Ever17 -the out of infinity-(KID)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント5−
シナリオ:打越鋼太郎/他
原画:滝川悠
音声:有
主題歌:有(オープニング:『LeMU -幻の大陸レムリア-』/エンディング:『Aqua Stripe』)

<シナリオ>
 なんというか、「大作」という感じの一作です。
 もちろんその1ゲームにかかる時間が多いのもそうなのですが、それと同じくらいこの「考えられて作られた、入り組んだ謎」の仕掛けの量と質が半端なものではなく、それこそ完全に作品を終えた後の達成感というか、物語を読み終えたあと独特の達成感のようなものが非常に大きなものになっています。
 舞台は近未来。「LeMU(レミュー)」という海中テーマパークです。このLeMUに突然の事故で閉じ込められてしまった少年・少女たちが、迫りくる危機から身を守りながら地上への脱出を目指すうち、そこにいる人々の過去や隠された事実が明らかになっていく……という感じになりますでしょうか。
 これだけ聞くとなんだかアメリカあたりの映画なんかにありそうな感じですが、実際、最初のほう……つまり、単純に「脱出」を目標としているうちは、そういったアクション映画さながらのスリルや緊張感が楽しめます。
 まずここでぐっとプレイヤーを引き付けておいてから、この中に少しずつ混ぜ込まれた「謎」が中盤から後半にかけてゆっくりとテーマとして入れ替わっていき、今度はそれが気になるから先を見たくなる……という、物語世界への引き込みがものすごく巧みに行われていて、やや中盤で中だるみ感はあるものの、ボリュームの割には退屈さを感じさせません。
 一般的な物語というものは、日常の中にある非日常が次第に大きくなっていき、最後にそれがまた小さく収束していくことで終わります。トランプのダイヤのマークを横に倒したものを想像していただけるとよいでしょう。
 ただし、物語のクライマックスは概して後半に集中するため、ひし型の上と下の点は限りなく始点から遠いところにあります。
 ところが、この作品ではこれがそう単純なものではありません。否、確かにこの作品においてもそういうセオリーはきっちりと守られているのですが、この「日常」パートのなかに、じわじわと忍び寄る非日常と、「非日常」パートのなかにぽんと放り込まれた日常が、あまりにも絶妙すぎるバランスで配置されているのです。
 だから、「何か事件が起きている」という感覚、ないしは「なにか身に危険なことが起きようとしている」という二つの感覚を、自然の感覚として受け止めることができ、なおかつそれが物語世界ならではのリアリティを生むことに成功しているのです。
 ただ、それが日常の中に隠れているがゆえに、どうしても中だるみしているように感じてしまうわけですが。
 物語に引き込まれる、というのはこのへんに原因があると思います。先にも述べたように、ボリュームはかなりのものです。
 昨今のアダルトゲームとしてはかなりボリュームを感じた「朱 -Aka-」でも、おそらく総ゲーム時間は十時間かそこらへんなのに対して、この作品はオールクリアまでにかかった時間が十九時間近くかかっているのですから、そのボリュームは推して知るべしというやつでしょう。
 無論、この時間は複数回目の共通パートはスキップで飛ばしていながらですから、やはり特筆モノの長さです。
 で、これだけ長いと、通常どうしても途中で飽きがきてしまいます。
 途中でと云っても「物語の途中」ではなくて、「ゲームの途中」……つまり、こいつのシナリオはやってないけどまあいいや、というような話です。
 その物語を読んでいるときは確かに楽しいのですが、じゃあそれについて今度は別の結末を見たいかと云えばそれは別に、というような話になってしまうわけですね。えてして、こういうことというのはよくあることです。  アダルトゲームの場合は、少なくともそこにアダルト要素がある以上はそれが再プレイのきっかけになったりはしますが、こういうタイプの全年齢向作品ではそれもまた期待できません。
 ところが、この作品についてはそうではありませんでした。この「日常・非日常のバランス」が、結果として作品そのものへの興味へとつながっているのです。
 ひとつのシナリオをクリアすると、少しばかりの謎が残る。もうひとつのシナリオをクリアすると、その謎については「おおよそ推測できる」けども答えは出ず、また新たな謎が残る……というようなことの繰り返しになるのです。
 そして最後、すべてを踏まえた上で謎が解ける……という、妙な云い方をすれば「長さに納得がいく」作品なのです。
 もう少し中身に踏み込んでみますと、この作品、語られていること自体は結構難解なテーマだったりします。が、それを「難解に感じさせない」というギミックがしっかりと組み込まれているのです。
 難解なことを難解に解説するのであればそれは実に簡単なことで、専門用語やらなにやらを適当に並べ立てればそれでよいのです。そうすれば読んだ側もなんとなくわかったような気になるし、作った側もなんとなくすごいことをしたような気分になります。
 ですが、それは実は物語としては反則ギリギリの行為で、少しばかり酷い云い方をするなら、「相手を煙に巻いた」だけに過ぎません。難しいことを、あくまでも物語の中で概念を理解できるように説明していって、はじめてこういったギミックが物語の中の演出として成立するわけです。
 そのへんをこの作品はきっちりとクリアしています。
 無論、斜め読みだとなんだかわからないというようなあれなのですが、きっちりと一つ一つのエピソードを考えながら読んでいけば、それがどう物語にかかわってくるのかということも含めてちゃんと理解できるようになっているのです。
 と云うよりもむしろ、それを理解していくことで、物語そのものにかけられたギミックや、またはこの物語が持つ見事な結末や真実というものがわかるような仕組みになっていると云ったほうがよいかもしれません。
 ただ、ここには少しばかり欠点もあって、それがゆえに途中のせりふが「説明くさく」なってしまっている部分が多々あります。
 これはまあそういう全体の仕掛けを考えれば仕方ないとは思うのですが、なんにせよ物語の世界というレベルから考えると少しばかり残念なような気がしないでもありません。
 云っていることがなんだか難しくてよくわからない、ということではないのです。それまで話していたキャラクターのせりふが、突然あたかも教科書のような「口調」になってしまうという違和感ですね。
 返す返すも、これはどうしようもないことだとは思いますし、これをどうにかする方法というのはどうにも思いつかないのですが、しかしこれだけ完成された物語だからこそ余計に残念だと思ってしまうのです。
 しかし、そういう部分を鑑みても、この作品の結末や真実が単純に魅力的なものであるということには変わりはありません。
 なんと云うか、そこから導き出される世界観のようなものがものすごく巧くて、それこそ「まさか」の繰り返しの中で、この物語の中にある緊張感がしっかりと伝わってくるのです。結果として考えながら楽しむ、難解さが心地よいという物語がそこにできあがることになったのでしょう。
 さらに追記するならば、この作品はそういう緊張感と「笑い」のバランスも取られています。
 通常、後半に行けば行くほどこういう物語の本質と関係のない要素というのは排除されてしまいがちなのですが、この作品ではそれがありません。物語の後半にも、きっちりと「笑わせる」要素が盛り込まれています。
 これは先に書いた「日常・非日常」のバランスにも絡んでくる話なのですが、とにかくプレイヤーから見た物語の見方をひとつに固定せず、その意識をあえて意識的に「ずらす」ことによってプレイヤーを引き込むようになっています。
 と、云ってしまうのは実に簡単なことなのですが、これを実際に反映させて物語を作ろうとすれば、これはもうちょっとしたバランスのミスによって物語そのものが瓦解していくことは明白です。先の文章で「奇跡的なバランス」と書いたのはこれに起因するわけです。
 あとはキャラクターの立たせ方ですね。これは謎そのものがかかわってくるのでなかなか触れ難い部分がないわけではないのですが、これも本当に巧いです。
 出てくるキャラクターそのものは決して多いわけではないのですが、これがきっちりと意味を持ってそこに立っている、というのはあまりに見事です。意味を感じさせずに意味をもたせる、とでも云うのでしょうか。
 もちろん、いわゆる女の子ゲーとして見た場合の、このキャラクターが可愛いなあ、というような要素も多分にあります。ありますが、それと同じかあるいはそれ以上に、物語の中におけるキャラクターの立ち位置とでも云いましょうか、そういうものがあまりに巧くできていて、それがゆえにキャラクターがきっちりと独り立ちをしているのですね。
 それはまた、物語が物語として存在するためのひとつの条件でもあるのですが、たとえば「つぐみ」というキャラクター一人をとっても、その存在自体に意味があるというのが物語の中で明らかになっていく過程というのは、もうあたかも自分が世界の中へ溶け込んでいくような快感さえ覚えるのです。
 結末は、「考えオチ」という……つまり、プレイヤーを置き去りにして「勝手にこの後はどうなったか考えろ」というようなものではありません。
 そういうのいもまあアリといえばアリなのですが、シナリオを作った側が、実際にその結末を用意せずに「考えオチ」にしているだけなのではないかというようなことをどうしても思ってしまうのもまた事実ですから。
 対してこの作品は、ちゃんと物語の中で大部分は答えが出されています。無論、意図的にかそうでないのかはともかく、「考えオチ」になっているエピソードもあります。ですが、物語そのものはきっちりと閉じていますから、終わった後にその余韻だけを楽しめるのです。
 とにかく、じっくりと読んでいくことでどんどん引き込まれていく、考えることが快感になる……そんな良質の「物語」です。

<CG>
 さすがにPS2だけのことはあって、絵は綺麗です。背景の絵はそれほどでもないのですが、キャラクターの立ち絵や一枚絵なんかはほんとに魅力的。
 ちょっとギャグっぽい絵からシリアスなシーンまで、実に多彩に楽しませてくれます。もっとも、そのボリュームと比較すると若干一枚絵が少ないような気はしましたが、これはまあやっているうちは物語に没頭していて気が付かないかなあ、というようなレベルです。

<システム>
 これもまあ、悪くはないのですが……インターフェースがPS2のコントローラーなので、どうしてもパソコンのアダルトゲームなんかと比較するとその機能は劣ります。とはいえ、選択肢ごとに(あるいはシーンごとに)自動的にセーブしてくれるクイックセーブや、強制と既読を使い分けられるスキップなど一通りのことはできますので不満はありません。

<音楽>
 シーンにマッチした音楽の数々は、なかなかBGMとして印象に残るかどうかはともかく非常に心地よい曲です。特に、エンディングの「Aqua Stripe」は名曲ですね。ボーカル曲なんですが、なんだかこう一昔前の長編アニメーション映画のエンディング曲のような、綺麗なメロディが実に印象的で素敵です。
 あとは声。声はもう文句ありません。まあ、ちょっとばかり少年の声に微妙な違和感を感じないではないのですが、それ以外のキャラクターはもう見事の一言に尽きますね。特に優の声。なんかこう透き通るような、聞いているとそれだけで落ち着いてくるような優しい声が実に印象的でした。

<総合>
 結果、わたしは何のために生きるのか?わたしはどうしてここにいるのか? そんなことを考えたことがある人というのは決して少なくないでしょう。
 この作品は、それに「ひとつの答え」を示してくれています。物語というのはそれを、あるときは直接的に説明した教科書よりも判りやすく、感覚として血液の中に、意識の中に埋め込むことができます。
 無論、これがただの物語であることには間違いありません。それを意識せずに、単にこの物語に秘められた謎や真実といったものを楽しむのもアリでしょう。ですが、なにかそういう普段は考えないようなことをふと感覚として「感じて」みる……この作品、そんなこともまたできてしまう作品です。
 長いのは確かに長いです。とかく全員クリアしないと「謎」が解けない仕組みですからそれは仕方がありません。
 ですが、もし「良質の物語」を見たいという人ならば、その時間に見合った分の満足感は得られると思います。

2003/08/13

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