風ノ唄(みるくそふと)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4+3+7−
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:


<シナリオ>
 静かな田舎町にあるアパートに越してきた主人公が経験する、四人の女の子たちとの恋を描いたラブストーリーです。雰囲気は悪くありません。全体的に静かで落ち着いた雰囲気が漂ってきていて、最初から「癒し系」を謳うその作品意図はなんとなく伝わってはきます。雰囲気というか、舞台の設定の仕方は非常に秀逸で、最初から物語の世界へと没頭していけますでしょう。文章も一文一文が非常にすっきりしたテンポのいいものなので、物語を進めていく上ではまったく苦痛はありません。凝った云いまわしとかは特にありませんが、その分だけ話も非常にわかりやすくていい感じです。
 登場する女の子たちも、ほんとにみんな魅力的。攻略できる(というのは、なんか嫌な云い方ですが)女の子は四人とあまり多くは無いんですが、みんなそれぞれに魅力的なんですよ。キャラクターの設定自体はヒネったところはまるでありません。幼馴染みの女の子(さつき)は主人公をぽかぽか叩いてくる元気ッ娘だし、巫女さん(凛)は楚々として清らかだし、アパートの管理人さん(葉子)はいかにも年上の女性と云う感じの落ち着いたたたずまいだし、管理人さんの妹(文)はこれでもかとばかりに内気娘だしで、それぞれの特徴になんとなく思い浮かんだイメージを当てはめればだいたいそれが正解になってしまいそうな感じの設定です。それだから悪いと云うんじゃなくて、その中でのキャラクターの魅力を精一杯に見せているんです、この作品は。ああ、こういうことをしてくれたら可愛いだろうなあとか、こういうことを云ってくれたらいいなあとか、よくある設定だからこそなんとなく思っている振る舞いを、ちゃんと女の子たちが取ってくれるんですよ。ソーダアイスとかイヤ焼きとか、ちょっと変わったベクトルで好きな食べ物が設定されているというのもお約束ですし。まあ、それがゆえに単調と云えば単調だし、この女の子たちにお気に入りがいないのならこれはまったくどうにもこうにも、ということになってしまうわけですが。エッチシーンも、まあ数はやっぱり決して多くは無いにせよ、この手の作品にしてはなかなかねちっこくていいかもしれません。これはまあ、後で述べる声優さんの演技にも助けられているわけですが。
 それならば、それだけの魅力をもった女の子たちと主人公の間の恋愛物語だって盛り上がるだろうと思うんですが、これはちょっと疑問符がついてしまいます。その疑問符の原因が、その「シナリオそのもの」です。
 シロウトが何を生意気なと思われたら本当に申し訳ないんですが、これ全体的に、もうちょっと練りこんでみればきっとすごくいいものになったんじゃないかなあと思うストーリー展開なんですよ。とにかく展開が荒い荒い。まず、主人公がどうしてこのアパートに越してきたのかとか、そういう情報が最後まで与えられないというのもなんだか凄いですが、本編の展開もある意味でびゅんびゅんすっ飛ばしてます。なんとなく会いたいなあと思っていた文になんとなく散歩してたら会えるし、なんとなく入った店の店員は幼馴染みの女の子だし、そこで特に理由も無く薦められた神社に行ったらなんとなく唐突に眠くなってなんとなく寝てたらイカやき貰えてなんとなく巫女さんと知り合えるし……まあ、ゲームだからと云ってしまえばそれまでなんですが、これがゲーム開始二日目で一気に起こるので、なんだかものすごくご都合主義を感じてしまいます。せめてもうちょっと間を空けてくれればなあと思うんですが。
 個別のシナリオ単位で見ても、おそらく、この作品中もっとも力が入れられていると思われる凛のシナリオは最後の見せ場も含めて結構いい感じなんですが(例に漏れず急展開は急展開ですし、ありがちと云えばそうなんですが、それでもというかそれだけにこの凛シナリオに関してはちょっとホロリときました)、他のキャラについてはちょっと唐突と強引と都合の見事なハーモニー。文のシナリオは広げた重みのありそうな伏線が中途半端になってるし、葉子とさつきに冠してははおいおいそれでいいのかとばかりの急展開で、恐怖を感じる間もない超高速ジェットコースターに乗せられているような感じです。特に文のシナリオについては、個人的にかなりどうかと思うところもありまして、どうにもこうにもです(これは強烈なネタバレになってしまうので表立っては書けないんですが、もうクリアしてしまった人なんかはこのページの一番下に理由を書いておきましたので気になったら見てやってください。逆にクリアしてない人は一番下の文章を読んでしまうとつまんなくなってしまいます)。
 なので、雰囲気から漂ってくる泣き系のシナリオを期待すると、おや?ということになるかもしれません。もちろん単純に「つまらない」と一蹴するようなものではないですし、急展開ながらもちゃんと物語として読めますから、ゲームのストーリーとしてはきっちり楽しめると思います。でもそれよりも、キャラクターたちの可愛さにホホを緩めるというのが正しい楽しみ方でしょう。先にも書きましたが、直球勝負なだけに女の子たちは素直に可愛いですから。そういう意味では「癒し系」に偽りはありません。

<CG>
 一枚絵は間違いなく綺麗だし可愛いです。特に管理人さん関係の絵は安定してて非常に可愛いですね。全体的に塗りが淡い感じで、静かな舞台の雰囲気に見事にマッチしているというのはまずあるんですが、それ以外にもとにかく表情が生き生きしてます。凛なんてキャラクターとしてあんまり表情が激しく変化するほうではないので難しいと思うんですが、そんな中でも微妙な笑顔や微妙な悲しみなんていう、言葉にするのは難しいような表情が表現されててドキドキしてしまいます。個人的には、文がアイスを舐めている絵がなんだかとんでもなく好きなんですがまあそれはどうでもいいです。
 反面、立ち絵のほうは正面向きがちょっとツラいかも。まあ、この原画家さんの持ち味なのかもしれませんが、ちょっと目が離れすぎではないかと思えるような……。一枚絵でも顔の向きによってはそれを感じてしまうところもないこともないですが、それでもほかの絵が軒並み可愛いのでまあよいです。さつきと管理人さんにだけ存在するちょっとギャグっぽい絵もちゃんとアクセントになっていて笑わせてくれます。

<システム>
 基本システムは、Nscripterという出来合いのシステムなので、とくにこれといったバグもなく非常に安定しています。CTRLキーでのスキップは既読未読を判別せず、スキップモードでのスキップはこれを判別してくれるという二種類が用意されているのも便利ですし、セーブポイントは決して多くは無いものの、選択肢自体が難しくないので必要にして十分でしょう。クリックに対しての反応が若干重いような気はしましたが気になるほどではありませんでしたし、第一これはわたしのマシン環境のせいかもしれないのでなんとも云えません。進行自体は本当にオーソドックスな選択肢式のアドベンチャーですし、はっきり云って操作に迷うことはまったくありませんでしょう。そのかわり、目新しいシステムや凝った仕掛けなどは一切ありませんが。
 ただひとつだけ、その前のシーンだと夜だったのに、次のシーンになると昼間になってたりすることが何度かあって、それが気になると云えば気になりました。

 <音楽>
 この作品に関して、「癒し系」をもっとも意識するのはここだとわたしは思います。音楽で云えば特にエンディングの唄「夢見桜」。これは本当に綺麗な曲です。決して激しく起伏のある曲ではないんですが、エフェクトのかかった透き通るような声と落ち着いたメロディはまさに「癒し系」そのもの。歌詞も綺麗で、この曲が聞けただけでもこの作品を買った価値はあったとわたしは思っています。劇中の曲も「葉月」や「古森の社」、「双子星」など落ち着いた感じで個人的にお気に入りの曲は非常に多いです。
 そして声。これも秀逸。もちろん単に可愛いってのももちろんありまして、特に文の声は甘ったるい声が凶悪なロリボイスで、その類のキャラが好きな人ならまず一発で落ちるんではないかと思われますがそれだけではなくて、演技がほんとに巧いんですよ。エッチなときには徹底的にエッチに、自然なときはとにかく自然に。文のような内気系キャラを自然に演じるというのはものすごく難しいんですが、わたしたちが頭の中に描く「内気な女の子の理想的な態度」を見事に再生してくれるんです。
 特にさつきの声の人がその自然さでは一歩抜けて見事。この人が巧いのは「間」の取り方で、ひとつの台詞の中での言葉の切り方と切った言葉をつなぐ絶妙な時間をちゃんと意識してくれています。逆に管理人さんの人はちょっと違和感があるところがあったかなという気はしますが、どうしても気になるというほどではありません。エロゲーの声優のレベルが全体的にものすごく底上げされてきているのを感じてしまいました。

<総合>
 ほんとに惜しいなと思うのは、やっぱりシナリオの仕込み不足。前半部分でもうちょっと伏線を引いて、主人公が女の子たちに恋をしていき、女の子たちが主人公に惹かれていく過程を書き込んできたら、同じ展開のシナリオでもかなりぐっとくるものになったんじゃないかなと思うんですよ。確かにシナリオのオチはどれもひねったものはない直球ベタネタなんですが、それはそれでいいと思うんですよ。直球でも、見せ方によっては信じられないくらい感動させてくれる話というのはいくらでもありますから。特にさつきのシナリオに関してはそれが顕著。あれは前半部分から中盤の山場にかけてのあっさりしすぎな展開のおかげで、後半からエピローグにかけて見せ場が非常に軽くなってしまっています。これがどうしても展開の急さを感じさせてしまうんですよ。無駄に長い話というのはそれはそれで読んでいて苦痛ですが、物語としてその無駄な長さが必要になる場合だってあるのです。
 まあ、そういうあれなので、買う前なんとなくシナリオに期待していた面があったのでちょっと肩透かしは肩透かしでしたが、それでも間違いなく普通に楽しめた作品ではあったと思います。エッチシーンがそんなに多いわけでもありませんから、なんというか本当に正統派のキャラゲーですね。絵と雰囲気、キャラクターが気に入れば買っても後悔はしないでしょう。マジかよってな急展開を気にしなければ、まちがいなく「癒し系」ではありますから。



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