があったりと、不満な部分がまったくないわけではありません。トリックを作る上で、そりゃ無理があるだろう、というところも、実はないわけではないのです。
 ですが、そういうところを差し置いても、この作品にはやはり「気持ちよく騙してくれる」魅力があります。『Ever17』ほど綺麗にまとまっているわけではありませんが、この作品を単品で見た場合、やはりそれは大きな魅力と云ってよいでしょう。
 この作品の楽しみ方は、上にも書きましたがなんと云っても「一つ一つの事象を考えながら、素直に楽しむ」ことです。
 キャラクタそれぞれが、意識や時間のことなど物語の根幹に関わってくることを説明してくれます。この説明を考えて昇華・消化した上で先に進めていく……というのの繰り返しで、結果的に「騙された」ときの驚きはより大きなものになるのです。
 とにかく、最初から最後まで楽しみながら読める作品です。無理やり進めた感のある展開などもあって、結果的な満足感というか、終わったあとの余韻という意味ではどうしても『Ever17』以上ではないにせよ、これもかなりハイレベルなトリックものであることは間違いないと思います。特に『Ever17』の話展開が好きならば、まず間違いなく楽しめる作品でしょう。『Ever17』よりもトリックそのものもわかりやすいですし。
 なにはともあれ、せっかくやるのならば「気持ちよく騙される」楽しみ方をお勧めします。

2008/03/26

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