ひなたぼっこ(Tarte)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4+3−3+
シナリオ:四天
原画:笛
音声:フル
主題歌:有(オープニング:『太陽』/エンディング:『紅の花』/挿入歌:『扉』)

<シナリオ>
 へんな云い方かもしれませんが、ある意味いまどき珍しいくらいスタンダードなエロゲーシナリオです。
 大学生の主人公がまわりの女の子たちと普通に仲良くなっていくという、よく云えばわかりやすく、悪く云えば紋切り型のシナリオ展開。どんでん返しもなにもありません。
 まあ、これはこれで悪いことではないのですが、正直、残念なことに終わってからの感想はちょっとどうかなあという不満が非常に大きく残るものになってしまっています。
 その原因は明らか。とにかくボリューム不足です。
 フルコンプリートまで……つまり、全員分のCGをすべて見るまでにかかる時間は、二回目以降スキップモードを使えばおそらく三時間程度なのではないでしょうか。
 短いなら短いなりにまとまってくれていればいいのですが、これがなんというか実に小ぢんまりとまとまってしまっている感じというか。
 シナリオがとにかく先に先に走りすぎてしまっていて、とにかく主人公がその女の子を好きになって実際に付き合う(エッチをする)までであるとか、心境が変化して状況が変わるとか、そういうのに要する時間がゲーム内の物理的時間ないしはプレイヤーの感覚的時間ともに短すぎます。
 なので、終わってからキャラクターもシナリオも印象に残りません。
 少し詳しく見てみましょう。
 まず文章のテンポですが、これは悪くないです。否、悪くないどころかむしろ軽快かつ非常に読みやすい気持ちのいい文章で、読んでいてもストレスになりません。
 非攻略キャラクターも入れると全部で八人のキャラクターが登場し、これが懐いてくる妹とか乱暴な同級生とかそういうこれまたステレオタイプなキャラクター展開ではあるのですが、そのわかりやすさがゆえに非常に魅力的に映ります。
 特に妹キャラである小春はそのへんが顕著。場合によっては実にうっとおしいキャラクターになってしまいそうな感じはするのですが、不思議と嫌な感じはまったくしません。このへんはキャラクターの書き方の上手さというのははっきり感じます。こと、物語を進めるという段階でこの作品は非常によくできていると云えますでしょう。
 ですが、肝心の物語がちょっと……。とにかく展開が早すぎて、物語が物語として成立していません。
 これは同じブランドで同じシナリオライターさんが担当していた『雪語り』でもそうだったのですが、物語を構成する起承転結のつなぎ目、特に「承」と「転」の間があまりにも適当に流されすぎているのは非常に気になります。
 例えば最初は主人公を嫌っていた七瀬が主人公と仲良くなる過程なんかはそのもっともわかりやすい例でしょうし、全体的に見ても主人公が誰かを好きになって、相手も主人公が実は好きだったという展開になるのもものすごく唐突。
 結果、主人公がその女の子を好きになった理由も謎ならば、相手の女の子が主人公を好きになった理由はもっと謎です。
 これでは、物語の世界やキャラクター、ひいては世界観に感情移入することはできません。だって、感情移入する前に物語が終わってしまうのですから。
 この「なんとなく終わってしまう」という点が、この作品においてはもっとも大きな欠点なのだと思うのです。
 まあその、平和な日常とか、そういうものを描きたかったのだろうなあというのはなんとなくわかります。わかるのですが、じゃあ作品がそちらへ向かっているのかと聞かれればこれは大いに疑問が残ります。
 もしそういうものを書きたかったということなのであれば、日常描写とかキャラクターの微妙な心の動きとかそういうものの描写というのが絶対に必要になってくるでしょう。
 でも、そういうのがほとんどありません。現象として目の前にあるものがただつらつらと書かれている感じ。
 後半になるとあらゆることがとにかく唐突に起こり、しかも話自体に起伏があるわけでもないので、平和な感じも物語的な盛り上がりも欠けたまま終わってしまいます。
 小春のシナリオはこのあたりが顕著で、「転」に入ってからの展開はちょっと尋常ではありません。ある意味で究極のご都合主義とも云えましょう。
 もうちょっとじっくり書いてやれば、きっともっと魅力的になるのになあというキャラクターたちばかりで不憫にさえなってきます。
 エロシーンについては、静馬が一回である以外はみんな二回。それも喫茶店の制服やブルマなど、同じキャラでも必ず別の衣装になるというのは気が利いているのかもしれません。
 ただ、これもまた上で書いた物語の問題とかかわってきます。結局アダルトシーンへ入るのも唐突で、なんの情緒もなくいきなりエッチをおっぱじめるのもどうかと思うのですがそれはまあ百歩譲るとしても、二度目のエッチは結局衣装を変えたいという製作者側の意図が先走りすぎてしまい、「お兄がこういうのは好きだと思ったからわざわざブルマを買ってくる小春」などと云ったおいおいいくらなんでもそれはどうなのよ、みたいな展開にげんなりさせられること請け合いです。
 しかも全員二度目のエッチが終わると即エンディングムービーが流れるというなんだかわけのわかならい仕様もまた物語を見事にぶっこわしてくれます。このへんもうちょっとなんとかならなかったのでしょうか。
 ま、そんなことを考えなければテキスト自体はともかく台詞がいい感じにエロいのでそのへん満足ではあるわけですが。
 特に日向のエッチシーンはなかなかいい感じ。ただまあ、それまで恥ずかしがりでエッチなんてとんでもないことですみたいな女の子までエッチが始まると急に大胆になるのはどうかという気がしないでもないですが、まあそういうのが好きだと云う人もいるでしょうしこれはまあ好き好きなのでしょう。
 あと、時々入ってくるちょっと素敵な表現というのがあって、これは結構ぐっときます。妹・小春といっしょに出かける約束をしていたのに、主人公に急用が入ってしまった。そこで小春が一人で出かけることになるんですが、その出かけばなに主人公が聞きます。「忘れ物はないか?」対する小春の答えが「大丈夫だよ。お兄以外は」
 ほんとに何気ないところではあるんですけどもね。好きなんですよ、こういうのが。

<CG>
 上手いかどうかということより、とにかく魅力的な絵だなあと。
 どちらかというとぷにぷにとした感じの絵柄なんですが、これが作風とマッチしています。イベント絵がきれいなのはもちろんなんですが、立ち絵もキャラクターの表情が豊かで見ていて楽しくなります。
 また、時々出てくるちょっと等身の低い絵というのかイラスト調の絵というのかよくわかりませんが、これがまたいい感じでアクセントになっている感じ。
 特に小春と水の表情は見ていても飽きません。水なんかはサブキャラにしておくのが惜しいかもしれない。
 まあ、結構好き嫌いのある絵であることは間違いありませんので、嫌いな人は受け付けないだろうし好きな人はとことん好きになれるんじゃないかなと。わたしはもうこの絵と雰囲気で衝動買いしたようなもんなのでもう文句なしです。
 あとは主人公にちゃんと顔があるところもポイントかな。これもまあダメな人はダメなんでしょうけど、前髪長くてノッペラボーな主人公ってどうもなあって気はするんですよね。そう云う意味では個人的にはこれもプラス要素ではあります。
 ただ、奈月が怒ったときのあの絵がエンピツ絵に適当に色を乗せただけのものだったのは演出だったのか時間がなかっただけなのかというのは気になるところ。なんとなく後者なような気がするのだけれどどうか。

<システム>
 フォントの変更から画面エフェクトの有無まで、わりと過不足なくなんでもできます。
 フラグは選択肢が少ない割にキャラクターによっては根拠のない選択肢を選ばないとルートに入れないところもあったりしてなかなかにきつかったりもしますが、まあセーブポイントが15×9個あるので問題ないでしょう。そんなに使いませんけどね。わたしも5つしか使ってませんし。
 このセーブ機能についても、サムネールが入っていたりコメントを入れられたりとなかなか親切です。しかし差分ファイルを入れないと、キャラによっては途中でゲームが進行しなくなったり同じイベントが発生したりすることがあるので差分ファイルは必須ですね(プレイ時は1.1)。
 ただ、問題はスキップ。速さは高速ですし、とりあえずCTRLキーのほかマウスの左クリック押しっぱなしでスキップになるのは便利。これはぜひともほかのメーカーさんも採用して欲しい機能です。
 なんですが、普通の「既読スキップ」がちょっとまずいことになっていて、既読スキップで飛ばしている途中から未読の文章になってもスキップが止まりません。
 メニューバーの「既読スキップ」の項目は反転して押せなくなるので未読の文章に入ったことはわかるのですが、こちらでスキップを止めない限りどこまでも(たぶん次の選択肢が出るか最後まで行くかするまで)止まりません。つまり、「既読スキップ」の意味がまったくないわけです。なんじゃこりゃって感じですね。
 あと、全員コンプリートするまで一回もエンディングクレジットが出なかったんですがこれはうちだけなんでしょうか。フルコンプリートしたあとでもう一度セーブデータを読み込んで話を進めてみたらはじめてエンディングのムービーが出ました。
 これがもし仕様だというのならなんでこんな仕様にしたのかわけわかりません。

<音楽>
 いろいろ好きな曲はあるんですが、中でもオープニングとエンディングの歌がすばらしい。オープニングの曲は平和な朝を想像させてくれるようなゆったりした曲で、聞いているとなんか落ち着いてくるような名曲。エンディングは軽快ながら静かで落ち着いた曲で、これもまた聴かせてくれます。
 このTarte/dealブランドは音楽……特に唄ものは結構ツボに来ることが多いんですが、今回もまさにそんな感じでした。
 声も悪くありません。シナリオでもそうだったように、小春なんかはちょっと間違うとすごくうっとおしいキャラクターになってしまいそうなんですが、このへんも声優さんの演技のおかげですごく魅力的なキャラクターになっているなあと。
 みんなコンスタントに巧いので、そのへんの違和感はあまりないと思います。

<総合>
 なんというか、あれですよね。結局、製作者(特にシナリオの人)は、これをどういう作品にしたかったんでしょうか。
 エッチを中心にしたゲームではないことは、各キャラ後半(それもエンディング直前)に二回しかないことからすれば明白ですし、じゃあ奥深い物語を読ませようとしたのかと云うとこれもこのボリュームからすれば違うんじゃないかと思います。
 だとすればあとは、出てくるキャラクターたちをいかに魅力的に見せるかというところなわけで、単独で……つまり、ゲームをやっている最中にはそれは感じるんですよ。
 でも、終わってからの印象が残りません。キャラクターそれぞれの書き込みが圧倒的に不足しているのだと思います。
 あ、この子可愛いな、とは思うのだけれど、それが「印象的」になる前に話が終わってしまうのです。
 「シナリオ」のところでも書いたように、もしもう少しじっくりと話が作られていたとすれば、この作品のキャラクターはきっと一度好きになったら忘れられない魅力を持っていたのではないかとさえ思えてしまうのですけども。そうでなくてもこの小春という女の子は、ストーリー展開はともかくキャラクターとしては台詞回しとか性格とか個人的にものすごくお気に入りだったりするのでなんだか余計にもったいないというか不憫というか。
 それからもうひとつ気になった点。あまりに誤字脱字が多すぎる気はしました。
 それも「機会(=機械)仕掛けのお化け屋敷」とか「(結婚式に)みんな着(=来)てる」とか、そういう情けない間違いが目立ちます。
 このへんはどうもなんだか。いいシーンでこういうのが来るとこれだけでもう台無しですわな。

2004/07/25

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