こころナビ(Q-X)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4−3−3+
シナリオ:茉森晶
原画:亜方逸樹
音声:一部
主題歌:有(オープニング:『こころつなげて』/エンディング:『ハレバレしよう!』)

<シナリオ>
 今から少し先の話、インターネットの世界は「IRIS」というシステムによって少しだけ進化していて、「ラウンダー」という仮想人格を使ったネットワークシステムが盛んになっていた。そんなネットを楽しむ主人公のもとへ「こころナビ」という謎のソフトが「モニターに当選した」というメッセージとともに送られてきて……というのが基本です。
 まず、この物語を説明するにあたって欠かせないこの「ラウンダー」という存在なのですが、これはつまりネットゲームのキャラクターだと思っていただければよいでしょう。
 ユーザーが人格を自由に作成できて、そのキャラクターを使ってWEBのページそのものを歩きまわる……といった感じになります。ネットゲームだとネットゲームの世界だけがフィールドになりますが、それがWEBページ全体に広がったもの、という印象ですね。
 で、主人公のもとに送られてきた「こころナビ」は、そんな「ラウンダー」の世界に自分自身が入り込めるシステムだと思ってください。先のネットゲームの例えで云えば、プレイヤーが直接ネットゲームの中へ入り込むことができると云う感じです。
 まあ、これだけ読むと結構なトンデモ設定ではあるのですが、この導入はその軋みをあまり感じさせません。
 キャラクターたちの設定が巧いのと、なによりそれだけ文章のテンポがいいのですね。そんなん設定としてむちゃくちゃだとか、そこで納得するかおまえはとか、そういうツッコミをこちらがする前に、するするっと物語が進んでいく感覚です。
 これを「騙している」と取るかどうかというのはなかなか大きい問題ではあるのですが、そんなことよりも先がどうなるんだろうという思いのほうが先に立ちますから、そこにそれほどの違和感があるわけではありません。と云うよりも、逆にこれでなにかくどくど説明されていたりすると、むしろそのほうが世界観が軋んでしまうような感じはします。
 この文章のテンポのよさに関しては後半から終盤に至るまでずっと続きますので、少なくとも「読まされている」という感じはまったくしません。
 最初はなんとも他人に対しての接触が苦手な感じだった主人公が、だんだんと人と普通に話すことができるようになっていく過程というのも自然な感じに書かれていますし、現実ではないリアルを描いたという点においてはこの作品のシナリオはかなりのものだと云えますでしょう。
 そしてさらに、この作品は主人公が女の子に恋をしていく過程というものの「間」が、実に絶妙に描かれています。
 恋愛ゲームの場合、それまではほんとになんでもなくそこにいるだけみたいな女の子にいきなり恋をしてしまったりなんかする、ええそれでいいの、みたいな展開が多くてこれがどうしても不服だったのですが、この作品ではとりあえずは「次第にその子が気になっていく」という展開の間が結構巧く書かれているのです。
 特にみまりあたりはそれが巧くて、主人公はもちろん、みまりもまた次第に主人公のことが気になっていく、みたいな微妙な感じがうまく伝わってきます。
 ですがこれを大きく阻害するものが、そのシステムです。この作品のシナリオシステムは、大きく前半の共通パートと後半の各キャラパートに分けられていて、(小春以外は)最後に自分から告白する相手を決定するシステムのため、シナリオとしては「どの女の子にもある程度仲良くなる」ものを要求されてしまうわけです。
 だって、それまでぜんぜんつっけんどんに対応していた女の子に、いきなり「実は俺はあの子が好きだったんだ!」なんて思うのはおかしな話ですから。
 まあ、好感度パラメータとかでその後フラれる展開にするにしても、作品の中の主人公がそう思うだけのきっかけは「一応与えておかなければならない」わけです。
 と、ここでおかしなことが発生します。
 確かに、この「次第に好きなっていく」過程は非常に巧く描かれているのですが、仮にプレイヤーが八方美人な対応をした場合、主人公は「いろんな女の子にほのかな恋愛感情を抱く」ことになってしまうわけです。
 無論そういう人もいるでしょうし、それまであまり人付き合いが得意ではなかった主人公ですからそういうこともあるのかもしれませんが、これはやはり物語としてはちとまずいということになりかねません。
 つまるところ、プレイヤーが一人の女の子に絞ってそのシナリオをプレイしてくれる分にはよいのですが、「みんなに優しくする」ような展開だと、なんじゃこの主人公は、というようなことになってしまいかねないわけです。
 「誰かに告白される」展開であればこれでもいいのですが、本作品のように「誰かに告白する」展開にはこれはあまり向いているとは云えません。
 そしてもう一つ。先にも述べたとおり、この世界では「ラウンダー」という本人とは別の人格がネット上に存在していますから、『バイナリィ・ポット』でもそうだったようにこの手の物語としてはお約束として「現実」と「ネット上」では誰と誰が同一人物なんだろうということを考える面白さというのがあるわけですが、このへんもどうも弱い感じ。これはもしかしたらあの子かもしれない、という予想に対してまったく意外性がありません。
 これはちょうど、たとえば殺人事件の起こるサスペンスものを考えてみるとわかりやすいかもしれません。
 殺人現場で殺された人の前に血まみれのナイフを持って立っていた人というのがもしいたら、普通の物語ではこの人が犯人である可能性はきわめて低いです。と云うよりも、もしこの人が犯人であったら物語もなにもあったもんじゃありません。はい逮捕、で終わりです。
 そこでこの人が犯人ではないとする何か(たとえばその人も殺されてしまうとか)があって、それがまた新しい謎になって物語は盛り上がるわけです。もちろん、裏の裏をかいてやっぱりこの人が犯人なのだとする手法もまたあるかもしれませんが、それはやはりトリックとしてはかなり特殊であると云えますでしょう。
 つまり、この作品ではそういうことが行われてしまっているのです。他の人はまだいいにしても、忍に関してはその位置付けがかなり特殊なわけですから、これを「わからせてしまう」のは物語としては致命的になりかねません。これだけはもう二捻りくらいほしかったところです。
 と、基本的にはそういう非常に素直なというか、裏のないストレートなシナリオですので、物語自体になにか驚くべきどんでん返しとかがあるわけではありません。
 ごくごく普通の物語ですし、そんな極端に起伏があるわけではありません。逆に云えばそれだからこそ面白いというのもあるんですが、もうちょっと根幹の部分でも、特にこの「こころナビ」についての謎というのが知りたくて結構楽しみに読み進めることができると思います。
 ちょうど『はっぴ〜ぶりーでぃんぐ』と同じ感覚ですね。あの「なんだかなんとなく嬉しくて楽しくて、ちょっぴり幸せ」な感じが見事に演出されています。
 が、その謎自体に関しては実にあっけないものです。確かにやっているうちはまったく気にならないのですが、終わってから、さて、と考えてみると、ちょっと待てそれはなかろうということになってしまうのです。
 特に「こころナビ」ができた理由とか、その「こころナビ」がなぜ主人公たちに届けられたのか……というあたりですね。
 さらに云えばルファナに関してはわからないことだらけです。このあたりの弱さは際立っていて、その収束感の悪さというのはどうしても気になりました。
 この「こころナビ」に関する謎は一応ある女の子のシナリオでのみ解決される……と云うよりも、「こころナビ」の謎そのものとシナリオが大きく関わってくるのですが、しかしこの収束感のおかげでそれが解明されないまま終わる他の女の子のシナリオのほうがずっと魅力的な印象を受けてしまいました。
 エッチシーンは確かに数は多いのですが……なんとなく無理やりそういうシーンを入れてみました、という印象はどうしても拭えません。もっとも、ラウンダーの存在があるのでどうしてもこういうことになってしまうのでしょうが、しかしどうもなんだかなあ、って印象ですね。基本的に告白が終わってから一気にエッチの連続になるから余計にそう感じるのかも知れませんが。
 ルファナに関してはバリエーションも量も結構あるのでまだ満足なものの、全体的に「濃さ」という点からするとちょっと物足りません。これはまあ声のせいでもあるのですが……と、これについては「音楽」のところで後述します。

<CG>
 悪くないです。特にキャラクターの立ち絵と一枚絵はすごくいい感じ。特に一枚絵に関しては、ほんとうにみんな生き生きとした感じがします。
 尤も、細かいバージョン違いを含めなければ一キャラクタにつき12枚という枚数の少なさはちょっと気になりますけどね。
 さらに、そのほとんどがエロシーンで、普通のシーンでの一枚絵が極端に少ないのもちょっとどうかなあ。別にエロゲーなのだからそれでもいいといえばいいというか、もともと12パターンしかない絵の中でエロシーンをこれ以上減らすというのはさすがにまずいんでしょうけれど、やっぱりちょっとなあ、という気はします。話自体の長さが結構あるだけに、ちょっとばかり物足りない感じはしてしまいました。
 あと背景。これがあまりに適当すぎます。教室のシーンの後ろにいるのはあれはなんですか、ちょっとヒトっぽいものですか。

<システム>
 ごくごく普通のアドベンチャーシステムなのですが、あまり使いいいとは云えません。この作品、前半の共通パートの長さが結構あるのでどうしても既読スキップを多用することになるのですが、まずこれがあまり早くないです。さらに画面の切り替えも決して早くはないため、ちょっといらいらすることもあるかもしれません。
 セーブ・ロードに関しても、セーブポイントもセーブした日付しか表示されず、数もあまり多いわけではありませんし、タイトル画面から「ロード」がないというのも使い勝手云々以前に珍しいです。
 また、バックログがマウスのホイールに中途半端に対応しているというのもよくわかりません。
 普通の画面からマウスのホイールを動かしても何も起こらないのですが、バックログ画面が表示されている時点ではホイールでログの前後ができるようになります。だったら最初からホイールでバックログ画面に行ってくれよと思うのですが。
 右クリックがメニューではなくバックログ画面への移行に当てられているのもちょっと戸惑うかもしれません。慣れるとこれは便利なんですけどね。ま、ホイールでバックログモードに入ってくれれば済む話なんですけど。
 さらによくわからないのは、ゲーム内の時間が画面の中に表示されないこと。別に作中に時間の概念がないわけではなくて、ヘルプファイルなんかを見ると一応12月の8日から始まって24日のクリスマスの日にいろいろと云々、みたいなことが書いてあったりするのです。じゃあ画面に出してくれよなどと思ってしまうのですが……なにか考えあってのことなのかそうでないのか。
 まあ、一応一通りの機能は使えますし、大きなバグもなかったので(ただし差分ファイル1.1インストール済み環境)、快適とは云えないにせよそれほど大きな文句があるわけではありません。
 CDにヘンなコピープロテクトがかかっているらしく、ドライブによって不都合が起きたりはしているようですが、わたしの環境では特にそういった不具合もありませんでした。

<音楽>
 音楽は全体的にいい感じです。まずは歌モノのオープニングとエンディング。エロゲー主題歌で今ハヤリの系列とはちょっと違う、『巫女みこナース』みたいな露骨なハズシ系でもなければI've Soundみたいなカッコイイ系でもない、いわゆるアニメ主題歌系の曲とでも云いましょうか。
 これが実にいい感じで、とくにエンディングの『ハレバレしよう!』は、そのタイトルの通り聞いているとなんだかうきうきしてくるような明るい曲調の素敵な曲になっています。
 ゲーム中の曲も、『おとぎ話の』とか『lumi lyhty』とかちょっと不思議な、透き通った感じの綺麗な曲あたりが特に聞かせてくれて、音楽に関しては本当に云うことはありません。
 なんですが、反対に声がどうも……。まず、「一部有」な時点でちょっとどうかなと。一部というのは本当に一部で、「女性だけフルボイス」とかですらなく、主要なシーン……たとえば出会いのシーンとかエッチシーンとかエピローグとか、そういうところに「だけ」声が入ります。
 つまりどういうことかというと、それまで聞こえなかった声がいきなりシーンの途中で入ってくる、ということです。
 これが例えば、IRISの中では声で会話をするわけではないからこのネット中のキャラ会話に関しては意図的に声を入れていないとかっていうのならば解るのですが、別にそういうわけではなく、エッチシーンや出会いのシーンではIRISの中でもしゃべるときはしゃべりますからわけがわかりません。
 しかも、出会いの次にしゃべるのは告白のシーンですから、この間は非常に大きくて、すでに最初に聞いた声など忘れてしまっています。あれお前そんな声だったっけ、となること請け合い。
 個人的には、こういう中途半端なことをするくらいならいっそのことナシにすりゃいいのに、とか思ってしまうんですが。
 まあ、エッチシーンには声がないといかんという人もいるでしょうからこれは仕方がないのかもしれませんが、しかしこの声そのものもちょっとどうかなあ。
 なんというかこう、口さがない云い方を許してもらえるならば、はっきり云ってうまくないです。キャラのイメージに合っているかどうかというのは好みの問題なのでおいておくとして、まず間の取り方がもうなんだか。
 たとえば、「そ……そうなんだ」という台詞があったとしましょう。このとき、実際にはこの「……」の間(ま)は「喋り手の戸惑いの時間」なわけですよ。ここは間(あいだ)を空ける、ってことじゃなくて、間(ま)でそのキャラクターの感情を表現してるってことだと思うわけです。
 だからここは、これを台詞として読むときは「……」の分だけ間(あいだ)をあければいいってもんじゃなくて、「そういう心境でここを表現する」という意味にほかなりません。楽譜の「andante」や「rit.」などと同じく、「そういう風に読む」という記号なんですね。
 だから別に、「……」があったからと云ってすべて同じように間(あいだ)を空けなくてはいけないわけではないですし、逆にここはそういう感情でもって喋らないといけないところなのです。
 と云うよりも、どれも同じような間(あいだ)をあけたら、絶対に台詞としてはおかしくなります。これは自分で「巧い」と思うゲームで意識して聞いてみると、なんとなくわかりますでしょう。ヒマと興味がある方はちょっと試してみてください。
 まあ、つまり平たく云えば、すごく棒読みなんですね。全体的にそうなんですが、特にみまりあたりがすごいことになっています。そこにある台詞をただ読んでいる感じが拭えません。
 普通のシーンならともかく、エッチシーンで棒読みチックなのはもう致命的です。どんなに盛り上がっていようが、どんなにキャラに惚れようががっくり来ることまちがいなしでしょう。
 この作品、ディフォルトの設定では「音声」がオフになっていて、ゲーム開始時に「もし音声が聞きたければ設定でオンにしてください」みたいなメッセージがタイトル画面に出てきます。なんでこんな面倒なことするんだろうなあ、とか思っていたのですが、やってみれば「なんだ、メーカーさんもわかってたのか」としか突っ込めません。

<総合>
 いろいろ云いはしたものの、基本的にはすごく普通に楽しめる作品だと思います。
 シナリオの結末というかオチに納得がいくかと云うと決してそんなことはないのですが、アイノやみまりのシナリオなんかはすごく綺麗にまとまってますし、そういう「物語」を読ませてもらったと思えば決して悪くはありません。
 上にも書いたように声だけが如何ともしがたいですが、まあそれさえなんとかすれば、あまり好き嫌いのない、誰にでもオススメできる作品なんじゃないかと思います。
 あと蛇足ながら。凛子のシナリオの展開は特筆モノですね。非常に巧いですし、なによりこういうシナリオを作品の中に入れたということ、と云いますか。
 別に萌えとかそういう単純なことではなく、「実はわたしたちは……」的な安易な逃げではなく、「ああいう関係」をああいう風に描いた……ということそのものが、アダルトゲーム上の物語として非常に面白いと思うのです。

2003/10/30

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