North Wind(DreamSoft)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4−7+
シナリオ:巳無月/弘森魚/素浪人
原画:とりしも/はいおく
音声:有
主題歌:有(オープニング:『Last Letter(Snowdrop Ver)』『have eyes only for you…』/エンディング:『Last Letter(Eternal Wind)』)

<シナリオ>
 久しぶりに生まれ育った町へ、写真部後輩の女の子・儚(はかな)とともに、「恋文祭」見学の為に戻ってきた主人公・誠。そのなんということのないちょっとした帰省だったが、実は……というような展開。最初はなんということのなかった日常がゆっくりと非日常の世界へと変わっていく様子が絶妙なテンポの文章で描かれます。この引き込みのバランスが悪いとなんだか妙にハシっているような印象を受けてしまうものですが、この作品についてはそれがほとんどありません。物語のエピソード一つ一つがちゃんと地続きになっていて、一連の物語として語られているという印象を残してくれます。
 この作品では、シナリオが大きく三つのチャプターに分かれています。一つ目は「Last Letter」編、次が「Snow Memory」編、最後に「North Wind」編となっていて、ひとつづつクリアしていかないと次に進めないようになっています。ですので、「キャラクターごとのシナリオ」という概念は非常に希薄。登場するキャラクターは主人公のほかにはパッケージの裏に紹介されているキャラクターだけでも儚、雪華、深姫、水澄、佳暖と5人いるのですが、シナリオらしいシナリオがあるのは儚と雪華、佳暖の三人だけで、さらに佳暖に関してはほとんどオマケみたいな扱いなので(いやまあ、一応ストーリーに絡んではくるのですが)実質的に二人だけのストーリー展開です。水澄はそれでもまだエッチシーンがあるからまだいいとしても、深姫に至ってはエッチCGの一枚もありません。そう云う意味からすれば、人によってはボリューム不足を感じる人もいるかもしれません。が、しかし最初の「Last Letter」編こそエンディングが1パターンしかありませんが、「Snow Memory」編と「North Wind」編ではそれぞれ複数のエンディングパターンがありますので、プレイ時間がものすごく短いとかそういうことはないと思います。
 このチャプターシステムは多少補足が必要かもしれないので補足しておくと、基本的に語られるシーンはすべて同じです。例えば『Air』や『SNOW』のように、チャプターによってまったく別の時系列の話が語られるとかそういうことではありません(話の内容からすると、なんとなくそういう雰囲気はあるのですが)。違うのは、基本となる「Last Letter」編では基本的に主人公の一人称視点でほとんどすべてが語られるのに対して、次の「Snow Memory」編ではここに別の視点が時折入るようになります。これによって、「Last Letter」編で判らなかった謎がほとんど解けるようになっていて、実はここまでで、この物語の「謎」部分はほぼすべて解決してしまいます。じゃあ最後の「North Wind」編というのは何かと云うことになるわけですが、ここでネタバレしてしまうことは本意ではないのであえてボカした云い方をするのであれば、前のストーリーで語られていた物語の「別の可能性」です。かと云って大掛かりな仕掛けとか謎とかがあるわけではなくて、ここはもう本当にこの物語を完成させるための仕上げ部分という印象。このへんの展開は実に巧くできています。同じ話ですので、極端なことを云えば同じキャラクターとのストーリーを三回見ることになるわけですが、例えば「Last Letter」編でクリアしたキャラ以外は次の「Snow Memory」チャプターでの攻略ができないとかそういうことがあるかというとそうではありません。それぞれのチャプターはまったく独立した話になっていますので、そのチャプターが最初に選択できるようになれば特に規制はないです。もちろん、話を楽しむには前からそれぞれのキャラクターのエンディングを見ていったほうが圧倒的にいいのは云うまでもありませんでしょう。
 そのシナリオについてですが、全体的には非常によくまとまっています。終わった後になるほどいい話だったなあという感想もきっちり残ります。キャラクターが少ないのが逆に効いていて、終わった後に印象に残るキャラクターが多いのもまたよかったのかもしれません。儚の話なんかはどのチャプターにおいてもうまくその心の動きみたいなものが表現されていて、物語最後のエピソードなんかもなるほどと思わせてくれる魅力があります。確かに物語的に感動して涙を流すような話かと云われればそうではありません。それまでに語られるエピソードからそれを期待してしまうとちょっと肩透かしをくらうかもしれませんが、この儚シナリオはもっと単純に儚と誠が結ばれる過程の不思議な物語というスタンスで進んでいきます。そのためにいろいろな悲しいことや楽しいことがあって、最後にこういう結末でしたというそういうプロセスですね。この話が「儚」という女の子の気持ちの揺れ動きを見せる話であるならば、これだけ見事に一人の女の子の心模様を書ききったというのは凄いことだと思います。ただ、それがゆえにこの儚という子を単純に「ヒロイン」としてではなくて、なんとなく苛つく奴だという感想を持つ方もいるかもしれません。それはきっと、それだけ儚の存在に対するリアリティが濃いということだと思うのです。もちろんここで云う「リアリティ」というのは物語の世界の中にいることに違和感を感じさせないという意味合いでの「物語的リアリティ」とでも呼ぶべきもののことで、実際にこんな女の子がいそうだなあという意味での「リアリティ」ではありません。
 全体的にそういうことからすれば文句はない感じではあるのですが、雪華のシナリオだけはちょっと不満というかなんというか、もったいないなあという印象でした。ここからの一文はクリアした方以外にはなんのことやらちんぷんかんぷんだと思うので、未プレイの方は適当に読み飛ばしていただいて構いませんが、雪華については「名前以外の記憶を失っている」という設定で未プレイの方でもなんとなく感じるものはあると思います。実際、結構役回りとしては重要なポジションが与えられていまして、だからか、物語の中でも例えば「恋文伝説」に絡む意味深なエピソードが語られたりしてドキドキするのですが、それをあそこまでこぢんまりとまとめてしまったというのはどうなのでしょうか。あれでは解決したはずの謎も置き去りにされてしまうことになりかねません。無論、狙ってそういう謎を残したのであればそういう効果もアリなのかもしれませんが、それにしては最後一連のエピソードが急展開過ぎますし、どうもシチュエーションや展開を見ているとそういう雰囲気ではないのです。ああいう終わり方にするのであればもうちょっとやり方はあったんじゃないかなあと思えてなりません。
 ただ、先にも書いたように、キャラクターを描くという視点から見ればこの話はものすごく印象的です。それぞれにみんな魅力的。儚や雪華はもちろん、佳暖や深姫についても、それぞれものすごく個性的かつ魅力的に描かれています。これがこうだからこんなにこの子は可愛いのですというような説明的なものではなく、一人一人がキャラクターとして立っているのですね。このあたりは文句なしにすばらしいです。まあ、それがゆえに深姫のエピソードがほとんどないで終わるというのはもったいない気がするのですが。
 あともうひとつ、ある意味でこれが一番大切なことなのかもしれませんが、この作品の巧いところは、それぞれのキャラクターシナリオやそれぞれのチャプターでの結論が、ちゃんとひとつの話に向かっていることなのだと思います。ちと回りくどい云い方になってしまって申し訳ないのですが、それぞれの話がそれぞれ単独で存在しているのではなくて、ひとつの話でわかった結論が他の話で謎のまま終わるエピソードの鍵になっていたり、語られなかった話を補完するものになっているのです。上で「佳暖の話はオマケ」と書いてはいますが、確かにメインストーリーへの絡みは多少無理があるように思いこそすれ、そこで語られる水澄のエピソードなんかはそれまでの水澄の態度やそれにまつわるエピソードなどがどっと解決するようになっています。そしてまたこのエピソードが実にはっとさせられるインパクトがあるのですね。もちろん他の話でも同じ。だからこの作品では、よくゲームにありがちな「攻略したほうがいいキャラクターの順番」というのがありません。もともとわたしはあまり好きではないのですが、よく「最初にこの子のエンディングを見て、その後にこの子を見て、この子は最後にしたほうがいいよ」みたいな話がアダルトゲームではよくあります。でも、この作品ではそれぞれがそれぞれのシナリオに影響するようになっていますから、それを気にすることはほとんどありません。逆に、どのキャラからクリアしていっても「なるほど」という新鮮な驚きが味わえると思います。これはおそらくゲームだからできることで、ゲームならではの表現手法なのではないかなと思うのです
 エッチシーンについても結構量があります。エッチができるキャラクターは儚、雪華、佳暖の三人しかいませんが、キャラによってはそれぞれのチャプターでそれぞれエッチシーンがあるのでボリューム不足はそれほど感じないと思います。エッチシーンのテキスト自体は普通で(なにをもって普通なのかはともかく)これが実用的に使えるかはまた別問題ではありますし、それはちとシチュエーションに無理があるのではないかなあと思えるものもいくつかありはしましたが……まあ、この手の作品にエッチシーンの濃さを求める人はあまりいないでしょうしいいっちゃいいんですけどね。でも、水澄のエッチシーンはシチュエーションがシチュエーションだけになんだかこうすごくいけないものを見ている気がして実にアレです。

<CG>
 キャラクターについては全体的に非常に魅力的です。二人の方で作画を分けて担当しているのでどうしても整合性に無理がないわけではないのですが、それも気になるほどではないでしょう。枚数もシナリオボリュームがどうしても結構な分量なので差分や使いまわしが多くなり、あまり全体量として多いという感じはしませんが、それでもまとめてみると結構な量があります。ただ、立ち絵のポーズがちと少ないかな。表情パターンは結構あるんだけど、それぞれのキャラクターの服装ごとにポーズが一種類で固定なので、どうしてもシーンによっては違和感が出てくるところがないわけではありません。ついでに云うと恋文伝説のキャラクターたちについてはあんまりだと思いました。いえまあこれについてはやった人だけ納得してください。
 あと背景。これがね、すごく綺麗です。必然的に雪化粧をした山の中というシーンや神社なんていう自然に満ちた背景が多くなるのですが、これがもうすごく綺麗。何気ないところなので無視されてしまいがちな背景ですが、ここまでのクオリティだとそれもなんだかもったいないかなと。

<システム>
 おなじみのF&Cシステムというやつで、できることも豊富ですしこれといったバグもなく非常に快適です。スキップも高速ですし、チャプターの枠を越えて一度読んだ文章を飛ばしてくれるのは非常に有難いです。これはまあ云い方を変えれば、チャプターが違ってもその多くを同じ文章で共有しているということの裏返しなのですが……まあ、それを云っても仕方が無いでしょう。セーブポイントの数もフラグがさほど難しくない割には豊富です。
 特徴的なのは、ポイントポイントでムービーが入ることでしょうか。ポイントになるシーンや見せ場のシーンなどで、ぽっと短いアニメーションが入ってきてそれでそのシーンを見せてくれるのですね。例えば冒頭、「主人公の乗った電車が駅に到着する」シーンでは、雪が降る山奥の踏み切りが鳴り、電車がホームに入るまでを見せてくれるわけです。まあ、シーンによってはちと蛇足かなあと思ってしまうところもないわけではないのですが、基本的には面白い演出なんじゃないかなと。
 ああ、でもひとつだけ。なぜかうちの環境だと、ゲームを起動したときに音楽が勝手にオフになっていることが多くて。なんでなのかなあ。

<音楽>
 よいです。歌もの三曲もよいのですが、劇中曲ですね。これが印象的で、「長い刻の流れに」とか「夢語り」、「聖誕祭」あたりが特にお気に入り。全体としてのんびりした曲調で、実に雰囲気にぴったり来ます。全体的にゲームのBGMとしては長い曲が多くて、是非ともせっかくなので「Music Mode」で全部通して聴いてみてください。
 声も文句ありません。男キャラはちと微妙ですが、女性キャラはみんな揃ってイメージを削がず、なおかつ非常に巧いのでついついバックログで何度も同じ台詞を聴いたりしてしまいます。佳暖と雪華は特にそういう印象。佳暖はちょっと舌足らずな感じの喋り方が、いわゆる「おにいちゃん」キャラの説得力を倍増させていますし、雪華は飛びぬけて明るい台詞のテンションなんかはもう聴いてるだけで楽しくて仕方ありません。

<総合>
 この作品を買う前は、実際にあるエピソードを元にしたという「恋文ポスト」とか、そういう設定そのものについても結構期待してはいたのですが、それはあまり表に出ては来ませんでした。無論、それがひとつのテーマになっているわけで、それがなくて話が成り立つはずはないのですが、じゃあそれがエピソードとして印象に残るかと云われるとこれはちょっと疑問。なかなかに難しくはあるのですが、このへんの描写というのはもうちょっと濃くても面白かったのかなという気はします。あまり行き過ぎるとわけわかんなくなってしまいますけれどもね。欲を云えば、さらにもうひとつ、過去の恋文伝説に対するフォローのチャプターが欲しかった気がします。またしてもクリアした方じゃないとわからないことで恐縮ですが、それがあってはじめて雪華シナリオの中で語られるエピソードが完結する気がするのですよ。
 ただまあ、別にこの作品自体は巫女さんゲームであるというわけではないのですけども、昨今の巫女さんブームに乗っかったアダルトゲームにありがちな、巫女装束さえ着てればあとの設定は巫女だろうがスチュワーデスだろうがなんでもいいじゃんかこれみたいな巫女さんシナリオが蔓延する中では、ちゃんとそのキャラクターが巫女であることに意味があるというのはすばらしいんじゃないかと思います。そう云えば本物ではないにしても、水澄と佳暖がいる喫茶店の制服はどこからどう見てもメイドだし、そのへんにもしっかりと拘っているのかもしれません。
 がっと感動して泣きたいとかって人向きではありませんが、そうでなくてキャラクターとかが好きなら是非ともやってみてください。おそらく後悔はしないんじゃないかなと。

2003/10/04

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