Silver Moon


 ゲームがひとつの「作品」であるなら、いいゲームとはなにか、面白いゲームとはなにか、と考えることがある。
 たとえば、名作と呼ばれる音楽は、何度聴いても飽きることなく聞けるし、名画と呼ばれる絵画はいつ見てもどこかに気品が漂っている。もちろん万人にそうであるとは言えないが、少なくともそこに興味を持つ人間がその「作品」を感じたときに、時間や空間などを超越した作品としての完成形がそこに存在しているものが、すなわち「名作」となりうるのだ。
 ゲームは言うまでもなく、それが「ゲーム」である以上、少なくともアーティスティックな感覚とは違う基準で「名作」を決定することになる。ゲームを構成する要件はいろいろあるだろうが、究極的に突き詰めてしまえば、ただ「面白いかどうか」に集約してしまう。この「面白いかどうか」を決定するエレメントが、すなわちそこに存在している唯一の基準となるわけだ。

 「Silver Moon(L.A.N.)」をプレイさせていただいた。
 ストーリーは、雑誌などでも紹介されているのでここでわざわざ紹介するまでもないとは思うが、主人公「日吉亮」は、天才と呼ばれる子どもたちを集めて教育するGEOという機関の出身で、現在は普通の高校に通う、なにをやらせても完璧な少年。そこで普通に普通の高校生活を送っていたのであるが、ある日、亮の目の前に「V.A.」と名乗る女性が姿をあらわし、亮に「あなたの命はあと15日」であると告げる。
 これが概要である。
 20世紀も終わりに近づいているせいか、こういったタイプの限りある命、消え行く灯火、運命、非日常などといったタームをテーマにした作品というのは確実に増えてきている。そういったタイプの作品に数多く触れてはきたが、この「Silver Moon」は、そんな中でも秀逸の出来であると言っていいと思う。
 こういった作品の多くは、大体がひとつの大きな罠にはまってしまう。「非日常」をテーマにした作品だから当然と言えば当然なのだが、そこにかもし出される世界観が私たちの住むこの現実世界とあまりにも乖離してしまっている、という点である。
 当たり前のことを、と憤慨してはならない。もちろんそれはそうなのであろう。しかし、あまりにもわたしたちの既成概念を覆してしまうような「世界」を見せられても、はあ、そうですかというような白けたイメージしか沸かないのはある意味で当然のことだ。

 ゲームと言うのは、ともすれば違った人生、違った人間をシミュレートする、ということである。これをうまくトレイスすることができればできるほど、そのゲームは面白くなるのだ。これはおわかりいただけると思う。ゲームにあまりにもはまりきってしまった人間が奇異な目で見られるのは、自分自身の現実を放棄して、作り出されたほかの現実に自分の現実を置き換え、実際の社会生活を不可能にしてしまうからに他ならない。
 ところが、このような「非現実」をテーマにした作品を作ろうとすると、当然現実でない現実を中心に据えるので、より「現実」から遠ざかり、クリアしてもなんだかわかったようなわかんないような、首を傾げてしまうような作品に仕上がってしまうのだ。ある意味では当然のこととも言える。
 しかし、この「Silver Moon」は、そこを見事にクリアしている。
 完璧になんでもこなしてしまう天才少年、残りわずかな命などといった、ある意味では超・非現実性をテーマに据えながら、そこに不自然さがまったくないのである。ここがこうだからそうなんだよ、というようなことはさっぱりわからないのであるが、とにかく不思議なくらいそういったところがあまりにも自然にクリアされている。だから、ディスプレイのこちら側にいるわれわれが、素直に作品を「ゲームとして」楽しむことが出来るのだ。それがゆえにまったくストレスが溜まらない。これは凄いことであると思う。
 そしてさらに特筆したいのは、キャラクタの設定である。こちらで実際に攻略することのできる女性キャラクタは4人しかいない。それ以外のキャラクタも主人公を含めて3人くらいと、この手のゲームとしてはきわめて少ないほうであると思う。
 だがしかし、それぞれのキャラクタがそれぞれの強烈な個性と表情を持っているので、ゲームが終わった後でも忘れないのである。
 女性キャラはもちろんそうで、くるくると表情が変わる様子なんかは見ていても飽きない。しかしそれ以上に、主人公である「日吉亮」と、その友人のキャラクタが凄い。
 前述した通り、主人公は運動も勉強も完璧にこなす天才少年である。そしてその友人として登場するキャラクタもまた運動も勉強もこなす天才少年と言う設定になっている。
 ここまでの設定を作ってしまうと、普通であるならキャラクタがともすれば嫌味になってしまい、なんだかやる気も萎えてしまうというものであるが、しかし不思議なことにこの作品にはそれがない。それどころか主人公がどんどんカッコ良く見えてくる。話口調などが今までのゲームキャラのそれを超越している、ということもあるだろうが、しかしそんなに単純なことでもないように思える。これはやってみて感じていただくしかないと思う。

 とにかく、テキストを中心とした作品の構成自体が、すべてにおいて秀逸なのである。絵はちょっと好き嫌いのあるタイプかもしれないが、少なくともわたしはどっちかというと好みの部類だし、シナリオもいいし、音楽もそれ自体がテーマになっていることもあってかなり聴かせてくれる。

 作品を構成する要素が限りなく心の琴線に触れることができるようなレベルにまでベクトルが傾いていれば、その作品は「名作」と呼ばれるに相応しい作品になる。そういったものが、この「Silver Moon」にはあると思う。

毒電波発進基地