アルキメデスのわすれもの (Circus)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3+2+6+
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

<シナリオ>
 「水夏」のファンディスクです。と云ってしまうとそれで終わってしまうのですが。シナリオと呼べるものは、それぞれ「水夏」の外伝二種類と「D.C.」体験版の二つ。「D.C.」のほうは、既に本編のソフトを入手済みなのでこちらはこれでおいておくことにして、さしあたり「水夏」外伝のみの評価です。
 まず文章と文章のテンポですが、こちらはもう相変わらずの心地よさ。本編「水夏」には及ばないにせよ、やはり非常に美しい言い回しと絶妙なテンポに彩られています。シナリオそのものに関しては、もっとも内容のある「水夏0章」は一応「水夏」の外伝扱いになってはいますが、その実本編の「水夏」に登場するキャラクターなどは一切登場しません。常盤村という村を舞台に世界観は共有していますし、一応「名無しの少女」が登場しますが、これは本編第四章に登場した「名無しの少女」とは別人です。おまけのように登場するということもありませんので、いわゆる純粋な意味での「ファンディスク」というのを期待すると肩透かしを食らう可能性はあります。ただ、本編とこの「0章」とで語られる物語の根底にあるものは基本的には同じところにありますので、まさにその名前の通り、「水夏」の追加シナリオだと思えばこれはなかなか読ませてくれます。ただ、如何せんその物語に対する書き込みが(ファンディスクという都合上)許されていないせいか、本編と比較するとどうしても浅く感じてしまうのは仕方が無いところでしょう。それ単体で見れば完成度はもう流石としか云えない素晴らしいものなのですが、「水夏」本編にあったような大どんでん返しが見られなかったのはちょっと残念ではありました。
 水夏外伝は、本当に短い話が5つほど収録されているものです。うち三つは完璧にギャグ一辺倒のもので、これをくどくど説明するにも野暮だし別に説明するものではない(つまらない、という意味ではなく)のでここでは詳しくは割愛します。まあ云い方は悪いかもしれませんが、本当に片手間で作ったような感じは漂ってきますので、このへんはさらっと読み流すのが正しい楽しみ方でしょう。
 この「外伝」でシナリオっぽいものがあるのは残りの二つです。一つは第二章に登場した主人公、蒼司の妹が主役。なるほどちょっと不思議なショートストーリーと云った感じでしょうか。もう一つは、これまた第二章に登場した脇役キャラ「みっちゃん」が主人公のギャグ系物語です。この二つに関しては、ショートストーリーとして見ればなかなかに楽しめました。まあ、本当に短くて軽いタッチの話ですので、本編独特の雰囲気や美しさなどはほとんど感じられませんが、アミューズメントディスクとして考えれば妥当だと云うところでしょう。特に蒼司の妹の話に関しては、微妙に本編とリンクしているところもあってああ、なるほどと思わせてくれます。

<CG>
 とりあえず壁紙とかそういうものに関しては趣味が強く出るのでとりあえず除外。んで、「外伝」に関しても一枚絵は一枚もなく、立ち絵も出てくるのはみっちゃんと律先生、若林先生の三人だけですのでこちらも除外します。「0章」は物語が描き下ろしで出てくるのがすべて新キャラ(本編登場キャラは旅館の女将さんだけ)なので、立ち絵も一枚絵もそれなりにはあります。
 あるんですが、これ、立ち絵はともかくとして一枚絵が微妙に怖いです。キャラクターの特徴というのもあるのかもしれませんが、膝枕をされているシーンとかの目の怖さはなかなか迫力モノです。さらには膝を抱えて座っている一枚絵とかもちょっとバランスが。まあ技術的なことに関してわたしがどうこう云うのも変な話ですが、本編と比べるとちょっと馴染めなかったかなと。ヘタだとかそういうことじゃ絶対ないんだと思うんですけどね。

<システム>
 「水夏」システムを完璧に踏襲しています。「水夏」が文句なしならこちらも文句などあろうはずがありません。おまけディスクながら、音楽モードやCGモードも完備。CDがなくても起動できるのも手軽でよいです。ちなみに、本編第四章の登場キャラクタ「ちとせ」に声をつけるパッチも付属していまして、これをあてると本編でちゃんとちとせが喋ってくれます。これは第四章が好きな人ならよりハマれること請け合い。声そのものは極端なロリ声なので好き嫌いはあると思いますが。

<音楽>
 新曲が数曲追加されてはいますが、基本的には「水夏」と同じ曲が使われています。これも「水夏」があれだけのものを見せてくれたのでまったく文句はありません。「0章」では新キャラである「名無しの少女」と、彼女が連れている鳥に声がついていまして、たぶん「名無しの少女」は水夏の千夏、鳥は名無しの少女だと思うんですが、これがなかなかに見事にハマってます。必要以上に鳥の声が可愛いのがなんだかアレですけど。

<総合>
 まぁ、ファンディスクなんてこんなもんだっていう「こんなもん」の範疇は確実に超えてます。「水夏」に漬かった人ならそれなりには楽しめるでしょう。ただ「水夏」は好きだけどあの作品のキャラが好きなんであって別に作品そのものはどちらでも、って人には向きません。0章および外伝物語には本編のメインキャラクターはまったく登場しませんし、いろいろなミニアプリケーションみたいなものは収録されていますが、それも取り立ててそれぞれのキャラクターを贔屓にしたものではありません。そういう意味では、確かにファンへ向けられたファンディスクではありますが、その中でもあの作品の世界観にハマったのだという人向けです。どちらにしても、あまり過剰に期待するとちょっと肩透かしを食らう可能性はありますが。
 これ、こういう系統のものは云うまでもなくファン以外は買わないとは思いますが、その中でもより人を選ぶ作品ということになりましょう。「水夏」の世界観が好きな人には是非ともオススメします。


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