二重影 (ケロQ)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3−
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

<シナリオ>
 素浪人の「双厳」が、謎に満ちた島「淡炎島」で出会う謎の事件に立ち向かうというのが概略です。日本神話や民俗学をテーマに、かなり本格的な書き込みがなされているのがこの作品の大きな特徴でしょう。
 まず最初に云ってしまうと、シナリオを構成する文章そのものは、わたしにとっては実はそれほど魅力的なものではありませんでした。文章そのもののテンポも決していいものではないし、これはシステムの上での問題でもあるんですが、句読点だけが一つだけ改行されたりするし、時代考証もめちゃくちゃで、江戸時代あたりの話なのにも関わらず、「ラッキー」だの「タイミング」だのという言葉がポンポン飛び出してきます。それだけ見ればもうまったく目も当てられないということになってしまうんですが、それでもこの作品に関しては、徹底的に物語に引き込まれてしまいました。とにかく先を読みたくて、先が気になって仕方がないのです。普通、自分のテンポと相反する文章というのはそれだけでその文章を読むのが苦痛になってしまうものなのですが、この作品に関してはそれがありません。これは偏に文章の形ではなくて、物語そのものが持つ魅力なのだろうと思います。中身の濃さが尋常ではないのです。この作品においてはこうなってああなったというベースにある言葉はわたしには決して魅力的なものではありませんでしたが、その「こうなってああなった」というプロセスそのものがあまりに面白いので、そんな外側を遥かに超越した魅力を持ってしまったと、そういうことですね。これは実際、凄いことだと思います。勿論、文章のテンポも内容もいいのが一番いいんですが。
 作品の主軸にあるのは、主として記紀神話にある国生みの物語と、祭りや信仰をテーマにした民族学との融合です。この部分が何より凄いんですよ。もちろん、そういうことに関してまったく知らなくても十分に楽しめますが、これを知っているとさらに楽しめます。これは間違いありません。作中に出てくる「水蛭子」「淡島」「葦船」なんてタームはまさに記紀神話のそれですから、記紀神話を知っていれば、最初に出てくる「葦船で海を渡った」なんてエピソードからしてドキリとさせられると思います。こういうトリックは後にきちんと説明が成されることは成されるのですが、やっぱり物語を見ながら自分の知識と照らし合わせて読むのと、後から「そういうものもあるのか」的に知識として入れるのでは、その楽しみは格段に変わってきます。
 この作品の凄いところは、そういう仕掛けをあちこちに仕掛けてあり、さらにそれら全てがきっちりと謎になっていて、それが先を読みたくさせる原動力になっているということでしょう。逆に云うと、この「謎」は記紀神話を自分の中に持っているかどうかで納得できるかどうかが決まるので、これからこの作品をやるなんて人は、国生み物語の最初の方だけ読んでおくといいかもしれません。本当は全部読めばまた違うのでしょうけれども、さしあたりこの作品を楽しむには最初の部分だけで十分です。逆に、この古事記の冒頭部分のエピソードだけからあそこまでの謎を作ってしまったというのがこの作品のパワーなのかもしれません。とにかく先がまったく読めない展開と謎は、ドキドキすること請け合いです。
 この作品、エロゲーであるからには当然女の子たちも出てきまして、エッチしたりなにしたりというシーンも当然あります。バリエーションも、フタナリ娘から男同士まで、サワヤカえっちから陵辱までもう豊か豊か。でもまあ、絵は可愛いんですが、この作品にそっち方面を期待するのはちょっと難しいかもしれません。いや、エッチはエッチなんですが、わたしの場合はエッチなんかよりも物語の先のほうが気になってしまって、それどころではありませんでした。ヘンな言い方ですが。
 特定のキャラクターとの愛恋沙汰というのも一応描かれます。が、それはあくまでも物語の中の一エピソードに過ぎません。エロゲーならば、何はともあれその女の子と結ばれることが目的になってくるわけですが、この作品はそういうのがまったくないのです。だから、終わった後に、「この女の子は可愛かった」という後味というのがまったくありませんでした。いや、正確には、可愛かったなあと思う娘というのはいるのです。いるのですが、じゃあその娘のことを思い出してそれだけでホホが緩んでしまうような感覚になるかというと、それがありません。「女の子が可愛くない」というのでは決してないのです。そうではなくて、それ以上に物語が、キャラクターというものをアピールする以上の力を持ってしまった結果なのでしょう。これはこれで一つの形だとわたしは思います。まあ、この点に関してあえて難点を云うなら、出てくる女の子たちがあまりに多すぎて、既に没個性の段階にまで至っているキャラがいたくらいでしょうか。
 あと、血が飛び散ったり、本格的に怖い水蛭子の表現とかがばしばし出てくるので、グロ関係に極度の不快感を持つ人は敬遠したほうがいいかもしれません。

<CG>
 背景は流麗。人物に関しても、女の子はみんなかなり可愛くて、主要男性キャラはみんなカッコいいです。男の子も可愛いのが一人いますが。これに関してはもう文句なしでしょう。まあ、服のデザインとかがあまりにキャッチーというかそういう萌え萌えな方に媚びている風を感じさせてくれてちょっと鼻につかないわけではないですが、そういうのをさしおいてもかなり可愛いと思います。で、この可愛いCGに惹かれてその手のエピソードに期待して買うと、異形やら飛び散る血やら死体やら骨を抜かれた水蛭子のあまりに気持ち悪すぎるCGに衝撃を受けるという構図ですね。これは「終ノ空」もそうだったんで、解ってる人は既に解ってるんでしょうけど。
 ただ、物語を作るという意味合いにおいては、この「可愛いところは可愛く」「不気味なところは徹底的に不気味に」、そして男性キャラのシャレにならないカッコよさの演出(これは文章においても)が、強烈に良いんですよ。シナリオとあわせて、純粋に「先が気になる」演出だと思います。

<システム>
 この作品で唯一引っかかるのがこれでしょうか。コメントを入れられるセーブはかずも多くて便利だし、スキップも高速でいいのですが、まずテキストの読み返し機能がないこと、CG鑑賞モードにエッチシーン以外のCGが登録されないこと、スキップがCTRLキー押しっぱなしでしか効かないこと、突然入ってきてキャンセル不可のムービー(これはまあ、悪いだけではないんですが)等、今ひとつ不便な感じが否めません。まあ、物語に没頭しているうちはあまり気にならないのですが。ポイントをひたすら移動させて、全てのフラグが経つまで次のイベントが発生しないという移動システムも、なんとなく無駄なような気はします。
 逆に、双厳の台詞と説明的な一般のテキストを完全に別の演出にしている(会話は画面の下のテキストウインドウにメッセージが表示されるが、説明や心情はビジュアルノベルのようにCGの上に重なるように文字が出る)のも、本を読んでいるようでなかなかの演出でした。まあ、先にも述べたように、改行ポイントのせいで句読点が文章の頭に来てしまうことが幾度もあって、なんとなく萎えたりもするんですが。
 難しい用語は、その単語をクリックすることでちゃんと意味を説明してくれる機能も便利です。これならば、予備知識なしにやっても、なんのこっちゃさっぱりわからん、という置いてけぼり感覚を味わうこともそんなにはないでしょう。

<音楽>
 作風から、基本的に暗めの曲が多いんですが、これが何故か不思議なくらい作品に合っています。歌はありませんが、それでも十分に納得できるくらいカッコイイ曲の作りになっています。「音楽モード」とかがあるわけではないので、タイトルとかはわかりませんが、オープニングの曲なんかは聞いててかなりカッコイイんですよ。
 声はありません。が、血が飛び散る音だの人を切る音だの人が潰れる音だののSEはかなり充実してますので、臨場感はかなりのものです。それが辛い人には逆に辛いかも。

<総合>
 名作です。それは間違いありません。ありませんが、間違っても手放しで人に薦められる作品じゃありません。まず、女の子のCGがいいなあという理由でこの作品に興味を持った人は、本気で気色悪い表現に対してある程度覚悟して望んだほうがいいと思いますし、流血や残虐描写がてんこもりなので、そういうのが苦手な人は絶対に耐えられないと思います。いくら物語が良くても、生理的にダメなものは仕方がありませんからね。
 さらに、ともすれば複雑な物語に対して考えるのが嫌いな人もちょっと苦手かもしれません。別に話そのものは難しくありませんが、この作品の醍醐味は、島の呪いに関して考えながら進んでいくことです。ただ先の展開を読むに任せても楽しめますが、やっぱりそれよりも謎に対してなんなんだろうと考えることが楽しいわけです。そういうのが好きで、さらに記紀神話に対して何らかの予備知識を持っていれば、これは絶対に楽しめます。
 つまりはそういう作品です。「面白いと思った。だからやってみて」と云うのは簡単ですが、この作品に限っては、安易に人に薦めるのは非常に躊躇われます。人によっては強烈に拒否する人も絶対いるでしょうし、終わってみてなんじゃこりゃつまらん金返せと叫ぶ人もたくさんいるでしょう。無論、そんなものはどんな作品でもいっしょだとは思いますが、それがこの作品に至っては特に顕著なのです。無論、ただ不気味なだけ、気色悪いだけというバイアスもまた不適当です。この不気味さも、はたまた女の子の可愛さも、物語が持つ一つの演出であると考えれば、これほど優れた世界観の演出はありません。そういう意味で、いわゆる「陵辱ゲーム」のそれとは、この「二重影」の人への薦めにくさはまったく異なっています。

 こういう作品というのは、これから先、おそらくそうは出てこないでしょう。物語の大きな魅力と、それを彩る全ての世界観の演出。この美しさが、涙を流して泣く「感動」とはまた違った感動を与えてくれたのは間違いありません。


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