ロケットの夏(TerraLunar)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3+3+3+6+
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

-物語の必然を描く難しさ-

<シナリオ>
 舞台は今よりちょっと先の世界。有人の宇宙旅行などがごく普通に行われていたが、あることをきっかけに地球人類は宇宙との交流を一切閉ざし、ロケットを宇宙へ向けることもなくなってしまった。そんな世界で、主人公たちは宇宙を夢見て、ロケットを作り上空50マイルの「宇宙」を目指す……。
 素敵な話です。宇宙とかロケットとか、(わたしを含めて)そういうタームが好きな人には堪えられないテーマでしょう。まあ、実際にそれが可能かどうかということはとりあえず置いておきます。主人公たちが過ごす時代にはそれは「がんばればできる」ことになっているのかもしれませんし、ここに突っ込むのははっきり云ってヤボというものです。このへんの理由に関しては後述。
 自分たちだけでロケットを作って宇宙へ飛び立とうとか、ネタバレになるので細かくは云えませんが細かなエピソードの演出とか、そういうものによってこの作品は極めて演劇的な作品に仕上がっています。演劇と云ってもシェイクスピアとかゴタールとかのいわゆる古典演劇ではなく、主に若者によって支持されている「新劇」というやつですね。「ロケットを作る」という最初にまずあるポイントを拾い出してみても、具体的には無理のある設定を最初に「そういうもの」と固定して「アリ」にしてしまわなければならないわけで、新劇的な考え方で物語を見ないとなかなか難しいかもしれません。どこか全体的に漂う世紀末的な雰囲気も新劇的で、こういう世界観が好みの人には非常にぐっとくると思います。
 この作品、ストーリー自体は非常に解りやすく、難解な謎解きなどは基本的にはありません。シナリオの根底や登場キャラクターが軒並み突飛な割には比較的内容自体は現実的なところで収束するのですが、ここでちょっと気になったのが、いわゆるメインテーマである「ロケット」に関してのエピソードが、特定のキャラクター以外は非常に希薄であるという点です。無論、どのキャラクターのシナリオにおいてもそのロケットの話というのは物語の最終結末に絡んでは来るのですが、それはむしろロケットをいっしょに作るという過程においての女の子との交流という部分が大きくクローズアップされている感が強くなってしまっているのですね。物語として最初に広げた前提が、シナリオによっては回収されないまま(あるいは中途半端に回収されただけで)終わってしまう感覚です。まあゲームという表現手段として考えればこれはこれでいいとも云えるのですが、根本にあるストーリーテーマ自体が非常に綺麗なものなだけに、これで作っているものがロケットではなく洗濯機でもいいという状況というのは、残念とかつまらないとかいうよりもなんとなく勿体無い気がしてしまうのです。
 反面、それがゆえに新劇的な要素がものすごく前面に押し出されている歩のシナリオと、「自分の作ったロケットで宇宙を飛ぶ」ということそのものを中心に描かれる千星のシナリオは非常に美しく、涙を流して泣くというのともまた違った意味合いでの感動がありました。漠然とでも宇宙というものに思い入れがある人ほどこの感覚は解りやすいと思います。
 あともう一つ、女の子を好きになっていく過程がちょっと唐突過ぎるのも気になったところかもしれません。恋なんていつだって唐突に始まるものだと云ってしまえばそうなのかもしれませんが、これが物語である以上、どうしてもある一定の段階を経た上での恋愛成就がなされないとどうにも置いていかれた感じを受けてしまいます。いわゆる一般的な「学園モノ」と違い、基本的にはロケットを作るというサークル活動を通してのエピソードが中心に描かれるわけで、なかなか難しいというのはわからないではないのですが。
 ただ、どのシナリオにおいても物語として破綻しているところが見られず、一本一本のストーリーとしてみれば非常によく出来た話ではありますので、読み始めてしまうとどっと引き込まれる魅力はあると思います。

<CG>
 一枚絵は安定して綺麗です。アニメのセルのようなかちっとした塗り方の絵ですが、この作品はその世紀末的な雰囲気もあってそれが非常に不思議な魅力になっていると云えますでしょう。ちょっとしたギャグタッチの絵なんかも用意されていて、なかなか飽きさせません。女の子の絵だけではなく、必然的に多くなるロケットやロケットの計器などの機械類も重厚感のある絵でとにかく美しいです。
 反面、微妙なのがキャラクターの立ち絵。なんとなく表情によって大きく乱れるキャラクターが多く、ちょっと気にならないではありません。これもまあ慣れてくればそれほどでもなくなってくるのですが。

<システム>
 可もなく不可もないエロゲーシステムです。まあ、スキップも高速だしセーブポイントの数も多いのですが、ただ一つだけ、この作品はどうもある一定の文章が一つの塊になっているらしく、途中でセーブしてもその塊の最初まで戻されてしまうというのはちょっといただけません。要するに、物語が第一章、第二章と分かれていたとして、第二章の途中でセーブしたとしても、ゲームを再開すると第二章の頭からになってしまう、という感じですね。別にいいのですが、再開時にまた同じ文章を読まされるのはちょっとうっとおしいです(まあ、スキップすりゃいいんですけど)。
 あとはまあ右クリックでメニューが出てくれればいいのにとか、ホイールマウスのホイールでログの読み返しが出来ればいいのにとか、キーボードでの操作ができればいいのにとかいろいろ細かい点ではあるのですが。
 バグなどの類はいっさいなし。プログラム自体も軽く、フルインストールしてしまうと快適に楽しめます。

<音楽>
 音声はありません。音楽はどちらかといえば物静かで落ち着いた雰囲気の曲が多く、これまた綺麗な曲揃いです。エンディングの唄もその唄声含めて綺麗なんですが、特にインパクトが強いのはセレンのエンディングでかかる曲。これは唄ではないのですが、作中での使われ方が非常に巧みなこともありまして、聞いているとほんとに落ち着く名曲だと思います。

<総合>
 これはおそらく、理屈ではなくて感覚で楽しむ作品ですね。まず繰り返しになりますが、ロケットや宇宙、つまるところSFというタームに惹かれる人なら確実に損はしません。シナリオによってはどうしても若干物足りない部分は出てくるかもしれませんが。
 これがたとえば可能か不可能かとか、あるいはロケット工学的に正しいのかとか、そういうことを考え始めるとたぶんこの作品は一気に色あせてしまうと思います。いや、別に本作がロケット工学的に正しくないということを云っているのではありません。というよりも、それがロケット工学的に正しいのかどうかなどわたしにはわかりません。
 これまた繰り返しになりますが、これはあくまでひとつの「新劇」です。漂う世紀末的な雰囲気も、ロケットができてそれで宇宙に飛び立つという少年たちの目標も、まず受け入れてからでないと始まりません。本作において、ここが理論的に間違っているとかいうような突っ込みというのは意味を持たないのです。
 そういう意味合いにおいて、非常に「人を選ぶ」作品であることは間違いありません。が、それは必ずしも面白くないということとイコールではないというのは一つあるということはあえて明示的に記しておきます。ゲームの世界に演劇的要素を強く打ち出して見せた、なかなかに新しい作品だと思います。

2003/3/21

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