とおりゃんせ(Crime)

 冬山・山荘。いかにも殺人事件が起きてくださいといわんばかりの雰囲気でやっぱり謎の殺人事件が起こり、主人公がそれを解決していくというのがストーリーの主軸になります。そういう意味ではチュンソフトの名作「かまいたちの夜」と同じだと言ってもいいでしょう。向こうは拒否するでしょうが。
 実はこれ、それまでまったくノーチェックで、タイトルすら知りませんでした。たまたま見たデモのあまりのかっこよさとあまりの猟奇的な雰囲気に俺の中の猟奇メーターはレッドゾーンに突入し、次の日には店でレジに持っていっていました。
 そのとき確かに、「新作」のコーナーにあったにもかかわらず、定価の半額以下で叩き売られていることに、俺の中のデンジャラスセンサーが反応しなかったわけではありません。
 しかしそんなものはあのデモのかっこよさが否定してくれています。こういう推理ゲームは割と好きだし、なによりパッケージには燦然と輝く「I've Sound」の文字。あのデモの猟奇的雰囲気はPowered by I'veだったわけです。たとえ失敗してもこの曲とオープニングデモに金を払ったと思えばいいやと思いました。
 どうせ二本買っても定価に届かない値段だし。

 そんなわけで家に帰って早速箱を開けると、いきなりマニュアルがないのに驚きます。最初は落丁かと思ったのですが、どうせマニュアルなんか見ないしどうでもいいかと思ってインストール。できあがったヘルプファイルをちょっと見ると、封入物に「マニュアル」がありません。つまりもともとこういう仕様らしいです。
 まあ確かに合理的といえば合理的かも知れません。経費節減かな?なんてことは思っていても口に出してはいけません。
 まあそれはそれとしてゲーム開始。起動して出てくるメーカーロゴ。マウスに手を触れないでしばらく待ってみます。
 なんのためかって?勿論、あのかっこいいデモを見るためですよ。ああいうのはたいていオープニングでも同じデモが流れるもんですから。あのデモを見て買った以上、あのデモを見ないことには始まりません。
 曲は流れます。画面にはタイトルが出ています。「最初からはじめる」「ロードする」。一向に画面が変わる気配はありません。おや?と思ってとりあえずゲームをはじめてみます。もしかしたら途中までゲームが進んだところでデモが……流れません。どこまでいっても流れません。
 この時点で肩透かしです。
 まあでもそれはそれで仕方がありません。ゲームを進めていくことにします。
 主人公の名前はデフォルトのまま。ドライブに出かけた主人公とヒロインの女の子。山道で突然車が故障します。大荒れの天気の中、やっとの思いでたどり着いた山荘。ここが舞台です。

 さて、サスペンスものというのには、いくつか欠かせない約束があります。
 物語構築において、約束と言うのは破ってなんぼのところもあることはありますが、サスペンスものの場合は、あくまでも読み手に犯人が誰だか最後までわからなくするため、このシバリがかなりきついものになります。また、物語を盛り上げるために必要最低限のお約束も、サスペンスものでは必ずなくてはなりません。
 たとえばその一つ目に、殺人事件が起こるのは、主人公と殺される人を含めたそこにいる人全員とそれなりに仲が良くなっている必要があります。探偵ものだと別ですが、何の変哲もない主人公が殺人事件の謎に挑むような話の場合、これがないと殺される人とそこにいる人々との関係、ないしは調査に主人公が乗り出す動機付けが弱いものになってしまいます。
 ところがこのゲームの場合、そんなものはまったくありません。いきなり死んでます。
 でも別に顔も名前も知らない人なので、こちらとしては「ああ死んでるなあ」で終わりです。
 この時点で山荘は密室状態なのですが、山荘内にいる人も二人しか出てきていません。これで盛り上がれというほうが無理というものです。
 さらにこの作品、伏線がありません。普通の推理ものだと、メインのストーリーとは別にそれに関わるヒントを何気なく提供したりする伏線があるのですが、これにはそんなものはありません。途中でルートは二つに分かれますが、その中ではゴールへ一直線です。だからトリックも犯人もすごく退屈になってしまっているんですね。これがなにより盛り上がりに欠ける原因でしょう。オープニングに出てくる思わせぶりな般若の面や、「とおりゃんせ」の歌詞が「天神様」から「鬼神様」に代わっていることなんかがどう絡んでくるかとどきどきしていたのですが、これがまったく絡んでこないというのもある意味では凄いです。そもそも、タイトルの「とおりゃんせ」自体、最後に無理矢理出してみましたという感じがするだけでそれ以上の意味はありません。
 というよりも、そもそもトリックが「小学*年生」とかについてくるおまけの推理ブックみたいです。確かに解りやすくていいんですが、解りやすすぎです。特に片方のシナリオの密室の謎なんかはある意味で笑うしかありません。確かに推理小説のトリックに対するアンチテーゼといえなくもないですが、わたしにはそこまで言う度胸はありません。

 まあしかし、この作品の特徴は、とにかくその主人公の命の軽さでしょう。
 これはもう凄いです。洋モノのパソコンゲーム並みの命の軽さでとにかくマッハで死にます。しかもそこには根拠とか理由とかそういうものがありませんので、とにかく死にます。死んだ理由は「死んだから」としか説明できない潔さです。在る意味ですがすがしくすらあるでしょう。とにかくちょっと選択肢を間違えたら死亡。女の子とえっちしたら死亡。別に選択肢を間違わなくても死亡。とにかく死ねというメッセージでしょうか。これだけ簡単に死ぬとこの主人公が人間なのだと言うことすら忘れてしまいます。これに比べたら、ほとんどのエンディングが、事件を解決したのに犯人がわからないで終わることとか、露骨にシナリオのつながりがおかしい部分があることなんてもはやなんでもありません。
 その死に方もさまざまです。恋人に刺されて終わるとか、突然後ろから刺されるとか、そういうサスペンスもののお約束的死に方もありますし、犯人だと疑われてそのまま殺されるとか、まあとにかく列挙していったらきりがないくらいあります。しかし一番センセーショナルな死に方は、「なんだかよくわからないけど寝たら死んだ」というやつでしょう。別になにか薬を飲まされたとかそういうことではなく、ちょっと一眠りするわと眠ったら「そのまま目が覚めることはなかった」で終わりです。
 最初はなんで終わったのかわからなかったくらいです。
 もう一度やり直してみてやっと、あ、なんか死んだみたいだというのがわかりましたが、もちろん理由なんかわかりません。
 殺人現場に理由なんかいらん、ということでしょう。とにかくこの主人公の弱さは一軒の価値アリです。「スペランカー」並みです。
 確かにたかが一学生ふぜいが、プロの警察官が見ても犯人がなかなか特定できないようなところで簡単に犯人を当てられるはずがなく、そんなことに首を突っ込めば殺されるのはまあ至極当然なのですが、だからと言ってそれをゲームで実践してしまうとこれはそもそも物語が破綻してしまうという見本ですね。
 こんなんですから、ゲームを全部終えても一晩潰せば簡単にコンプリートできます。シーンと合っていない音楽といろんな意味で笑うしかない演出を楽しみつつ、シナリオコンプリートはわたしは5、6時間といったところでしょうか。メインをクリアするとおまけシナリオというのが出てきて、これなんかを見るとそこからさらにひねってある発想におおっ、と唸らせられる点もありますが、どうせならそれを本編に持ってきて欲しかったところです。
 エッチはかなり濃いです。声もちゃんとありますのでその濃さに磨きをかけます。なんせエッチシーンのほうが犯人暴露の説明時よりもはるかに長いくらいですからそのへん期待した人は問題なしでしょう。ただ、エッチシーンのときに「とおりゃんせ」をアカペラで流すのはちょっとどうか。あの曲をバックにあれを見ながら一人えっちが出来る人がいたらその人はプロです。
 よくわかりませんが。

 そしてもう一つ、このゲームの大きな特徴があります。
 それは「誤植」。これもなかなかです。
 数が多いのはもちろんですが、それにとどまりません。他のゲームとは誤植の質からして違います。
 普通のゲームの誤植というと、たとえば「確率」を「確立」と書いたりとか、「橋」を「端」と書いたりとか、そういう変換ミスがきわめて多いわけですが、この作品はそんな生易しい誤植はしません。それ以前に日本語としてコワレた誤植が多いのです。「いっぱい」を「いぱっい」と書いたりとか、「パスワード」が「パスワート」になっていたりとか、「やっぱり」が「やぱっり」だったりとか、デバッグしないでそのまま出しちゃったのかなあ?と思うこと請け合いです。先のシナリオのつながりがおかしい部分も含めてアップデートファイルは出ていないようなので、そのままやりましょう。真剣なシーンだろうがなんだろうが誤植は容赦なく襲ってきますので注意してください。

 真面目な話、文章のテンポはめちゃくちゃいいんですよ。ついつい先を読みたくなる文章のレベルはかなり高いでしょう。ただ構成がそれに追いついていないというか。音楽も単独で聴けばいい曲だし、歌は童謡の「とおりゃんせ」をより不気味にアレンジした曲でこれは本気でよく出来ています。選んだ題材勝ちといったところかもしれません。声も無理がなくて自然だし、そういう部分ではほんとにいい作品なんですよ。
 もしかしたら時間がなかったのかなあ?と思う部分もいくつかあってそのへんになにかいろいろこの作品がこのコーナーに登場することになってしまった理由がある気がしないでもないです。

 まあ、だからと言って自分の分身である主人公がやたら死ぬのはどうかと思いますが。

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