Wind -a breath of heart- (minori)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3+4−2+4−7−
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

-結末のツメの甘さが難点か-

<シナリオ>
 それぞれの人が、なんらかの「力」を持っている街「風音市」を舞台に物語は繰り広げられます。この「力」というのがこのストーリーにおいてはきわめて大切な役割を果たすわけですね。この設定自体は非常に良くて、文章表現の微妙さから、ほどよい「田舎」という感覚が作中にしっかり生きています。これはゲームを開始してから最後まで首尾一貫しており、世界観そのものはきわめてしっかりと確立されたものであると云えますでしょう。事実、テキストのテンポもいいし、読んでいても苦痛ではありません。
 ところが、肝心の物語。こちらがちょっと足を引っ張っています。
 正確には、物語そのものは凄くいいんですよ。ちゃんと書き込まれていますし、命題と理由、結果もしっかりとわかるものになっていますから。読み終えたときに、ああなるほどこういうことだったのかと頷ける仕組みはちゃんと完成しています。終わってもなんだかよくわからんということにはなりません。
 ところが、この展開があまりに急すぎるんですね。ネタバレの危険があるのであまり細かくは書きませんが、クライマックス部分で、事象の理由があるキャラクターによって説明されてから、その事象が解決するまでがあまりに急展開過ぎるのです。遊園地のジェットコースターで怖いのは、カタカタと坂道を登っていくあの瞬間だというのがありますが、例えて云うならこの作品の結論の急ぎ方は、一気に頂上に上ってそのまま一気に滑り落ちるだけのジェットコースターのようなものなんですね。結末に対しての「タメ」を切ってしまっているのです。ああなるほどと思わせてから、その結末が出るまでがあまりに短いので、わたしの中で物語に対する整理が追いつかず、なんだかなし崩し的に終わってしまったような印象を受けてしまいました。エンディングそのものは、エピソードの語り方や伏線がかなり巧みに生きていて好きなんですけどね。物語の肝心要の部分でこの伏線が壊されてしまっているというのは、かなり勿体無いです。このへん、おそらく彩というキャラクターの描き方に起因するものだと思うんですが。
 あともう一つ気になったのは、状況説明があまりにダラダラ長いことでしょうか。日常生活でのシーンで、見ているテレビ番組の内容であるとか、はたまた見に行った映画の内容であるとか、そういう説明があまりに長すぎます。これは必ずしも悪いことではないとは思いますがやはり程度問題というやつで、見ているとなんだか知らない映画とかテレビとかの話をだらだらとただ聞かされているだけなような気がしてきてしまいます。友人の男性キャラの長い喋りとかもそうなのですが、この作品、こういうところでの「やりすぎ」がちょっと目立っているような気がするんですね、どうしても。この「やりすぎ」が、物語全体のテンポを悪くしていることは否めないと思います。
 そんな中で、やはりこの作品が魅力的なのは、キャラクターの描き方に尽きますでしょう。微妙な台詞回しとか仕草とか、そういう一つ一つのキャラクター表現がテンポよく文章として描かれているので、キャラクター一人一人に対する魅力というのはかなり大きいです。例えば、妹キャラ「ひなた」は、物語序盤から中盤にかけてはお笑い系キャラとしてかなりの演技を見せているのですが、彼女の泣き顔は「ぐっすんひなた」という一言だけで説明されます。この「ぐっすんひなた」という言葉が、ひなたというキャラクターを立たせてるんですね。ヘンな言い方ですが、細かにその表情を説明されるよりも、「ぐっすんひなた」という一言で「ひなた」というキャラクターの人となりをプレイヤーに想像させているのです。こういう表現手法というのは、好きな人となかなか馴染めない人とがいると思いますので、なかなか難しいところではあるのですが。
 エッチシーンは、ボリュームはありますし、ストーリーの中でもエッチに至る経路がわりとはっきりしていますので、これに関しては不満はありません。

<CG>
 背景・一枚絵は凄く落ち着いています。見ていて安心できる感じでしょうか。可愛いというのももちろんあるんですが、それと同じレベルで「なんかいいなあ」という絶妙な安心感を与えてくれるのです。決して派手さのある絵ではありませんが、これでかなり完成されたものだとわたしは思います。ただ、立ち絵がちょっと安定していないような印象も受けてしまいました。まあ、クセの少ない絵ではありますし、なかなかに馴染みやすくて雰囲気の良さは統一されているのではないでしょうか。

<システム>
 ま、普通のエロゲーシステムです。メッセージスキップもありますし、履歴もちゃんと読めますし、これといったバグもうちの環境では発生していません。セーブの数はおそらくまったく不足ないほどありますのでこちらも問題ないでしょう。ただ、メッセージスキップの速度が遅いのが気になりました。CTRLキーを押したままのスキップと、スキップボタンでのスキップがあるのですが、後者だと台詞のところだけはスキップしてくれず、台詞を最後まで読んでから次のメッセージに行くようになっていますので、実質的に使えるスキップはCTRLキーのスキップだけなんですが、これも決して早くはありません。何度もやるとこれがちょっと気になります。

<音楽>
 作中に流れる曲は、昨今の作品としてはおそらくあまり多くないです。曲そのものはそれなりにいい雰囲気の曲が揃ってるんですけどもね。なにより、主題歌・挿入歌・エンディングの三曲がどれも名曲です。
 声は……キャラクターによっての差が激しさが気になりました。ひなたの声の巧さ(技術的なものというよりも、キャラクターを可愛く見せるという意味で)は本当に秀逸で、それだけでも思わずホホが緩んでしまう魅力があるんですが、望あたりの声が……台詞を噛んでるところなんかもあったりして。

<総合>
 この作品、なんというか、物語そのものはすごく面白いし、キャラクターもみんな魅力的ではあるんだけど、それの見せ方が非常に惜しい。そんな印象を受けた作品でした。プレイ時間はスキップの遅さや台詞回しなんかのせいで結構かかるんですが、その中で物語の根幹を成す部分というのは本当に後半一部分だけです。これをもう少しでも前半パートに伏線として持ってこられればなかなかその盛り上がりが平均的に持続した作品として完成したと思うのですが、どうもそのへんの盛り上がりの起伏バランスがおかしいです。
 勿論この作品、一貫した時間の流れの中に主人公や周りの人々との生活を描いているわけですが、表現手法としては、エピソードとエピソードを繋げ合わせて一本の作品にしています。だから、今日は5月1日だったから明日は2日、というように続いていくのではなく、5月1日に起きた出来事を書いたら、次に6月4日の出来事を書くというような、「エピソードごとの分断」手法をとっています。イベント同士の関連性は薄く、これがプレイヤーの作中に対する世界への同化を阻害しているような感じもややあります。
 ただ、この作品の演出は、ゲームのそれではありません。映画や演劇の手法です。プレイヤーはすなわち「観客」であり、目の前で起きている出来事を一つの物語として「見る」立場にあります。主人公とプレイヤーは、そこではつまり完全に別の人格であるとも云えますでしょう。映画や演劇を見るとき、主人公と自分とを同一視して見ている人というのはおそらくあまりいないと思います。例えば「タイタニック」を、自分は沈み行く船から脱出する一人なのだという意識で見ている人というのは絶対的に少数でしょう。それよりも、船が沈み行く中で、主人公や船員たちがそれぞれの思いを交錯させている「エピソード」を、第三者として「見ている」という感覚のほうが遥かに多いのではないかと思います。
 この作品もおそらくそういう視点で描かれています。主人公とプレイヤーはまったく別の人格で、主人公の中にプレイヤーが入っていくことはできません。「選択肢を選ぶ」という行為は、プレイヤーが「どの物語を見るか」を選択しているだけに過ぎず、それは主人公の意思決定ではありえないのです。
 そう考えれば、この「エピソードの分断」という手法は決して悪いものではありません。ですが、やはりこれは物語がある程度まとまっていればの話で、そんな展開から一気に物語りの確信へ滑り落ちてしまうと、終わったときの印象というのが残らなくなってしまいます。物語そのものが分断されてしまっているのです。
 この作品は、この「分断」のギリギリのところにいます。分断されたエピソードの一つ一つは楽しいものですし、それはそれでいいのですが、これをまとめて「物語」にしたときに、やはり若干の軋みを感じる部分もないわけではありません。
 ただ、先を読みたいと思わせてくれる魅力というのは確実にあります。少なくとも、そういう意味合いにおいて「楽しませる」作品として考えればまったく不満はありませんし、雰囲気や絵が気に入ったのなら、触れてみて損はない作品だとわたしは思います。


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