ひまわり(Regrips)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3−1+
シナリオ:伊藤弘司
原画:都月りこ
音声:有
主題歌:有(エンディング:『ひまわり』)

-圧倒的な練りこみ不足-

<シナリオ>
 受験勉強の為に北海道の田舎町に久しぶりに戻ってきた主人公が、そこで昔懐かしい女の子たちと過ごしていく……といったストーリーです。
 これ自体は珍しいものではありませんが、舞台が「北海道の過疎地」であり、いわゆる「町そのものが消えていく存在である」ということを物語の根幹として意識させている部分がありまして、これはなかなかうまく演出されています。
 今まで田舎を舞台にしたゲームというのはあまたありますが、それの多くは「とりあえず田舎だ」と云っているだけで、駅前に行けば店がなんでもあってなんでもできてしまいますみたいな、おいそれどこが田舎じゃと突っ込みたくなるような舞台設定の作品だったりして、あまり「田舎」という雰囲気が感じられずにいました。
 ところが、この作品では舞台の設定からしてだんだん存在を失いつつある町というのがありますから、そういう意味合いでの田舎の雰囲気というのはしっかりと感じられるようになっています。
 特に、ヒロインである真理子のシナリオにおいてはそれが顕著で……というよりもそれ自体がまたひとつのテーマになっていて、ストーリー云々以前にこういう雰囲気の書き出しに感動はありました。真理子シナリオのラストシーンなんかは、タイトルになっているひまわりの花が巧く小道具として使われていて、実に綺麗に終わらせてくれます。
 なのですが、全体としての練りこみの不足というのはどうしても気になります。
 まずもっとも気になるのは、なんと云うか、なにからなにまでがご都合主義なんですよ。いや、もちろんゲームに限らず、すべての物語というのはご都合主義なのは理解しているんですが、やっぱりそれが物語である以上、それを露骨に感じさせてはいけないと思うのです。
 偶然商店街にいたら偶然あの子に会ったとか、そういうのの繰り返し。真理子シナリオでの真理子を探しに行く場面や真理子の父親の態度の変化、加奈子シナリオにおける加奈子のクライマックスのシーンのエピソードなんかもそうだし、さくらのシナリオにおいてはシナリオ全体的にそれが云えます。
 最初は考えオチなのかと思ったんですがどうやらそうでもなさそうで、たとえばどうして主人公が帰ったときにそもそもさくらと会ったのかとか、加奈子はどうして「それ」を知っていたのかとか……そういう細かいエピソードの動機が、「まあそういうもんなのよ。いいじゃんかよ」で済まされてしまっているのが非常に腑に落ちません。
 いや、もちろんそれでもいいんですが、先にも云ったようにそれならそれで、そういう仕組みをプレイヤーに感じさせてはダメだと思うのです。たとえば演劇で、舞台の最中に舞台裏や袖の中を見せるというのがご法度なのと同様ですね。
 プレイヤーが気が付かないうちにそういう謎を「そういうもの」で納得させてくれたり、はたまた唐突に起こったエピソードの不自然さを消したりという作業は、おそらくシナリオの練りこみによってのみ可能になります。
 が、この作品の場合はエピソードとエピソードがブツ切れでつながっていて、さらにそのつなぎ目を隠そうという意思がまったく感じられません。
 物語の基本はある出来事Aをトリガーにしてある出来事Bが起こり、そのBをトリガーにしてCが起こり……という「わらしべ長者」式の発展になると思うのですが、これがAはA、BはBで孤立したそれぞれのエピソードがただ単純に繋がっているだけなので、あまりに冗長になり、結果として物語がダレてきてしまっています。
 当然、物語の進行に対する意外性も生まれませんから、話自体にはボリュームがほとんどありませんし、酷な云い方をすれば「先が見たい」と思わせる要素が徹底的に不足しています。なんとなく感覚として、展開でそういう雰囲気を作って理屈を超えた感動に持っていこうとしているんじゃないかなというのは伝わってくるんですが、そんな状況ですからそれは到底無理な話です。
 あとは、たとえば「明日は海へ行こう」って約束しておいて、次の日に女の子の家に行ってみたら「今日は海へ行こうよ」なんてきょうはじめて提案しましたというように誘われた挙句、主人公が「え、どうして?」などという反応を返すようなシナリオのつながりのちぐはぐさなんかがあったりして気にならないではないのですが……まあ、基本的にはテキストのテンポは悪くはないし、キャラクターの書き方なんかもとくに真理子やさくらあたりは非常に巧いので、もうちょっと練りこめば印象深い作品になったかもしれないとは思うのです。
 そういう意味でこれ、ただただ勿体無いですね。
<CG>
 不安定すぎです。一枚絵と立ち絵ともに、ああこれはいいなあという絶妙なバランスの絵があったかと思うと、なんじゃこりゃ別人かいなというくらい歪んだ物が突然出てきたりします。
 基本的には嫌いな絵柄ではないのですが、ここまで絵柄が揺れるとハマれるものにもハマれません。
 あとは男キャラがあまりいぞんざいに描かれてるとかあるんですが、人物に関しては特に一枚絵に出てくる主人公の描写があんまりです。「眼を描かない」というアダルトゲームではよくある手法なんですが、この作品ではなんと鼻と口も描かれません。つまりもう完璧にノッペラボー。ゲームに乗せたときにちょっとおかしいと思わなかったのかこれは。
 反面、背景はすごく綺麗。素直に美しいです。田舎の雰囲気が巧く描かれているのは、シナリオによるところよりもむしろこっちによるところが大きいかもしれません。先の「シナリオ」の項目で描いた真理子シナリオのクライマックスの美しさなんかはこの背景CGによるところがかなり大きいと思います。
 あとはあたしなんかが云うようなことではないんですが、キャラの服装が変だって絶対。加奈子はまあそういう服が好きなのだでギリギリ通せるにしても、なんなんですか京子の格好は。

<システム>
 問題がありすぎるので、ひとつづつ行きましょう。
 まず一つ目。既読スキップがありません。もうこれだけでやる気がなくなりますが、本当に機能として既読・未読スキップというものがが備わっていないのです。CTRLキーを押そうが目を皿のようにしてメニューを眺めようが、「スキップ」の文字はありません。
 唯一「選択肢まで進む」というのがありますが、これは既読未読を判断しない上、クリックして進めるのと寸分違わぬスピードです。これのおかげで、繰り返しプレイをやろうとすると、まったく同じ文章を何度も読まされることになってうんざりしてきます。
 今時、どんなに機能を削っても既読スキップなんてのはついてるもんだと思ってたのですが完璧に油断していました。
 同じように、エンディングのムービーもスキップできないのでやたらと間が長い上に曲が先に終わってしまってまったくシーンとシンクロしていないムービーを無理やり見せられることになります。なんかよくわからないけど自信があるのかもしれません。
 ついでにバックログもありませんのでメッセージを読み飛ばしたらそれまでです。
 さらにCGモード。CGモードはたとえば全CGのうちどれくらい埋まっているのかを判断させるための確認手段でもあるわけなのですが、これがまた凄い。
 どう云ったらいいのかわからないのですが、「CGモード」というのを選んで見たいキャラクターを選ぶと、まずサムネールとかじゃなくて、いきなりその女の子のCGが一枚どーんと出てきます。で、下に「FF/EXIT」という文字が。
 EXITはCGモードから出るってことでしょうから「FF」をクリックすると次のCGが出てきます。下には「FF/RE」という文字が。「FF」をクリックすると次のCGが出て、「RE」をクリックすると一枚絵が戻ります。こうスライドのようにぱっぱっぱとCGが出るだけなんですね。
 これがどういうことかというと、つまり、「全体のうちどれくらいのCGを回収できたのかわからない」というのと、「見たいCGが出るまでひたすら「FF」をクリックして画像を進めなくてはならず」、「ある程度CGをスライドさせてからだとメニューに戻るのに「RE」をクリックしまくらなければならない」という三重苦を背負うことになるわけです。なんでこんな不可思議なシステムを採用したのか理解に苦しむことしきりです。
 次行きましょう。Windows2000やXPではCD-ROMのオートラン設定をレジストリ直接操作以外ではキャンセルできないので、このオートランを有効にしている人というのはわたしも含めて多いと思います。
 で、まあ普通のゲームソフトの場合、インストールされていないPCのドライブにディスクを入れるとインストーラが起動し、インストール済みのPCにディスクを入れると「ゲームを起動する」「アンインストールする」なんてメニューが出てくるのがほとんどでしょう。
 ところがこの作品はオートランでインストーラしか起動しません。
 つまりどういうことかと云うと、インストール済みのマシンにゲームをやろうと思ってディスクを入れても、まずはInstallShieldが起動することになるわけです。ディスクを入れて起動してきたInstallShieldをキャンセルで終了させるという工程が必要になるわけですね。
 アプリケーションソフトならともかく、起動のたびにディスクを要求するゲームソフトでこの仕様はあんまりです。
 ついでにインストール関係でもうひとつ、この作品、うちのマシンだけなのかもしれませんがインストールすると右クリックメニューの「送る」の項目にこの「ひまわり」を付け加えてくれます。なにを送るんだよ。
 あとは音楽モードとか回想モードとかいまどきの同人ゲームでもついていそうな機能が無かったりとか、そんなのは可愛いもんです。頻繁にMPなんとかが異常、みたいなエラーのダイアログボックスが出てきたりといろいろあるんですがこれは修正ファイルを入れればとりあえず出なくなったのでまあよしとしましょう。うちだけかもしれないし。
 まとめると、普通のゲームでできることからいろいろと差っぴいた感じのシステム。快適さとはほど遠く、たとえこれがどんな名作シナリオだったとしても繰り返しプレイは相当にかったるいことになっていたでしょう。
 っていうかデバッグのときに気がつかなかったのかいな。

<音楽>
 これは素直によいですね。音楽モードがないのでタイトルがわからないのですが劇中曲もおちついた感じの名曲が多いですし、エンディングで流れるボーカル曲もまた実に落ち着いた、まさに「ひまわり」というそのタイトルがしっくりくる名曲に仕上がっています。シナリオがシナリオなのでその余韻に浸るのはなかなか難しいですけど。
 声もなかなかで、例えば加奈子のような難しいキャラクタも非常に巧く演じられていて好感度大。ただ、まあ男キャラは譲るにしても、中途半端にサブキャラの声をつけたりつけなかったりするのはやめましょうや。

<総合>
 シナリオはまあ好き嫌いあるだろうし、少なくとも真理子の話に関しては結構楽しめたりしたのでよかったんですが、システムがもうフォローのしようがありません。
 バグならバグフィクスの修正パッチでどうにかなりますが機能が欠損してたり仕様がどうにもならなかったりするのはちょっと。音楽と真理子のシナリオのためにやってみるというのもまあアリかなとは思いますが……まあ、雑誌に掲載されている絵とかパッケージの絵が好みならば、ってとこでしょうか。

2003/9/17

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