3/30 「夢論」

 ということで、いやああれですよ、皆さんお元気ですか。いやもう大変だったんだっていやほんと。いろいろあったんだって。ヤルタ会談とか。こんなうんち虫みたいな文章でも長らく書かないでいると何書いたらいいのかわかんなくなるよななんかな。
 あれじゃないかな、更新しなかった記録で云えば最高記録なのではないかなこれはね。いやほんと大変だったんだってマジで。もういいじゃないかみんな期待するな。なにしてないそうかそうか。
 なんかもうね、最近あれですよ、夢も希望もないんですよ。なんかものすごいバックギアでアクセル全開って感じですけどもね、これがもうびっくりするくらいないわけ。
 いやまあもともと昔からあんまりそういうことに対してあまりポジティブではないというか平たく云えば嫌なガキだったわけですけども、大人になってみるとこれがさらにないね。もうびっくりするくらい。
 だいたい小学校の卒業アルバムに書いた「将来の夢」が「ドラクエを作る人」ですからね。小学校六年生としては決定的なまでに頭悪い。これ以上ないくらいの単枠指定ですよこんなものは。ていうかそんなことしたら堀井雄二の立場がなくなるだろ。
 でもその前が「高橋名人になりたい」だったからそれに比べれば若干まし。「高橋名人みたいな」じゃないですよ、高橋名人そのものになりたかったんです。もうね、バカにもほどがある。
 ま、極端なことを云えばあれですよ、別に夢なんかなくても困らないわけでして、さすがにこの年になると将来何になりたい?とか聞かれませんからね、別にこれはこれでいいのです。というか30の童貞男にそんなこと聞く奴がいたらそいつは相当壊れてるよな。
 先日ちょっとわけあって久しぶりに実家に帰りまして、いろいろ帰ったついでだからと部屋の片付けなどしていたわけです。
 もうね、久々に帰ってみたらいろいろ何がどこにあるのかさっぱりわからないわけでして、この状態はこれはいかん!とこう思いましてね。
 結局のところ、モノを片付けるのに一番いい方法は「徹底的に捨てる」ことなわけで、そのためには「徹底的にモノを掘り進めて外に出す」作業がまず必要になるというようなことでして、いやもうやりましたよやりましたとも。押入れの中ひっかきまわしたね。なんか賞味期限が三年くらい前ののど飴とか出てきて泣きたくなった。給食のパンを机の中に入れっぱなしにしてる子どもか俺は。
 そしたらですね、なんかえらく厳重に梱包された紙袋が出てきたんですよ。
 人間ってやつは不思議なもので、もう二度と見たくないものというのはしまうときに厳重に梱包しますし、捨てるときも厳重に梱包してから捨てるものだという説があります。だからゴミを拾うときに厳重に梱包されたものを拾うと、その捨てた人の黒歴史がはっきりわかる何かが出てくる可能性が高いと、こういうことだそうです。
 ということは、ここまで厳重に梱包されたもの、これはもうタダで済むわけがない。大きさとしてはノートとしては一回り大きい感じで、それなりに固いもののようです。
 こんなものまったく覚えがない。なんせ包んであった紙袋が渋谷のケーキ屋の紙袋ですからね、間違ってもあたしがこんなところで買い物をするわけがない。中身が賞味期限が三年前のケーキだったらいろんな意味で泣きますがそれもなさそうだと。
 でもまあ開けないと何が入ってるかもわかんないし、捨てるにも捨てられないわけでして、そりゃ開けましたよ。
 そしたらですね、なんか味も素っ気もないファイルが出てきたんです。
 入っていたのはこれだけで、ほかには特になにもありませんでした。でもね、そのファイルを見て、ああこれは隠すなとこう悟ったわけです。それが何なのかはすぐに思い出しましたね。
 あたしは大学を卒業した後に新卒である会社に就職してそこを辞めて、一年間ほど「二十代半ばのいい年して童貞で無職でパラサイト」というある意味最強の称号を手にしていた時期があり、それを経て今の会社に入っているわけです。これはまあいいでしょう。
 このサイトを長いこと見ていてくれているような奇特な人がどれだけいるのかわかりませんが、そういう人ならなんとなくあの時期の妙なテンションというのは覚えている方もいらっしゃるのではないかと思います。今見てもあきらかにおかしいもんなあれな。
 まあその、最初に入った会社の名前をあえて挙げるようなことはしませんけどもね、そこがもう本気で正真正銘どうしようもない会社でして、いや今はもうすごくいい会社になってると思いますけどもなんていうフォローを入れつつ、これがもう本気でアレだったんですよ。どれくらいかというと入社する前からいつ辞めるか考えてたくらい。
 いやね、入るときはすごいいい顔してた人事の人がなんかいきなり豹変してさ、なんかもう気合だのやる気だのみたいなそういう田舎の暴走族みたいなことを本気で云い出していきなり意味も無く怒鳴ってみたりなんか軍隊みたいな練習させられてみたりした上にいまどきこんな会社あるのかってくらいのガチガチの体育会系で、まあその細かいことは伏せますけども、なんかこうお前らちょっと失敗したら頭から木っ端微塵に砕くぞみたいな勢いで、就職するにしてもそういう会社だけはやめようと思っていたそこにクリーンヒットですよ。しかもこいつらが揃いも揃って人格破綻しててもうほんとに思い出しただけでもサブイボが。
 いやそりゃまあね、会社なんて学校と違っていろいろ仕事をする場ですし、一人一人に対して利益追求が求められるわけですから、そりゃ当然あれですよ、いろいろ大変なことも辛いこともあるでしょうさ。それくらいで辞めようなんてのはちょっと甘いのと違いますかという貴方の意見もこれははっきりとわかる。わかります。
 でもまあそれはそれとしてさしおいたとしてもいろいろアレなところでさ、ほら、言葉だけじゃ伝わらないことってあるじゃないですか。
 いや無理して伝えようと思えば伝えられるけどそれをするとちょっといろいろまずいわけで、どれくらいかと云うと、会社がやってくれた入社前の新入社員顔合わせの会で十人しか新入社員がいないそのうち三人で「いつ会社辞めるか」という相談を本気でしてたくらい。
 こんなとこもうさっさといなくなろうと思ってたんだけども、これがなかなかそういうわけにもいかないわけですよ。
 まああれじゃないですか。入社前の新入社員なんて、不安も抱えていながらいろいろこれからのことに張り切ってたりするわけじゃないですか。
 やる気のパラメータみたいなのがあれば、よほどのことがない限りは不安との打消しで50くらいあってもよさそうなものですけども、あたしの場合は逆に振り切ってましたからね。云うまでもなく愛社精神なんてゼロどころかマイナスですよ、マイナス。温度で云えば絶対零度。これ以上低くならないくらい低くなってた。
 で、入社してしばらくしたら、なんか新入社員研修みたいなのがあったんですよ。ほらよくあるじゃないですかそういうの。研修っちゃ聞こえはいいけどもその実ただの洗脳じゃねえのかこれみたいなそういうあれ。
 で、話はようやく戻るわけなんですけども、その研修のときに使ったファイルだったんですよ、これ。もう二度と思い出したくないというそういう記憶と共に封じ込めたその証だったわけ。なんでケーキ屋の袋に入ってたのかはさっぱりわかりませんが。
 で、その中の一番最初に、「あなたの夢を書いてください」っていう項目があったんですよ。
 なんかね、夢というのは実際に文字にすることでより自分の中で確固たるものになって実現する可能性が高くなるのだみたいなそういう脳味噌に花が咲いてるとしか思えないようなあれなわけ。そんなことでほんとに夢が適うならあたしなんかとっくに14歳の巫女さんとお付き合いがはじまってっもよさそうなもんだろ。
 まあね、普通の会社員なら、仕事に関係することというか、例えば何だろうなあ、「より仕事を充実させる」とかそんなようなことを書いたりするもんなんだと思うんですけども、もうさ、こちとら辞める気満々じゃないですか。会社に於ける目標なんかこれっぽっちも無いわけですよ。むしろ「一刻も早く辞める」のが目標でしたからね。ありえない。
 でもそこはあたしだって大人ですからね、さすがにそこまで大人気ないことは書きませんよ。どうせ誰に見せるでもなし、書くだけでかなうならと「恋人が出来ますように」って書いたね。もう今とぜんぜん変わってない。
 しかも別に短冊じゃないんだからそんなお願い口調で書く必要全然ないんだけどもなぜかそういうあれになるのだな。
 なんか五分くらい時間与えられてやたらでかい枠の中に書くようになってたんだけど、あたしは30秒くらいで終わっちゃったもんだからあとはどんな恋人が欲しいかを詳細に書いてたわけですよ。
 そしたらさ、講師の人がな、時間が終わったらなんか「それじゃあ各自それを一人ずつ読み上げてください」とか云うのさ。
 それでもみんな真面目だから、っていうかそこまで愛社精神マイナスな人間なんてあたしくらいのもんだからさ、みんな普通のこと書いてるわけ。「この部署は今では売り上げが低いですが**さんの下でより大きい商材を扱えるようになりたい」みたいなこと云ってるの。もうみんな泣かんばかりの勢いでさ、大変なことになってるわけ。
 そこへ来て「彼女ができますように。14歳のセミロングが似合う胸がちっちゃいのをちょっと気にしているような田舎町に住んでいる巫女さんで趣味は散歩、まわりの人みんなから愛されている明るい子でいつも元気いっぱい。でも実はちょっぴり泣き虫」ですからね。マジで頭悪い。っていうか本気でありえない。
 バカ正直に読み上げたら辞める辞めないの前に即クビですよこんなものは。いやまあクビは望むところではあるんだけどもさすがにこの環境でいきなりこれを読み上げるほどあたしの神経はぶっとくないですよ。なにが「ちょっぴり泣き虫」であるのか。
 そりゃもうね、あたしの番が来るまでに必死にでっちあげましたよ。もう何云ったか忘れたけどものすごい勢いで作ったね。なんか講師の人感動してた。こっちはそんなこと微塵も思ってないからどうでもよかったんだけどもここまで自分のポリシーをまげて嘘を云ったことに関しての後ろめたさがなかったわけではないかなかろうじて。
 結果、残ったのはこの理想の恋人像が書かれたファイルですよ。研修が終わった後も「これはずっと大切にしておいてつらくなったときに見返してください」みたいなこと云ってたけどこんなもん辛いときに見たら死にたくなるだろどう考えても。
 あとはまあこの会社に関しては、就職説明会のときに渡すパンフレットに「先輩社員代表」として出てくれみたいなこと云われて、「就職活動はよく考えてやらないと絶対後悔する」みたいなどう考えてもお前この会社に入って後悔してるじゃんみたいなことを書いてそれがそのまま掲載されたりとかいろいろあるわけなんですけども、無事二年ほどで辞めまして今に至るわけでございます。ちょうど就職活動中の学生さんなんかも多いとは思いますけどもよく考えてやらないと後悔するからな。
 そのファイル?即捨てましたよあたりまえじゃないですか。二度と見られないくらい折り曲げて捨ててやったわ。
 あと何よりあれだよ、あれだけ詳細に書いたのに14歳のセミロングが似合う胸がちっちゃいのをちょっと気にしているような田舎町に住んでいる巫女さんで趣味は散歩、まわりの人みんなから愛されている明るい子でいつも元気いっぱい。でも実はちょっぴり泣き虫な子がいまだに彼女にならないじゃないか。嘘つき。

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