07/02「ファン論」

 ということで、そのアレだ、こうな、非常に難しいなあと思うのはさ、芸能人でも声優でも内閣総理大臣でもなんでもいいんですけども、誰かのファンになるってことなんですよ。
 こないだ、ってももうかなり前のような気がしますけども、ほらAKBだかなんだかの人がスキャンダルでどっか別のグループに飛ばされたみたいなのがあったじゃないですか。
 まあねあれ自体はさ、はっきり云えばあたしはAKBってぜんぜん知らなくて、ファンの人になんだかAKBだかNTTだかJRAだか知らねえけどみたいなこと云って本気で怒られたりしてるわけなんですけど、まあアレだ、そんなだからメンバの名前も知らないしそもそも興味もないんですが、やれ総選挙だなんて云ってそれで露出度が変わる大事な投票権がついたCDを売るってのは、エグいけど賢いなあ、というのもあるわけで。
 だってさ、いままでは歌手でもなんでも普通は一人CD一枚しか買わないワケですし、そのなかでCD一枚売っていくら、コンサート一回やっていくら、しか稼げなかったこの手のアイドルで、こういう稼ぎ方があるってのに気づいたってことがやっぱり秋元さんの才能なんだろうなってのはあるんですよ。一人に10枚CDを買わせれば、10人のファンが従来の100人分に化けるってことですからね。まさに無から有を生む錬金術なワケです。
 やりかたとしては好きではないけど、やっぱりすごいとは思うよ。だからあっちこっち、いろいろAKBのまねする人がいても、あそこまでにはならんのだな。二番煎じは二番煎じでしかなく、常に後ろを走ることしかできないわけで、そこにそういう才能なんかないからね。前走者とおんなじことやっても相応の才能がないと駄目なわけだこういうのは。
 それでもね、ネットなんかを見てると、ああいうのを見て「またステマが」「また電通が」みたいな、小学生が覚えたばかりのローマ字をやたらと使いたがってジャポニカ学習帳の名前欄に自分の名前をローマ字で書くみたいな、またソレっすか、みたいなこと云っちゃう人々ってのもまだまだいるんだなあ、ってのはそれはそれで実感するわけでな。
 なんてかそういうのってさ、自分がいる世界、自分が見ている世界以外にも世界が広がってるってことを忘れちゃってるんだろうなってのはあるワケですよ。自分の興味がないモノ=世界が興味がないモノだと思っちゃう。
 あたしはAKBにも興味ないし、たとえばなんだろうな、韓流ドラマなんてまったく見たいとも思いませんけど、それでも自分たちがいる世界以外にも世界は広がってるんだってことを考えれば、世界にはAKBが好きな人も、韓流ドラマが好きな人も、テレビや雑誌、新聞が特集したり放送したりして利益になるくらいにはいるんだってことなんだと思うんですけどもね。
 逆に韓流ドラマが好きだって奥様たちに、『まどかマギカ』ってすごい流行ってるんですよって云ったって「なにそれ」って云われるでしょうし、世界ってそういうもんだと思うんですけども。
 ああいやちょっとハナシがそれた。んなこたどうでもいいんだ今回は。
 このいちれんの、スキャンダル発生からメンバの移動まで含めてのいきさつが出来レースなのかセメントなのかは知りませんけど、今回のその件で個人的にいちばん驚いたのは、「アイドルに対してファンの立場から熱心にアプローチすれば、少なくともお友達の関係くらいにはなれる」ってことが現実にあるんだってことですよコレ。
 だってさ、そういうのってストーカ物語としてはよく聞くけど、実際のサクセスストーリなんて聞いたことなかっただもんでさ。アイドルってのはファンにとって手が届かない存在で、友達になったり、まして恋人になったりなんてのは、同じ業界で仕事をしている人間以外はありえないってのがなんとなくあったしね。
 そういう意味で、「ファン」と「アイドル」の間には、ものすっごい高い壁があるってのが暗黙の了解だったと思うんですけども、ところがまあ、そういうふうにファンとアイドルが繋がることも実際にあるんだってことなワケだコレは。
 まあ、コレに関しては、報道によればその相手もいわゆるイケメンだったってコトらしいんで、それがほんとだとすればそれによるところも多分にあるだろうけどもな。あたしみたいなのが同じことしたらストーカとか云われてポリス沙汰だ間違いなく。
 いやな、誰かのファンになるってのはさ、その対象を応援するってところまではまあいくとして、そこから先、つまりまあコレで云うところのお友達になったりあまつさえ恋人になったりみたいなそういうのを目指すかってところってのは、結構大きな差があると思うんですよ。
 割とさ、そのなんだろな、歌を聴いて応援したりとかそういうのだけなら、まあテレビとか雑誌とか、最近だと本人のブログとかツイッタとか、そういうもので伝わってくるイメージだけでいいワケですよ。
 可愛さで売ってる若い女性タレントとかアイドルとか声優さんとかが、クマさんのぬいぐるみ集めてて毎晩いっしょに寝てまーすってブログに写真あげてたら、それを信じて可愛らしいなあって思えればそこで完結するワケですよ。だからこそもっと応援しようって気になるワケで。
 ところがだ、それ以上になってくるとな、そのなんだ、「本人実はほんとにいい人なんですよ」的な、表に見えてる活動とかそういう活動の裏を評価して好きになったり、あるいは嫌いになったりみたいなことになってくるじゃないですか。もうなんてかな、そうなったらある意味純然たるファン活動としては一段落みたいな感じしないではないんですよ。
 たとえばあたしはさ、まあそのなんだ、仕事柄いろんな声優さんと話すこともありますし、それで「この人イメージ以上に丁寧でいい人だなあ」みたいなこともたくさんあるんですけど、なんかもう「この人すごくいい人」が入ってくるともうダメなんですよ。いやもちろんそれはそれでファンになることはありますけど、それってもう純然たるファンの活動とはまた別みたいな感じがするワケです。誰かのファンになるってのと、人間的に好きになるのってぜんぜん別のハナシですからね。
 でだ、その後者になってくると、先の「もし可能なら友達になったり恋人になったりしたい」的なものになってきちゃって、なんかこう応援するとかいうことじゃなくなってくるわけですよ。
 いやま、あたしの場合はさすがにね仕事ですからね、そこで会った人と恋人になりたいとか思ったことはないですけど、ていうか思ったところでなれるわけないんですけども、そのなんてかなあ、先のAKBの人もさ、「ファン」っていうのを越えてなんかこうそのひとの内面っていうか活動以外のところでの顔を知った時ってのはさ、ものすごい嬉しかったと思うんですよね。
 だってさ、テレビの画面とかステージ越しでしか見られなくてさ、握手ひとつするにもすごい並んでようやくみたいな存在だったあの子がさ、目の前にいて握手どころかたぶんフランクに趣味のハナシとかしてるわけじゃないですか、それはもう舞い上がりますって。わかんないけどもさ、たぶんこうなんだ、愚痴のひとつも云ってくれたりしたと思うんですよ。そんなファンの前じゃ絶対に云えないですからね、それを聴かせてもらえるってのは、ある意味もう特権階級じゃないですか。自分にしか話してくれないハナシなわけですよそれは。
 もともとね、ちょっと前にも書きましたけど、コレはたぶんアイドルでも2次元のキャラクタでもそんなに変わらないと思うんですが、「俺はこれだけこの子のことが好きなんだ!」みたいなアイデンティティ的なものってのがあって、その中で「俺はこの子とプライベートなハナシができるんだ」ってのはさ、もう頭ひとつどころか絶対に追い越せないエリアまで到達してますからね、そらもうすごい優越感とアイデンティティでしょうよ。
 そういう意味では、ある意味ファンにとってはひとつの憧れの形ではあるとは思うんですが、でもその時点で、もうそのひとは「ファン」ではないワケだな。なんかこうね、もうちょっと別の次元へ入っていくんだと思うんですよ。それで雑誌に嘘かほんとかしらんけどそのときのことを暴露するってのはものすごいゲスい行為だとは思いますけど。
 このへんのバランス感覚ってかな、そういうのってすっごい難しいよなあとは思うんですけど、なんてかな、そういう意味では2次元的なものってすっごい楽ではあるよなあ。だって春香さんなら春香さんでゲームの中にいる春香さんがすべてなんだもの。
 まあそのなんだ、つまりなにが云いたいかっていうと、ローラはありじゃないかなと最近ちょっと思うようになった。そんだけ。

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