さくらさくら(ハイクオソフト)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3+8+
シナリオ:たとむ/keikei
原画:カスカベアキラ/緋嘉ゆかり/木谷椎/あぼしまこ
音声:フル
主題歌:有(オープニング:『See-Saw!!』/挿入歌:『隣』/エンディング:『place』)

<シナリオ>
 この作品、主人公がふたりいて、第一章では友達役だったキャラクタ(直樹)が第二章では主人公になり、その第一章で主人公だったキャラクタ(徹)が第二章では友達役に回るという「二人主人公」のシステムになっています。
 また、攻略対象ヒロインは4人いますが、徹には菜々子かさくら、直樹にはくるみか晶といったように結ばれるパートナーはある程度固定されています。ですので、徹編で徹がくるみと結ばれるとか、そういったことはありません。
 話としては比較的オーソドックスな恋愛モノではあるのですが、パッケージ裏側の「愉快な三角関係」という言葉にあるように、すべてのキャラクタに対して「三角関係」がテーマになっています。
 ですが、「愉快な」という冠の通り、決してどろどろした感じではありません。もちろん、「三角関係」なので全部が全部円満に、というわけでもないのですが、あちら立てればこちらが立たぬと云ったような生々しさはなく、むしろヒロインキャラクタの「あっちの女の子のことを気にしちゃって!」というやきもちの可愛らしさがメインです。
 で、このキャラクタの可愛らしさの描き出し方がすごく上手いんですね、この作品は。
 もちろん、そういったどろどろした面がまったくないとは云いませんが、それを「なんだかどろどろしているなあ」と感じさせることなく、「やきもちをやくヒロインキャラクタのかわいらしさ」にうまく振っているので、非常にキャラクタが魅力的に描き出されています。
 この、「生々しさのない魅力的な三角関係」を描き出したということに、この作品のシナリオの魅力は集約されてるのではないかと思います。
 この「三角関係」というのはどうしても重いものになりがちなテーマですし、これを重いものにするのは話の上では比較的容易だったのではないかとは思うのです。ですが、それをあえてせず、「愉快な」話にしたことは、この作品最大のポイントでしょう。
 そこで繰り広げられる話そのものは、とりようによっては確かに重いものなのですが、それをほとんど感じさせることがありません。
 ここがこの作品の面白いところで、「重いのだけれど軽快」という独特のムードを作り出しています。ネタバレになってしまうので詳しくは書きませんが、晶の話なんかはそのいい例だと思います。
 つまるところ、「三角関係」というのはシナリオを彩るためのツールであり、そのツールによってキャラクタの魅力がより色濃くなっている、という形になっています。
 この『さくらさくら』というタイトルが示すとおり、あくまでもメインは、桜菜々子・桐嶋さくらという二人の「さくら」の話……つまり徹の話であって、イメージとしては直樹の話はそれに付随するものになっています。
 ただし、だからと云って直樹の話がいい加減かというとそんなことはまったくなく、ボリューム的にちょっと少ないかな?と感じる程度の話で、極端に差別化がなされているというわけではありません。
 ただし、ヒロインとしての描かれ方というのは明らかにふたりの「さくら」に偏っており、そういう意味ではくるみ・晶のファンはちょっと不満を感じるかもしれません。
 とは云え、書き込みが圧倒的に不足しているというわけではありませんし、ベースとなっているシナリオはくるみ・晶もしっかりしていますから、それは作品のファーストインプレッションでくるみ・晶によほど強い思い入れを抱いた人に限定されるのではないかと思います。ですので、そこのところでさほど心配するには及びませんでしょう。
 この作品のシナリオがしっかりしているのは、そういうキャラクタやストーリーの骨組がものすごくしっかりしていることなのだと思います。
 無論、それは「三角関係」という芯の通ったテーマがあるからというのもあるのですが、その上でキャラクタの個性というものが強く表に出てきているからというのもあるのでしょう。
 ストーリー自体はどれもわかりやすく、先述したように「三角関係の中から生まれてくる女の子のやきもちや心の機微、それによって動くイベントを楽しむ」ものになっています。ジャンルとしては「学園モノ」になるのでしょうが、ここに「寮」という存在を持ち込むことで、うまくその機微がコントロールされています。
 主人公がそのキャラクタに出会ってから恋に落ちて告白して結ばれるまでの流れがすごく自然なので、「進みそうで進まないもどかしさ、そこに出てくるもう一人の仲のいい女の子との関係」というものがうまく描き出されており、そのあたりの流れに複雑さはありません。
 ですので、基本的にはキャラクタメインの作品ではありますが、だからといって話そのものがないがしろになっているわけではなく、それぞれのキャラクタにそれぞれのシナリオ上での個性付けもなされています。
 これもまた、「日常」と「事件」が織り交ざった中で話が進んでいくパターンではあるのですが、その「事件」の部分がそれぞれのキャラクタによって非常に個性的なため、話そのものもまた魅力たりえます。
 先述の通り、話そのものは実は「重い」のです。そういった重さに支えられ、女性キャラクタたちの悩みや状況など、そういった話の核の部分はしっかりしています。ただ単にその語り方が軽快だというそういう話ですので、軽快ながら重みのあるストーリーが楽しめるようになっています。
 なので、「三角関係」を描いている割には後味もよいものですし、選ばれなかったもう一人のヒロインも変に抱え込んだりもしません。
 尤も、人によってはそれが不満になる可能性もあります。そういったところの描写がもっと欲しいという向きもあるでしょう。確かに、「選ばれなかったもう一人」は「選ばれたもう一人」に対して非常に前向きです。逆に「選ばれたもう一人」の「選ばれなかったもう一人」に対してのやきもちのほうが強く描かれますので、そこに違和感を感じることも十分にありえる話ですし、それもまたむべなるかなという気はします。
 ただし、そこはこの作品においてはさほど問題ではないと思います。
 なぜならば、既に何度も書いているように、この作品ではそう云ったところを掘り下げていくのではなく、あくまでも「三角関係」をツールとした物語が描き出されているからです。
 もしこれが、三角関係の結果の嫉妬(やきもち、ではなく)渦巻く話になっていたとしたら、この作品はもうちょっと違ったものになっていたと思います。それがよい結果になったのかそうでないかはわかりませんが、少なくとも、「読んでいて軽快さを感じる話」にはなりえなかったでしょう。
 そしてまた、「やきもちをやかせることでキャラクタの魅力を語る」手法も使えませんから、これほどまでに魅力的なキャラクタが描き出されたかどうかというのは微妙なところだと思います。
 そういう意味では、一見普通の物語でありながら、実に面白いことをやっているわけで、そしてその試みというのはほとんど成功しているのがこの作品の凄いところなのだと思うのですよ。
 文章上での大きな特徴としては、アダルトシーンを除き、メインのシナリオ部分については地の文を一切使わないという手法が取られています。
 地の文というのはつまり、「主人公がドアを開けると、彼女がそこにいた」と云ったような状況説明の文章ですね。これをまったく使わずに、キャラクタの台詞だけで物語が進行していきます。
 これは結構難しいもので、とにかく今自分と自分を取り巻く状況がどうなっているのか、ということを台詞だけでしなければならないわけですが、うまくいけば非常にテンポのよい文章になります。
 この作品では、そのあたりの会話の流れはものすごく自然です。画面効果自体は普通のアドベンチャーシステムですので、画面からの情報というのはある意味限定的なのですが、会話の流れからそこにある情景を想像することができます。
 と云うよりも、実際の情景描写がないからこそ、自然とそこにある光景が頭の中に思い浮かび、ストーリーがスムーズに理解できているのかもしれません。たとえば、「きれいな景色」を表現したければ、地の文で「いかにきれいな景色か」を説明するよりも、会話の中からそれぞれに「きれいな景色を想像させる」ほうがより鮮やかに景色が広がります。
 これはまた、人間の心理状況に対しても同じことで、「こう思った」というのを地の文で出されるよりも、それを一連の会話の中で想像させたほうが、プレーヤの中ではより印象的かつ魅力的なものになるでしょう。
 こういう手法をとろうとすると、どうしてもありがちな失敗というのは「会話の中に状況説明を入れてしまう」ことになると思います。
 たとえば、「今彼女がドアから出てきた」というのを台詞で云わせることで状況を説明してしまうわけですが、これでは地の文を使ったものと変わりません。否、それどころか、会話が不自然になるぶんだけテンポが悪くなってしまいます。
 ところが、この作品ではそういう間の悪さというのはありません。会話と会話のつなぎ目をうまく隠し、風景や見えるものそのものの描写を最小限にすることで、シーンとシーンとの繋がりを自然なものにしています。
 そのため、シナリオ自体のボリュームはかなりあると思うのですが、あまりそのだらだらした感じというのは受けませんでした。それはその、会話のみが続くことによるテンポの良さもありますでしょうし、シナリオそのものも、日常の中に絶妙なバランスで事件が織り交ぜられていることにあるのだと思います。
 主人公キャラクタが入れ替わることによって、主人公キャラクタへの思い入れが減るかなという心配もあるのですが、それはさほど感じませんでした。おそらくそれは、主人公キャラクタがプレイヤと同一視されるタイプではなく、ひとつの確固たるアイデンティティとキャラクタ性を持っているからなのでしょう。このへんに関しての違和感はまったくありません。
 そういう意味でも、「読んで楽しめる」作品であることは間違いありません。その中で、お気に入りのキャラクタがさらに好きになるという、そういう作品なのだと思います。
 アダルトシーンも何気に数が多く、特に着衣でのエッチシーンが多いところはユーザーフレンドリーなところではないでしょうか。せっかく可愛い服を着てるのにそのエッチシーンがないというのは、アダルトゲームのエッチシーンを見るうえで結構がっかりしたりもしますので。

<CG>
 原画は複数の方で描かれていますが、キャラクタ差による違和感はありません。全体としてカチッとした塗りが特徴的な可愛らしさのある絵です。
 ただ、開発が長時期に渡ったためなのかはわかりませんが、同じキャラクタでも絵の雰囲気が若干違うものがあり、むしろそのほうが気になるかもしれません。
 シナリオの多さに比例するようにCGの枚数も比較的多く、攻略対象キャラ4人に対して枚数はそれなりにあります。
 また、これは「システム」の項目に書くべきことかもしれませんが、CGモードで、「そのCGが出たシーンが、アダルトシーンでないものでも回想できる」というのは結構嬉しい装備。なんでもないことと云えばそうですし、どれくらい使うかと云われれば微妙なところなのですが、それでも「このシーンは好きだったなあ」というところが気軽に見返せるというのは便利です。
 立ち絵・表情のバリエーションも多く、特に服装差分がいろいろとあるので、それがよりキャラクタの魅力を引き立てます。特に菜々子・さくらの二人は表情豊かで(厳密には、その設定上さくらは決して「表情豊か」ではないのですが、しぐさなど全体で表情が感じられます)、やきもちを焼いているところ(まあつまり、ちょっと怒っているところ)なんかが可愛らしかったりするので、なんだか見ているだけでもいとおしくなってきます。
 また、ところどころにカットインとしてギャグタッチのCGが入るのですが、これがいい味になっています。種類も多く、これが結構楽しかったりもします。
 ただし、モブキャラの顔グラフィックが、ある程度重要な台詞のあるキャラクタを含めて完全に使い回しなのと、顔に目が描かれないところにちょっと違和感があります。モブキャラだからどうでもいいとか、却って個性を出さないようにという配慮なのかもしれませんが、他が丁寧に描かれているだけにどうしてもここに違和感を感じないではありません。

<システム>
 スタンダードなアドベンチャーゲームのつくりですが、基本的なつくりが丁寧なのでストレスは感じません。こまごました設計が親切なので、プレイするうえでは比較的ストレスフリーです。
 その中でも特徴的なのは、おそらく「アイテム」のシステムと「隠しイベント」のシステムでしょうか。
 ゲーム中、なにかイベントがあったりすると、それに関連した「アイテム」が手に入ります。これはすべてのプレイで共有されるデータで、タイトル画面の「RECORD」から何を手に入れたかを見ることができます。
 別にこれ自体になにか意味があるというわけではありません。中には、この「RECORD」で見ることで手に入れた時に隠されていたメッセージが読めたりする意味があるものもありますが、それは極少数です。
 これそのものは、単純にコレクションをするためのものでしかなく、「アイテムをコンプリートする」ということがゲーム本筋以外の楽しみとして味わうことができます。もちろんコンプリートしなくてもゲームのクリアは可能ですし、遊びの要素でしかないのでうが、種類がきわめて多いため、本当にこれをコンプリートしようとすると結構な手間がかかります。これを面倒と見るか楽しみと見るかといったところでしょう。「すべて埋まっていないと気持ちが悪い」という人にとっては結構遊び甲斐のあるシステムだと思います。
 また、もうひとつの「隠しイベント」のほうは、通常のアドベンチャーモードの中でふと入ってくるマップ移動モードにおいてゲーム本筋の進行とは別の部屋に入ることで発生する隠しイベントです。
 たいがいのものはヒントがなく、発生条件がシビアなものもあるので、これもまたコンプリートしようとすると結構な手間になると思います。もちろんゲームの本筋とは関係がないので、これを見ないでも話自体を楽しむことはできます。
 マップ移動モードはこの隠しイベントのために存在していると云っても過言ではないのですが、正直なところ、逆にストーリーを追おうとするとこのマップ移動は若干面倒です。
 「行く先」はわかっているので、ゲーム的な面白さはありませんし、むしろキャラクタを動かさなければいけないぶんだけ手間が増えてしまいます。また、スキップモードでも途中でこれが入れば止まってしまいますから、二度目以降のプレイでも若干テンポが悪くなってしまうことは否めません。
 ただし、「遊び」の要素としての「隠れシナリオ探し」という視点で見れば、ワンポイントとして悪くはないので、これについてはまあある意味一長一短ですね。

<音楽>
 結構いい感じです。ほわっとした曲調が多いのは作品の性質なのでしょうが、その中でも気持ちのいい曲が多いのが特徴でしょうか。「花と風のマーブル模様」とか、BGMとしてもいい曲です。
 歌はオープニングがアップテンポな雰囲気、挿入歌・エンディングははどちらもしっとりした曲調なのですが、これがいいんですよ。中でも個人的にお気に入りは、テンポのいいオープニングの「See-Saw!!」も捨てがたいんですけど、挿入歌の「隣」。静かな雰囲気で聴いていて落ち着きます。
 音声は、主人公として動いているキャラ以外は男性キャラやモブキャラも含めて声が付いているフル音声。とはいえ、どうせもうひとつの章ではその主人公にも声があるわけですから、いっそのこと主人公を含めた完全なフル音声にしてもよかったのかなとも思います。
 女性キャラクタの声はもう文句のつけどころはありません。全般的にキャラクタのイメージとしっくりくる感じで、物語の中にすっと入っていけます。
 中でも菜々子の声はキャラクタの雰囲気とものすごくマッチしていて、声質はもちろんなのですが、菜々子のどこか煮え切らない、もごもごっとしたトーンの喋り方や、自信なさそうに弱気に喋る感じなどが見事に再現されています。これはもう、声が付いたことによってキャラクタが立っている最高の一例なのではないかと思います。

<総合>
 あくまでもベースは普通の学園モノの恋愛アドベンチャーなのですが、これにうまい具合に味付けをプラスした感じの作品です。そしてそのプラス要素というのが、「シナリオ」の項目にも書いた「重いけど楽しい」というところが最大の特徴なのではないかと思うのです。
 今、たとえば学園モノの恋愛アドベンチャーゲームを作ろうと思ったとき、普通に普通の学生が普通に普通の恋愛を描く話、というのではなかなかに難しいところはあって、そこに何らかの個性づけが求められることになってきます。
 アダルトゲームの世界では、今でも学園モノというのは王道ですし、これからもそれはなにか大きなきっかけがない限りは変わることはないのでしょうが、やはりそこにプラスアルファの「その作品ならではの要素」が付け加えられるのも変わることはありませんでしょう。
 通常、この要素というのは、極端に重いか極端に軽いかに分かれます。
 極端に軽ければ、それは簡単な障害を乗り越えて結ばれるという普通の恋愛小説に限りなく近いものになるわけですが、重ければ人の死とか哲学とかそういう話になってきます。当然、重ければ重いほど「大作」になってしまうのですが、構成力が伴わない「大作」というのはどうしても物足りないものになってしまいます。
 ところがこの作品では、その二つを併せ持つテーマを付け加えてきました。
 テーマは確かに重いのですが、重いものを重く語るのではなく、あくまでも楽しく読ませることを主眼に置いて構成されているので、終わった後に心地良さとキャラクタに対する魅力や思い入れが残ります。それなりにボリュームがある割にはボリュームをさほど感じさせないあたりも、おそらくそのあたりに起因するものでしょう。
 ですから、この作品はシナリオを含めたボリュームはあるものの、決して「大作」ではありません。これは決して貶しているわけではなく、おそらくそもそも「大作」を目指して作られたわけではないのかなあと思うのです。
 この作品は「大作」を目指すこともできたのだと思います。それならば、その三角関係をどろどろしたものにしていけばいいわけですから。
 その結果それを人の生き死ににまで発展させたり、いわゆる「ヤンデレ」と云われるようなキャラクタも作りやすい設定でしょうから、そういう展開にしていけば、そういったマニアックな方向への受け方もできたと思うのです。事実、そういうのが流行った時期というのがあって、ショッキングさをウリにする方向性の作品が大量に出てきたこともありました。
 でも、この作品はそれをせず、あえて「愉快な」三角関係を描きました。
 ここがこの作品最大の特徴であり、なおかつこの作品を魅力的にしているポイントでもあると思うのです。
 キャラクタの魅力を押し出す作品を「キャラゲー」などと呼んだりしますが、スタッフさんたちが目指したか否かは別にして、結果的にこれもそういった類のものであることはおそらく間違いありません。
 ただ、いわゆる「キャラゲー」のイメージが、登場するキャラクタたちがプレイヤに媚びる(というと言葉は悪いのですが、便宜上これを使わせていただきます)ものであるのに対し、この作品ではそのキャラクタの魅力を、絵や音声はもちろんストーリーでも囲い込んできています。
 それはストーリーの中でのキャラクタの立ち回りであったり、はたまたキャラクタの立たせ方であったりするわけですが、この作品はそういったところがとにかく巧いんですね。どう動けばキャラクタが魅力的に見えるかというのを、それぞれの担当のスタッフさんたちが意識して作っているのかなあというのが伝わってきます。
 繰り返しますが、決して大作ではありません。ですが、魅力的なキャラクタと世界観に彩られた名作だと思います。

2009/10/28

戻る