03/26 「修学旅行のおはなし」

 とは云うものの、修学旅行なんですよ。修学旅行に行きたいのです。
 いやね、この間奈良に行ったときにそんなことふと思ったんですよね。奈良と云えば修学旅行。奈良公園で鹿せんべい片手にはしゃげるのなんてまさに修学旅行の醍醐味というか、修学旅行でしかできないわけですよ。これがあれだ、ある程度年行ってだ、あたしが一人で旅行に行って鹿にせんべいあげててごらんなさい。明日死ぬ予定の人なのかなあと思われること請け合い。
 そういうことからすればね、修学旅行はやっぱりものすごく学生時代においては特殊なイベントなわけでして、クラスでの班ごとに清水寺へ行ってとりあえず飛び降りる真似をしてみたり、三十三間堂に行って自分そっくりの仏像を探そうと血眼になってみたり、金閣寺で池をバックに写真を撮ろうとして柵に座ったらバランス崩して池に落ちてみたりできるわけじゃないですか。あのときの君の顔は決して忘れません。
 わかんないけれどもですね、修学旅行の最大にして最高の特徴は、ここに女の子が入ってくることだと思うんですよ。そういうことからすればあたしの高校時代なんてのはもうこれ話にもならず、男子校だった上に一応名目としては「スキー教室」というようなあれだったんですけれども、その実態は経験者だろうが未経験者だろうが4日間だけスキーを泊り込みで練習させて、最後の日には滑れるようになってようがなってなかろうがかまわず蔵王の山頂から麓までスキーで滑らされるというスパルタ合宿以外の何者でもなく、あたしなんかはそれまでスキーなんてこれっぽっちもやったことはなかったので「経験なし班」に入れられたものの普段運動神経鈍いくせになぜかスキーだけはそれなりに滑れるようになったのでよかったんですが同じ班だった結局最後まで滑れるようにならなかった一人がいつのまにかいなくなっていたのでどうしたんだろうと思っていたらコースから外れて道の隅っこに落っこちていたという苦い経験のあるあれしかないのでどうにもなりません。あれは爆笑した。
 いや、女の子と旅行なら別に修学旅行じゃなくても行けるじゃないとあなたは云うかもしれない。違うのです。修学旅行はやっぱり修学旅行でしか得られぬ何かなんですよ。のべつふざけてるところで、班の一人真面目な女の子が「遊びにきてるんじゃないんだからね!」なんて怒ったりする。道に迷ってちょっと頼りになるところを見せたりする。自由行動なんて云って、こっそり女の子と二人抜け出して初夏の嵐山あたりを無言で手だけ繋いで歩いたりする。で、そこで入った茶店で団子とか食べながらちょっと空を見上げたら、真っ青な空に初夏の夕方に静かに聞こえるヒグラシの鳴き声。やっぱりさ、そういうのあってこその修学旅行じゃないですか。たぶん、あたしみたいな男子校ライフを送った上にナチュラルに不細工だった俺とか以外はみんな経験してることだと思うんですよこれ。
 というわけでですね、高御さんは修学旅行に行きたいんですよ。なんかこう、甘酸っぱい恋の思い出をミックスした旅行がしたくてたまらないわけです。わかんないですけども、なんていうかな、普段学校で一緒にいるあの子が、学校じゃない場所で見るとなんだかすごく魅力的に見えたりとかそういうあれじゃないですか。京都とか奈良とか、もう行き飽きたよってな人もたくさんいるでしょうけれども、やっぱりそういう修学旅行みたいなそういう気持ちで行くとまたぜんぜん違うと思うんですよね。いや、あたしとかはまだ今でも京都とか行くとわくわくしますけれども、またあの頃は違ったわくわくがあったと思うのですよ。いやまあもちろんあたしが東京住まいだからであって、また関西とかに住んでる方々はまた別のところに行くんでしょうけれども、やっぱり関東圏の人間のイメージからすると、修学旅行というのは未だに京都なわけです。
 確かに中学校の頃は修学旅行にも行きましたけれどもね。でもね、びっくりするくらい恋愛方面の思い出が残ってないんだよねまたこれが。いやまあそのころ好きだった子とクラスが違ってて盛り上がるにも盛り上がれなかったという事情はもちろんありましたけれども。中学校時代は「自由行動」みたいなのはなくて、基本的にはすべて班行動だった記憶があるんですけれども、それだって同じ班の女の子となんかあったっていいくらいのもんじゃないですか。もうなんにもなかった。ていうか、女子の一人はもういきなりなんかこうもう昔の金八先生でしか見たことねえよみたいなザ・不良みたいなのでさ、すっごいロンスカなの。いまどき。いやいまどきってももう15年近く前ですけど。15年前でもあれはなかったぞいくらなんでも。なんであんなことになってたんだろうな。もうこのあたりからあたしの修学旅行ジ・エンドですよ。
 あのよくある「女子の部屋に夜に遊びに行く」とかもものすごくやってみたいんですよ。わかんないけど女子の部屋でトランプとかすごいしてみたい。別にそれで誰かといい感じになるとかそういうのはどうでもいいんですよもう。ただ夜にクラスの女の子と一緒に遊んだりするのって、普段できないだけにすごくどきどきしたりするじゃないですかたぶん。「久遠の絆」なんかでもやっぱりみんなでこう夜に同じ部屋でトランプなんかやったりして、ああいうのやってみたかったなあと思わないではないわけなんですがどうしてあのとき俺は。
 ほら、当時からどちらかといえば女の子と縁が無い組に属していたあたしたちがそんな思い切ったことなどできるわけもないわけでして、ただひたすら夜中のセンチメンタルな気分に合わせてみんなで誰が好きだなんだと悲しい恋愛トークを繰り広げるという今考えれば死にたいようなことをやっていたわけですよ。
 なんでなのかさっぱりわかりませんが。これもう凄かった。まず男3人くらいでベランダに出るの。そうすると、当然眼前には夜の京都の町並みが見えますわな。これはこれでまあ結構なんていうかいいもんでして、単品でセンチメンタルな気分になったりするのはまあ今考えてみてもわからないではないんですけれども、そこですっごいマジに恋愛について語り合うの。俺、なんとかさんが好きなんだけどさ、なんであの子なんだよ、いやだって前にすごくやさしくしてもらったしさ、それならいっそ告白しちゃえよ、でも彼女はきっと俺のこと、みたいなもう非生産的というか今考えればもっとなんていうか修学旅行の夜っていろいろあんじゃねえのかみたいなことしてたわけ。実際もうひとつの部屋の男どもはそろって女子の部屋で怪談話で大盛り上がりしてたらしいぞ。なんだんだこの差は。もうこの時点でこの今のあたしの運命決定か。
 あとね、その中の一人がなぜかエロ本を大量に持ってきてたんだけど、これがもうどれもこれもスカトロみたいなすごい特殊な趣味のやつでもうどうコメントしたらいいのかすごく困った記憶はあるな。それでもきっとあのときはあのときなりに楽しかったんだよ、うん。だからいいんです。不満はないです。ないはずです。ないはずなのになんでこんなに寂しいんでしょうね。
 なんかさ、この「同じ部屋でたくさんの友達と寝る」っていうのもたぶん楽しかったんだと思うわけですよ。別にそれは今でもできるんだけど、あの頃ってなんかそういうの滅多にできることじゃないからっていうので結構がんばって起きてたりしたじゃないですか。先生が見回りにきたときだけ寝たふりしてみたりとかして。それでまた毒にも薬にもならないようなことを真っ暗な部屋で話したりとか、そういうのがすごく楽しかったよなあ、というようなね。今この年で同じような状況になっても先生はまず見回りにこないし、夜中とかだとみんな問答無用で寝ちゃうもの。大人だからあたりまえなんですけど。そういうの考えると、ああいう雰囲気そのものが修学旅行ならではのものだったんだなあっていう気がしますさね。
 あと、別のクラスだった不良のM君が窓から枕投げ捨てたり自動販売機蹴っ飛ばしたりえらいことになってた。もう先生も諦めムードだったんだけど考えてみれば枕も自動販売機もホテルのだろあれ。いいのかそんなことして。そもそもなんであんなに荒れてたんだ彼は。今になってみてもさっぱりわからねえ。
 こうね、あれなんですよ。今になってすごくもっとこう絵に描いたような学生イベントがやってみたかったなあっていうのがいくつかあってですね、そのひとつが学園祭と修学旅行だったんですよね。学園祭は大学でもできるけど(あたしはできなかったけど)、修学旅行は高校生くらいまでじゃないとできないわけでして、そう考えるとですね、ものすごく大切な時期を男子校で過ごしたものだなあというのをしみじみ感じるわけなんですけれどもそれはともかく、やっぱり「自由行動のときどうする?」みたいな心配とかをすっごいしたいんですよね。わかんないけどあれなんだろ、「修学旅行前はカップルがよくできる」みたいなジンクスとかあったりしてもうなんか幸せムード一色になるんだろどうせ。ちくしょうなんで男子校なんか。
 というようなそんなことをですね、この間、奈良の飛鳥山公園なんかを歩きながら思ったわけですよ。いや、別に修学旅行の人が他にいたではなし、そもそもこんなとこ修学旅行で来るのかどうかというとかなり怪しいものではあるんだけれども。わかんないけどさ、自由時間だからってちょっと遠くまで足伸ばしてこのへんで、っていうのはすごく悪くないね。たぶん高校生の頃にそんな人生送ってたら今ごろ女の子とキスくらいは普通にできるようになっているに違いない。もう基準が安っぽいこと。
 しかしまあ今から修学旅行に行くにはそれこそ学校の先生になるくらいしか方法が無いわけでして、それだとなんか違うなあという気が凄くするわけでして、さらに云えばこんなの学校で先生になったらえらいことだよなあということくらいはわかってるわけでして、もう二度と適わぬ夢なのだなあと思うと悲しいことこの上ないですね。
 ここんところどうも寝つきが良くないらしくて、よく夢を見るんですよ。夢だから当然舞台はいろいろなんですけども、凄いなあと思うのはだね、ほぼすべてにおいて自分の年齢設定が14〜17歳くらいまでの時期に集中してるんですよ。人間関係は現在のものを引きずってたりもするんですけど、基本的な設定がすべてそのへんなんですね。しかもまたそれがあれだ、目がさめてからの残念感の強いこと。どうも高御さん、そのへんの年齢にやり残したことがたくさんあるのだというのを無意識のうちに感じているらしいです。いや、無意識じゃなくても普通に感じてるわけなんですけど。なんかもう寿命が50年縮んでもいいからあの頃に戻してくれねえかな。どうせこれから先、ときめくような経験もないだろもう。

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