最速!族車キング -仏恥義理伝説-(ディースリー・パブリッシャー)

 ちょっと何かネジが緩んでしまったゲームというのは大きく二種類に分けられまして、まずひとつは、最初はコンセプトはしっかりした方向を向いていたのに、作っていくうちに予算がなくなった、スタッフが逃げた、そもそもスタッフに才能がなかった、そのすべてがなかったなどの理由によりゲームそのものがあらぬ方向へと突っ走っていったタイプです。
 これはまあよいでしょう。いわゆる世の中にある「クソゲー」と呼ばれる代物はほぼすべてがここに当てはまります。
 クソゲーで名高い『デスクリムゾン』や『修羅の門』なんて作品はみんなおおむねここに類すると云えますでしょう。
 そしてもうひとつのパターンは、そもそもコンセプトからしてまったくあさっての方向を向いている作品です。
 これはさらに二種類に分けられまして、ひとつはスタッフが意図的にそれを狙ってやっているもの、そしてもうひとつはスタッフは思いっきりまじめであるがゆえに全力であさっての方向へ猛ダッシュしているものの二種類があります。
 前者はまあよいでしょう。『超兄貴』や『ザ・ガッツ!』なんて作品郡はここにあると云えます。「わかっている人だけ楽しんでくれ」というあれですね。
 決して一般受けはしないので、世間的には「クソゲー」扱いを受けることは多いですが、厳密にはこの手の作品はクソゲーではないとわたしは思います。だって、狙ってるんですから。もちろん、狙っててさらにクソゲーになることというのはままありますけど。
 問題なのは後者です。実は、今までの「トンデモ系」ゲームというのはほぼすべてがここに当てはまります。
 スタッフはおそらくまじめに面白いものができると思っているのです。で、まじめに作って、まじめにそのコンセプトに忠実な作品が出来上がるわけですが、そもそもコンセプトがまったくあっちを向いているのでどうしようもありません。
 140キロのストレートを、走者のいないセカンドに向かって牽制球として投げるようなものです。

 頭がやたらと長くなりましたが、そんなわけで今回は『最速!族車キング-仏恥義理伝説-』です。
 もうタイトルからして果てしなくネジが緩んでいます。内容は竹ヤリデッパにヤンキーホーンなどという、一般人にはまず縁のないパーツ類を駆使して愛車に取り付け、レースをしてしまおうというゲーム。
 もうコンセプトが誕生したときから何かに片足をとられたような一作です。
 これを買ったとき、実はわたしは『アウトモデリスタ』を買いにゲーム屋に行ったのですが、これを見た瞬間にもうダメです。メロメロです。恋かも知れません。
 しかもシンプル2000シリーズ。こんなものが2000円も……いやいや、たったの2000円で買えてしまうのです。これをお得と云わずしてなにをお得と云うのか。もう衝動買いです。
 「仏恥儀理」のカッティングシートにサイドから突き出した竹ヤリマフラーがイカしすぎる紫メタリックのナナイチ型マークIIパッケージイラストからして、間違っても『グランツーリスモ』を買いに来た一般人が手にとることはないであろう禍々しい雰囲気が漂っていてたまりません。
 家に帰り、早速ゲーム開始です。
 ペラ紙一枚のマニュアルにやや不安を覚えないではないですが、始める前から気合は十分。もう気分はどシャコのニッパチマルを転がしていたワニブチさんです。いや別にわかる人だけわかってくれればいいです。ハードラックとダンスっちまったんですよ。
 まずはタイトル画面。
 なんつっても、プラットホームは『ファイナルファンタジー』などで流麗なムービーや荘厳な音楽を見せてくれたPS2です。タイトルでもさぞかし気合の入ったムービーや音楽があることでしょう。やっぱり音楽は銀蝿系かなあムービーは実写かなあ警察24時みたいだなあなんてことを思い……流れません。今日び、Win95で動くパソコンのエロゲーでもムービーくらいはちゃんとあるものですが、ありません。「はじめから」「続きから」のメニューが選べるのみ。凄いです期待通りです総長!
 ドキドキしつつスタートボタンを押します。「やんのかコラァ!」という気合の入ったお兄さんの声がエコー付きで聞けます。平和だなあ日本って。
 「はじめから」を選ぶと、次に出てくるのが「全国制覇」「喧嘩上等」「武勇伝」「俺様仕様」というメニュー。
 もう個性的すぎてなにを選んだらいいのかさっぱりわかりません。ここで仕方なくマニュアルを見てみますと、「喧嘩上等」というのは2P対戦、「武勇伝」はタイムアタックのランキング、「俺様仕様」はキーコンフィグなんだそうです。通常のゲームは「全国制覇」。わかんねえってこんなもん。
 そんなこんなで、「全国制覇」を選択。すると次は「車選択」です。
 ウリは12種類の中から車を選べること。選択できる車は、最初はノーマルでこつこつと仕上げていくというのではなく、既にどれも常人のセンスでは理解不可能な仏恥義理仕様に改造されていますので、気合の入っていないフニャチン兄さん姉さんにもバッチリだね。
 で、『グランツーリスモ』や『アウトモデリスタ』はもちろん、バイク版グランツーリスモ『ライディングスピリッツ』など最近のレーシングゲームでは車の名前は実名というのがごくあたりまえですが、なんせこの作品、コンセプトがコンセプトですから、実名などしようものなら車メーカーが見たら怒り出すかもしれません。
 もしくは実際に断られたのかも知れませんがまあ無理もないことでしょう。
 許可を貰おうとメーカーに電話をかけて、「車に竹やりデッパを装着して相手をブチ抜くゲームで」なんて云った瞬間に普通は電話を切られます。
 そういうわけで、車の名前は実名ではありません。それでも名前の一文字を変えるなんていう気合の入っていないことはしません。「弐式」(マークII)、「達磨僧」(ダルマセリカ)なんていうまさにそれ風になったではありませんか。怪我の功名というヤツですね。それでも「倭乃国」(スカイラインジャパン)は分かりにくいと思いますが。
 しかもこれはレースゲームである前に「族車」ですから、車種の幅も広いです。
 暗雲(クラウン)や苦麗須汰(クレスタ)、世怒愚露(セドリック/グロリア)なんていうまず間違いなく『グランツーリスモ』には登場しないタイプの車種も選べます。
 280馬力のソアラと100馬力そこそこのケンメリじゃ性能がまったく違うんじゃないかと思う向きもありましょうが、性能はどれもほとんど変わらないので趣味で選んで問題ありません。どれも選びたくないというのはまあこのさい置いておきます。
 なんせわたしは生粋のスカイライン好きですから選ぶのはスカイラインで決まりでしょう。選べる車全12種類のうち3種類が年代違いのスカイラインなのは、やっぱりこの車がその手のお兄さんお姉さんたちに人気があるということなのでしょうか。
 選んだのは「歴代もっとも売れたスカイライン」こと「ケンメリスカイライン」です。このゲームでは「拳米利」ですか。
 ちなみに名前は好きなように変更できますので、それが嫌な人は実車と同じ名前に変更することも可能です。
 早速レース開始。ちなみにレースは「タイマン」です。相手との一対一でのバトルですね。なので、左上に「順位」が表示されていますが、基本的に「一位」と「二位」しかありません。意味あるんでしょうか。

 このレースなんですが、なんというのでしょう。一言で云えば、ハコ車のレースゲームではおそらく現在最高峰であろう『グランツーリスモ』から、「Real Driving Simurator」の要素をすべてさっ引いた感じでしょうか。
 なんだかノスタルジーに浸ってしまいそうな懐かしい往年のレースゲームの操作感です。驚くくらいスピード感がなく、アクセルを抜いたりブレーキを踏んだりすると唐突にリカバリー不能なくらいスピンします。
 エンジン音も実に哀愁が漂う音で、何かに似ているなあと思っていたら、なんてことはない、『電車でGO!』の嵯峨野線ディーゼルカーでした。
 自車と敵車以外でコースを走っているのがトラックと鉄仮面型スカイラインだけというのも、光景としては実にシュールかつアナーキーです。
 基本的に、操作に慣れるまではまず間違いなくコーナーを曲がることもできません。ある程度慣れても、今度は「タイマン」で勝てません。こんなんでは総長に顔向けが出来ません。誰なのか知りませんが。
 こうなれば、頼れるのはチューニングです。
 「ツッパリモータース」という、まず間違いなく警察の手が入りそうな名前のチューニングショップを訪れ、項目を覗いてみましたが、エンジンパーツやタイヤなどはまだ持っているポイントが低くて交換できそうにありません。
 ちなみにポイントは、相手とのレースである「タイマン」で勝つことで溜まっていく「KP」です。「KonjoPoint」の略なんだそうです。
 別にいいですこんなことでは驚きません。『グランツーリスモ』と違って、勝たないとポイントはもらえませんので、結局はとにかくノーマルで勝たなくてはいけないわけです。参りました。
 このKPがリアルなのは、勝つとKPを100もらえる相手でも、同じ相手に2回目に勝ったときは30しかもらえません。さらに三回目になると10ポイントしかもらえなくなります。
 つまり、一回勝った相手に買ってもそんなものは根性があるとは認められないというわけですね。ここまで徹底して根性根性だと逆に凄いです。
 ちなみに、エンジン等のチューニングメニューはおそろしくアバウト……いや、気合の入ったネーミングに支えられています。
 どれがどれくらい変わるとか、何々仕様とか、これで何馬力上がるとかそんなことを気にしては全国制覇はできません。もっとも、そもそもこの作品、自車の馬力なんて見ることはできませんけどもね。
 標準で装備されている「ノーマル」のほかは、「かっとび」「バリバリ」「激速」「鬼速」の4種類のみです。
 どれが一番速いのか名前だけだと常人にはまったく理解できませんが、きっと値段が高ければそれだけ速いのでしょう。
 それなのに、どれを装着しても性能が変わらない「竹やり」は5種類、ガラスやボディに貼る文字は20種類以上と、走行性能にまったく関係のないチューニングメニューは矢鱈と豊富で具体的なのがいい味出してます。
 もちろん「竹やり」を変えれば画面上の竹やりデザインも変わりますし、ホーンを変えればホーンの音が変わります。繰り返しますが性能はこれっぽっちも変わりません。
 ホーンはやっぱり「ゴッドパパ」がオススメです。ちなみにレース中、ホーンをならしたところで車が避けるとかそういうことは一切ありません。
 あとは車に貼れる文字は、自分で入力できるともっと良かったかな。「怒羅衛門」とか「亞里亞萌」とか貼りたいわけですよ。「2」が出るなら期待したいところです。出ないと思いますけど(作者註:出ました。が、文字自作機能は実装されませんでした)。

 この作品、特徴的なのは「ツレ」を選べることでしょうか。
 車の助手席に、四人のうちから一人、人を乗せることが出来るのです(乗せないこともできます)。
 ツレがいると、レース中にいろいろ話しかけてくれるわけです。右コーナーが近づくと「右じゃない?」などと役に立つ(?)アドバイスをしてくれたり、抜かれると「抜かれたよ!」とか「負けはないからね!」とか「根性見せなよ!」とか応援(?)してくれたりするのですね。性能? 変わるわけありません。
 選べるのはいかにもな感じの元レディース総長、どうみても松田聖子、年齢不詳の女ライダー、ツッコミ担当の男。
 女三人男一人でなんだか女の子に関しては恋が芽生えたりもしそうですが、基本的にはどなたも非常にアバンギャルドな外見の持ち主なのでそっち方面はどうでもいいです。
 特筆すべきはこの松田聖子風の「天然ぶりっこ娘(マニュアルより引用)」です。
 いまどき聖子ちゃんというのもなんだかそれっぽくて嬉しくなってきますが、これが実に喋りが萌え系なんですよお兄さん。
 レースが始まる直前、女総長の台詞は「負けるんじゃないよ!」とかなんとかなんですが、この河合聖子ちゃん(そういう名前なのです)は「がんばってください、せんぱい!」です。
 声もいかにも萌え萌えお兄様にはドンぴしゃな感じだし、高速でぶっ飛ばしていると「すごーい!」なんて云ってくれます。ついついアクセルを踏む足も力が入り、ゴッドパパホーンなんかを鳴らしてみたりしたくなります。
 さらには車をぶつけると「こわーいー!」なんて可愛い声で叫んでくれます。でも、なんでこんなにやるせない気分になるんでしょうか。

 んで、何度もやっているうちに、なんとなくこのゲームのコツみたいなものがつかめてきました。
 つまり、ブレーキをかけてはいけないのです。
 このゲームはブレーキの利きが異様に強くて、200キロオーバーで走っていてもちょっとブレーキを踏むとスピードが瞬間的に100キロ以下まで落ちてしまいます。
 しかもギアのつながりと加速はどうにもならないほど悪いので、スピンの危険性と劣悪な加速という二重のリスクを負うのです。
 このゲームにおける効果的なコーナーの曲がり方は、基本的にはノーブレーキでコーナーに入り、曲がれないなと思ったら瞬間的にアクセルを抜きます。
 そのままだとスピンしますから、すぐにまたアクセルオン。この方法だと、急なコーナーでも150キロくらいの速度で曲がることができます。
 既に実車とはかけはなれていますがそんなことはどうでもいいです。慣れてきてアクセルオフの時間を調節できるようになれば、直角コーナーでもある程度の速度で曲がれます。
 普通のレースゲームのコーナーリングの基本は「アウントインアウト」ですが、このゲームでのコーナリング攻略の基本は「インインイン」です。なんか、実車うんぬん以前に物理法則を無視しているような気がしますが。
 これをマスターしてしまうと、エンジンチューンなしでもある程度までは勝ち進めます。
 基本的なコースは、難易度が低い順に、緩やかなカーブが続く「湾岸」、道が若干狭い上にスピンが早いサンドトラップがある「サーキット」、直角コーナーが多い「市街地」、スリップゾーンがコース中にある上に道が狭い「峠」の4種類で、サーキットを走る族車というのもシュールなものだなあとか、こんな竹やりデッパ車でガタガタのダート道なんて走ったらマフラー落ちたりするんじゃないかなあとかそういうことは気にすることはありません。
 タイヤを一番高い「鬼グリップ」に変えてやれば、「湾岸」と「サーキット」では、アクセルはずっとオンのまま走り抜けられてしまうあたり、やっぱりシュールです。
 というか、高低を表す形容詞がすべて「鬼」と「激」であるというのはどうなんでしょうか。

 ただこのゲーム、やっていくうちに、へんなハマり方をすること請け合いです。
 というのもですね、最初の頃はなんじゃこりゃとかなんとか云いながらやってるわけですよ。
 なんですが、何度も何度もやってるうちにだんだん洗脳されていきます。確かにエンジンを「鬼速」にしたほうが効率がいいことはわかっているのです。ギアを「鬼ショート」にすれば、少しくらいは加速が改善されることもわかっているのです。
 なのに、ああ、何故でしょう。そんなものをさしおいて、つい竹ヤリマフラーを気合の10連装にしたり、ガラスの文字を「謹賀新年」に変えたりするのを優先させてしまうのです。これを変えてもレースは何にも有利にならないということがわかっているのにです。
 しかもゲーム中も、オラどきやがれ俺のケンメリナメんじゃねーぞ?などと云いながら追い抜く瞬間にゴッドパパ、なんてことをついついやってしまいます。
 もちろん頭の中にはマガジンのあの漫画よろしく「!」とかが浮かんでは消えていきます。なんと想像力を刺激するゲームでしょうか。
 『グランツーリスモ』ばりのリプレイも存在するのですが、これもなんだか思わず見入ってしまいます。やっぱここのコーナーは気合と根性だべ?とかなんとか一人で呟きながら見ると楽しめること請け合いです。
 やっているところを他の人には絶対に見られたくないタイプの作品ではありますが。
 まあ、PS2本体を持っていて、2000円が余っちゃったなあどうしようかなあという人にはオススメです。あらゆるところでの歪みっぷりが、確実にいろんな意味で笑え……楽しめます。

 ちなみに、基本的に根性と気合というどこぞのダメな会社みたいな理念で成り立っている本作ではありますが、このゲーム中一番根性があるのは、どう考えても常人の車ではない拳米利に正面からぶつかったにも関わらず、とろとろとそのまま何事もなかったかのように走り去っていく障害物扱いの鉄仮面スカイラインだと思うのですがどうでしょうか。


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