SNOW (Studio Mebius)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント5−5−
シナリオ:
原画:
音声:無
主題歌:

-完成された世界観が齎す感動巨編-

<シナリオ>
 舞台は万年雪の降る小さな村。この村の唯一の温泉旅館にアルバイトに来た青年が、村の中で起こる運命的な数々の出来事に巻き込まれていく……とまあストーリーとしてはそんなところでしょうか。近年のアダルトゲームの世界ではそれほど斬新な物語展開ではありません。なのですが、その中身はかなり濃いです。
 この作品、まずすごいなあと思うのが、とにかく「先が気になる」展開です。なんというか、物語への引き込み方が巧いのです。単純にサブキャラクターを含めたキャラクターたちが魅力的だとか、文章そのもののテンポが非常に良いとかそういう表面的なものも確かにあるのですが、その上に被せるようにかかってくる「物語の隠し方」の巧さを感じました。
 これは、「ゲーム」という手法で物語を語ろうとするときにどうしても出てくる問題だと思います。アダルトゲームジャンルにおいての「ゲーム」パートは既に有名無実化しているきらいがないわけではないのですが、それでも必然的にマルチ・シナリオにならざるをえないゲームの文章にはゲームの文章なりに意識しないとならないポイントというのがあるのです。
 ゲームの場合は、ひとつのシナリオ中に別のシナリオの存在や謎解きのエピソードを挿入できる……つまり本や映画などで語られる物語とは違って、さらに大きな視点での伏線が許されている、ということなのですが、ここにおいてある一人のキャラクターのシナリオが進行しているところでの別のシナリオの露出をいかにして調節するかというのが非常に大きな意味を持ってきます。
 当然のことながら出しすぎては次に続きませんし、まったく出さないのではシナリオとシナリオを結びつける要素が希薄なものになってしまい、結局のところ作品そのもののまとまりがなくなってしまうことにもなりかねません。
 そこで要求されるのが、この「物語の隠し方」です。
 いわゆる、ゲームのシナリオにおいて「面白いシナリオ」だったり「熱中したシナリオ」だったりする作品というのはたいていそうなのですが、この「隠し方」が巧いものが多いです。
 プレイヤーはそれまで物語の世界とは別の場所に存在しているわけですから、よほど強い引き込みがない限り、一回目のストーリー展開で物語の世界へと入っていけることはありません。ゲームのシナリオで、確かにやってみて「いい話だなあ」と感じるものはあっても結局それだけで終わってしまう作品というのもままあるのですが、それはたいていここに引っかかっています。
 確かに単独で見ればものすごくいい話で面白いのですが、それはそれとして次に続かない……結果として作品そのもの世界観が非常にちぐはぐでかみ合わないまま終わってしまい、後にあまり残らない作品になってしまいかねません。
 ところが、一度目のストーリー展開で、次の物語に対するエピソードが隠れていれば話は変わってきます。もちろんそれそのものは物語の根幹にどうかかわってくるのかと気を持たせるようなものでなくてはなりません。これによって、プレイヤーは物語に興味を持ちます。つまり「世界に引き込まれる」わけです。アダルトゲームの手法で、よく「一回目のプレイは必ずバッドエンドで二度目以降にシナリオが分岐する」などというタイプのものも多々ありますが、これも結局はその「シナリオを隠す」手法の一つであると云えますでしょう。
 さて、前置きが長くなってしまいましたが、当作品「SNOW」の話に戻ります。
 この「SNOW」でも絶妙な「物語の隠し方」が生きています。
 これについてはあまり詳しく述べてしまうとどうしてもネタバレ系の話に触れなければならなくなってしまうので微妙にブレた云い方になってしまうのですが、まず、メインキャラである澄乃に関しては、初見でクリアをしてもまずエンディングの意味がまったくわかりません。
 その上、シナリオの中に数多くちりばめられたキャラクターたちや、それにまつわる謎めいた展開だけが残されてしまいます。もしこれ単独で物語が閉じていれば、シナリオライターの独善的な切り口を見せられただけで終わってしまうのですが、その上でさらに別の切り口からシナリオを見せ、それを糸口に他のキャラクターのシナリオへつなげていく流れがきっちり完成しているのです。
 そしてもうひとつ、単独のシナリオで見た場合でも、この作品はそれまでの作品と若干違った切り口で展開しています。
 通常、物語の根幹を成す部分というのは、物語のクライマックス部分に集中しているものです。たとえば昔話の「かぐや姫」ならば、「かぐや姫は実は月の住人であった」というエピソードは物語の最後に出てきます。だからこそ読み手はその結末に驚いたり感動したできるわけですが、この作品はその手法をあえて使いませんでした。
 ぎりぎりにネタバレにならないように云うのであれば、この作品、あるキャラクターのシナリオが終了すると、物語の根幹部分を成すアナザーストーリーが登場します。
 このアナザーストーリーで、この物語がどうしてこうなったのかというエピソードを知ることができるようになっているのですが、凄いのはこのアナザーストーリーの終了がある別のキャラのクリア条件になっている、ということです。
 それはつまり、そのキャラクターに関しては、「どうして彼女がそういうことになったのか」をあらかじめ知った上でプレイヤーは物語を進める(進めざるを得ない)という展開になる、ということです。先の例で云えば、「かぐや姫は月の住人である」ということを読者は知った上で「かぐや姫」を読むということです。
 この作品の場合、それを利用した上でさらにストーリーを魅力的なものにしています。プレイヤーは彼女の「正体」を知っている。だからそれを物語の結末に持ってくることはできません。
 が、あえてその柱の部分を土台にすることで、エピソードの重みをシナリオ全体に満遍なく散りばめることに成功しています。
 一人一人のキャラクターが何気なく呟いた言葉やエピソードなど、「結末を知らなければ意味がわからない」言動をあらかじめプレイヤーに意味のある言葉として伝えることで、なるほどこの台詞はこういうことなのだとか、あれは結局どうなっていくのだろうという「物語への興味を喚起する仕組み」とでも云いましょうか、通常「セカンドプレイ」……一度オールクリアしたあとの二度目のプレイで楽しめる手法をファーストプレイに取り入れることで、通常ではありえない物語展開の妙味を引き出しているのです。
 だから逆に云えば、この作品で「物語の先が読めてしまった」という不満は当たりません。
 おそらくこういう不満というのは非常に多く出てくると思うのですが、むしろシナリオライターは、プレイヤーにあえて「物語の先を読ませている」のだと思うのです。
 もちろんそれを意識的にやったのかそうでないのかはわたしの知るところではありませんが、結果として「先にはこうなるのだ」という展開をあらかじめ見せて、その上を歩かせることで物語を楽しませ、感動させています。
 これはもちろん物語の意外性を奪いとってしまうという欠点はありますが、それ以上に物語が感覚的に作用しやすい上、この手の作品につきまといがちな「難解な謎を読み解く」要素を残さないという大きな利点があることも見逃してはならないでしょう。
 ありがちな物語だからつまらない、という漠然とした思い込みを真っ向から否定しつつ、なおかつ物語として巧みに彩られた作品。話の中に入る笑い要素と泣き要素のバランスも絶妙で、後味の良い名作だと思います。

(ネタバレ的なものを多々含む文章はこのページの一番下にあります)

<CG>
 立ち絵も一枚絵も、キャラクターの絵はどれもほんとに魅力的。一枚絵は若干数が少ないような気もしますが、まあ気になるほどではありません。立ち絵に関しても、ちょっとギャグっぽい表情から真面目な表情まで多種多様で非常に楽しませてくれます。バックに雪が降っていればちゃんとキャラクターの上にもうっすらと雪が積もっていたりする絶妙な演出を含めて、キャラクターを見せるための臨場感とでも云うべきものはかなりよくできています。
 そしてそれと同じくらい素敵だなあと思ったのが背景ですね。たかが背景だからとどうしても手抜きになりがちな作品も多々ある中、確実に奥行きのある綺麗な風景を見せてくれます。

<システム>
 これといったバグが無いのはまあもともとのシステムが完成されているからだと思うのですが、演出面におけるシステムというのがこれまた実にうまく生きています。主だったところだとまずキャラクターの身長差を感じさせるためのスクロールシステムというのがあって、たとえば背の高いキャラと背の低いお子様キャラが並んで立っている場合、普通ならば同じ画面にただ頭の位置だけで身長の高低を表してそれで終わりにしてしまうものですが、これはそこにとどまりません。背の高いキャラの顔が見えているときには背の低いキャラは頭しか見えませんし、逆の時は背の高いキャラは顔が見えません。「視点」をうまく表現しているわけです。同じコンセプトの「抱っこシステム」も含めて、あくまでもシナリオの進行やテンポを妨げず、微妙な演出が生かされています。
 雪の降るアニメーションやタイトル画面での微妙な演出など、システム面はほんとに不満なし。セーブポイントも数多い上に画面のサムネールが出たりと使いやすい上、スキップも高速。アドベンチャーゲームの演出としてここまでくればもう文句などありません。

<音楽>
 ボーカル曲・劇中曲ともに美しい曲が多いです。劇中曲に関しては、なんというかどこまでも耳に残る曲というのがあるわけではないのですが、「いつでも一緒」や「冬景色」など、BGMとして実に心地よい曲ですね。逆にかかるタイミングが絶妙だったというのもあって非常に印象深いのがボーカル曲「空の揺りかご」。透明感のある声と美しいメロディがお気に入りの一曲です。
 ただ、贅沢なことを云えば音声がないのはやっぱりちょっと残念だったかも知れないですね。既に音声ありのゲームに慣れてしまっているからなのかもしれませんが、どことなく寂しい気はします。芽依子のギャグシーンなんかは声があるだけでさらに楽しいものになったんではないかなあ、なんて思ってしまうんですが。

<総合>
 まさに「満を持して」の発売という感じだった本作ですが、個人的にはそれだけの作品だったと思います。いろいろとなんだか物議を醸し出しそうな作品ではあるので難しい面はあるのですが、そういう先入観なんかを捨てさえすれば間違いなくすばらしい作品です。待ってた人にはもちろん、そうでない人もなんとなく興味があればぜひ。



以下、ネタバレ的文章(シナリオレビュー追加)
 さて、この作品を語る上で、どうしても欠かせないのが「AIR」および「Kanon」との類似性です。わたしはあくまでもこういう文章を書くときは作品一つ一つの単位で見ていきたいと思っているのと、これに触れることはどうしても若干のネタバレ要素にタッチしなければならないために本文ではあえてこの二タイトルの名前を出すことを避けましたが、やはり文章そのものに無理がないわけではないのでこちらで別枠を設けさせていただきました。
 まず非常に身も蓋も無い云い方をすれば、この作品と前出二作品とは限りなく多くの類似点があります。目だった主な二点を挙げてみますと、
・雪月澄乃というキャラクター(Kanonの名雪およびAIRの観鈴とのキャラクター類似性)
・「Legend」というアナザーストーリー展開(AIRの「SUMMER編」)
ということになりますでしょうか。確かにたとえば澄乃の口調やキャラクターの性格付け、位置付けなどは名雪のそれと非常によく似ていますし、「Legend」というアナザーストーリーについては、「特殊な能力を持った女性が追っ手から逃げる」という展開そのものが共通しています。
 確かにこれで、シナリオライターがいくらなんでも「AIRやKanonなどまったく意識しませんでした」というコメントでもあればそれはいくらなんでも苦しかろうということになるわけですが、しかしこれを「安易なパクリ」などという言葉で片付けてしまうのはちょっと尚早なのではないかと思います。
 澄乃というキャラクターの位置づけは、「純粋が過ぎてちょっとボケててマイペース」な女の子というところですが、これ自体は近年のアダルトゲームのキャラクター設定においては非常によく見かける設定です。
 もちろんかの名雪や観鈴にしても例外ではありません。名雪や観鈴を意識した上でであれば、どうしても澄乃というキャラクターがここに落ち着いてしまうのは仕方が無いことなのかもしれません。
 また、Legendシナリオにおいての展開も、確かに舞台設定など似通っているところはありますが、根本にある流れはやはりオリジナルです。
 事実、(これは感じ方の違いがあるとは思いますが)確かに導入こそSUMMER編との類似性が気になってはいましたが、実際に物語が進行している時にはそれを感じなかったことは事実です。表面的な部分が似ているのは確かなのですが、その下にある流れがまったく別のものを目指しているのです。
 他にもたとえば日和川旭シナリオがKanonの真琴シナリオに似ているとか(これはまあどちらも基本的には「鶴の恩返し」的な物語であることからくる類似性だと思うのですが)いろいろ詳細部分においてはいろいろあるとは思うのですが、あくまでも個人的主観からすればあまり気にはなりませんでした。むしろ気になるとすれば、その類似性があまりにも特定の作品に固まっているという点でしょうか。
 わたしは、冒頭にも述べたとおり、作品そのものはそれぞれ一つ一つの作品として楽しんでいきたいと思っています。
 これは別に物語論でもなんでもなく、ただ単純に自分がどういう視点で物語(ないしはゲーム)に接するかというそれだけの話なのですが、それを鑑みても、「あのゲームに似ているから」というのと「つまらない」というのをどうしてもイコールで結び付けたくは無いのです。もちろん「悪意のあるパクリ」作品というのはそれはそれで糾弾されてしかるべきだとは思いますが、そんな作品などそうそうあるわけではありません。
 まあ、別にわたし自身、この会社から金品の供与を受けていたりとかするわけではないので別にこの会社や製作スタッフを擁護するつもりはまったくありませんが、「似ているから」という理由だけでどうしようもない作品だ、と評価されてしまうのは、当作品を楽しんだ一人としてはやはりちょっと悲しいものがあるわけです。もしまだ未プレイの人がここを読んでいたら、上にも書きましたがあまり先入観に左右されないようやってみることをお勧めいたします。

2003/2/4

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