08/20 「アウトローのおはなし」

 とは云うものの、やっぱり誰にでも、「世間に逆らうことがかっこいい」って思うことってあるじゃないですか。いわゆる中二病というやつで、これが悪化するとある程度の年齢になっても「若い頃は俺もやんちゃでさあ」なんて云いながら自分がいかに凶悪非道な存在で地元の暴走族の頭と知り合いだったんだよね、くらいのことをコミケで買ったなのは抱き枕とTYPE-MOON海水浴セットあたりを片手に語ったりするようになって実に冷ややかな目で見られたりもするわけでして、いえまあこれは実際にコミケ会場で見かけた光景なので実にアレな感じではありましたがそれはともかくまぁそりゃ現実に過去に暴走族とかそういう存在で現在は秋葉原通いが趣味な人も当然いるでしょうからまあそれはそれですけどもたいていはお前それはないだろうみたいなあれだったりするわけですよ。
 なまじ今やってる高校野球なんかを見ておりますと、あんなのは実にそういうアウトローな雰囲気とは逆ベクトルのあれでありまして、みんながみんなマジメというか穢れのひとつもありません僕たちうんこしませんみたいなそういうようなあれを外部が求めているような雰囲気があり、乱闘も審判への抗議もない綺麗な野球を見ておりますとなんだかこういろんな意味で辛くなってくるわけで、まあ確かにアウトローに憧れたくもならあねえ、というようなあれではあるわけですがそれはともかく。みんなあれ見て健全だと思っておるのかほんとに。
 とまれ、そういうアウトローな雰囲気というものにあこがれる人というのは存外に多いわけでして、そういう人を見たりしてちょっと苦笑したりしてると、テレビなんかつけてみれば「ちょい悪親父」なんて云ってそういうのを持ち上げたりもしてるわけでもう何がなにやらな感じでして、なんだもう世の中全部中二病か。何この。何?
 そういうあれであるので、こういう「武勇伝」を語る人というのはまあ世間一般どこにでもいるもんなんですけども、なんかもうそういうのって格好悪いなあと思うんですよ。確かに自分の人生に物語がないのは悲しいかもしれないけれども、だからってやんちゃをやっていたことがイコール格好いい、でいいのかと。なんかあれですよね、普段いい子がいいことをしても何も云われないけど不良がちょっといいことをたまたまするとすごくいい人だと評価される法則みたいなもんで、平々凡々な人生を送ってきたあたしとしては、平凡なことはそれはそれでよいじゃないかとこう云う風に思うわけですよね。
 あたしの場合、確かに中学二年の頃にものすごくアレな次期があったんですけども、それは別にすごいグレててとかそういうあれではぜんぜんなくて、確かに思い返してみればこの時期に付き合っていた友達関係はそういうちょっといわゆる不良な感じの人が多かったなあという気はするけど別にあたし自身がそういうようなあれだったかと云えばぜんぜんそんなことはないわけでして、なんていうかこの時期は考えることを放棄してたというか、まあとにかくすっごいダメな時期だったんですよ。ダメなのは30間近になって女の子の手も握ったこともない現状でも変わらないんですけどもねほっといてくれそんなこと。
 ただ、それも別に人に「やんちゃやっててさあ」というような自慢ができるようなことでもありませんし、ただただ恥ずかしいだけの記憶に過ぎませんのでそれを美化するつもりもないしそもそもあれをどうしたら美化できるのか想像もできないわけなんですけどもそれはともかく、そういうような、自分に対しての物語を作っている人を見るたびに思い出す人が一人いるんですよね。
 昔あるチャットルームに出入りしていた頃に会った人なんですけど、この人がなんと云うかすんごい人生の人なんですよ。もうね、話すたびにどんどんすごいことになってくのね。最初は「学校ではちょっとしたワルだった」くらいのところから始まってたんですけど、次第に話がエスカレートして、「タバコを吸い始めたのは5歳の頃」「酒やタバコじゃ物足りなくて薬物に手を出しかけた」「補導だけで10回以上」「地元の暴走族に入ってて抗争で鼻を複雑骨折」「今も服装はパンク」など、お前はどれだけ特攻の拓なんだ、というようなあれだったわけです。
 ま、実際に会って話してるとなかなかこうはいかないわけですよ。そこまで悪の限りを尽くしてれば必ずその傷跡が残ってるはずですからね。でもチャットルームですから。相手の姿なんか見えないわけでして、それを信じてる人も何人かはいたようでした。あたしはさすがにそれはないだろうと思いながらも、そこまで云うならきっと多少はアウトローな生活をしてきた人に違いない、くらいに思っていたわけです。そうこうしてる間にも彼の武勇伝はどんどんエスカレートしていって、今の仕事に就く前は暴力団にスカウトされそうになったって云ってました。どんだけなんだと。
 まぁね、今になって考えてみれば、絶対そんなことないと思うんですよ。でも逆にですよ、そこまで世間一般で云うところの不良を極めた彼が、どうして今現在こうして「ときめきメモリアル」のチャットルームにいて僕のお気に入りは古式さんです、とか云っておるのか、というのはこれは実に深いところにあるわけでございますね。どうしてそういうことになったのかと。間違ったところから別の意味で間違ったところを極めてどうするのかと。古式さんのちょっと大人しくて控えめで清楚なところが好きだって云ってた。いやまあ気持ちはわからなくは無いのだけれどほんとにそれでいいのか。
 チャットルームってなぜかこうあるときいきなり誰も来なくなるというものではなく、徐々に人が一人抜け二人抜けしていって最終的には誰も居なくなるという性質のものですから、ここも次第にそういう感じで過疎化していき、オフ会とかそういうあれで彼と実際に会う機会というのは無かったわけですけども、もし機会があれば一度会ってみたかったなあ、とこう思わないではないんですよね。だってもし仮に彼が本当にそういうあれならばあたしは全面的に間違っておりましたとこういうことなわけですし、そうじゃなければそうじゃないで安心できるわけですよ。何を安心するのかはさっぱりわかりませんけれども。
 ただ、きっと、仮にオフ会とかがあって彼と出会うことができたとしても、あたかも彼女がいない人が嘘彼女をでっち上げるがごとく、「今はちょっとパリに絵の勉強の留学に行っちゃってさあ」「彼女、写真嫌いだから俺彼女の写真一枚も持ってないんだよね」みたいなもう見ていて微笑ましいというか涙ぐましいことになるに違いない。それはそれで。ただ、そこまで云いきってしまった彼の過去をどのように清算するのか、それが気になって仕方が無いわけです。もう完璧に嘘だって決め付けてるな俺。いや嘘だろどう考えても。
 なんていうすっかり忘れていた事実を、コミケの途中にそんな風景を見て思い出しましてね。ああ、人間、いつの時代でもそういうものなんだなあ、と。
 ま、でも、高校野球よりは健全だと思うけどね。まだ云うか。

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