ひまわりのチャペルできみと(Marron)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4+4−8+
シナリオ:竹井10日
原画:いくたたかのん
音声:無
主題歌:有(オープニング:『太陽の咲く星で』/エンディング:『風花雪月』)

<シナリオ>
 ストーリーの概要を説明しようとすると非常に難しい作品です。別にものすごく入り組んでいるからとかそういうことではなく、逆にものすごくシンプルすぎるからに他なりません。
 一言で云ってしまえば、「学園を舞台にしたラブストーリー」の一言で事足りてしまいます。
 確かに、舞台そのものは、「一度滅びかけた世界」という設定が付いており、さらに主人公キャラをはじめとして少々トリッキーな設定が付随していたりします。単純なラブストーリーとしても、実際に結婚してその後のベタベタっぷりを描くシナリオが多数を占めたりと、一風変わったところはあります。
 そしてさらに、キャラクターとの恋愛過程においてそこに付随するエピソードも出て来たりもしますが、しかし基本的には、主人公とヒロインキャラが恋をして、いろいろなトラブルを乗り越えていく……というような、云ってしまえばありきたりな物語であることは変わりありません。
 事実、シナリオレベルで見れば、たいしたことをやっているわけではありません。ほんとうにシンプルな話で、そこに先の世界滅亡の際の話がわずかに載っている程度に過ぎず、序盤で語られるようなこのあたりのストーリー性に期待してプレイすると、ちょっとがっかりすることになるかもしれません。
 掘り下げていけば感動させたりいくらでも深くできるテーマではありますが、この作品ではおそらく意図的にそれをしていません。それをすることで、作品が持つ主人公と女の子たちの物語というのがどうしても希薄になってしまいかねないからです。
 ただ、これらの設定がまるで生かされていないかというとそうではなく、特定のキャラクターにおいて物語をドラマチックにする要素として生かされたりもするわけですが、しかしそれもあくまで主人公とヒロインキャラとの距離をより近いものに見せる演出に過ぎません。
 そういうことからしても、この作品のシナリオの最も大きなポイントは、どうしても「笑い」のほうに振られているというのは事実でしょう。
 さらに云えば、この作品にファンが期待しているところも、おそらくそこになるのではないかと思います。
 そして、その方向から見れば、このシナリオは大成功していると云ってもさしつかえありません。
 同ブランドの処女作となった『秋桜の空に』でもそうでしたが、この作品の場合、とにかくシナリオ面において意味のない選択肢が多数出てきます。もちろんシナリオ的に意味のある選択肢もあるのですが、それよりも「どれを選んでもシナリオに支障はない」選択肢のほうがはるかに多いです。
 今回のこの作品では、シナリオ容量が非常に多いことをメーカー側でもウリにしている面がありますが、それのほとんどはこういった「遊び」に振られています。これを「またか」と見るか、あるいは「期待通り」と見るかで、この作品に対する評価というのはガラリと変わってくるでしょう。
 ただ、この作品の場合(『秋桜の空に』でも同じでしたが)、それら選択肢を一通り試してみたくなるのです。
 意味がないからこそ、その後に繰り広げられる会話がどういうものなのかが知りたくなる感覚ですね。ストーリー展開とは関係ないところで笑いに昇華するその力はもう流石としか云いようがありません。
 さらに、この作品に於いての「笑い」というものが、また短絡的なパロディではないところもまたポイントだと思います。
 パロディ系のネタというのは、時として白けたり、あるいはそもそも元になるネタを知らなければどうにもならなかったりするものですが、この作品の場合はそういう質の「笑い」ではありません。もちろんそういう類のものがゼロではないとは云いませんが、割合としては限りなく少ないです。もっと純粋に笑わせてくれるからこそ、選択肢をすべてあたってみたくなったりするわけです。
 もちろん感動して泣かせるのも難しいことではあるのですが、こういう形で「笑わせてくれる」ストーリー展開というのもベクトルこそ違えど同じように難しいわけで、このシナリオライターの書くシナリオにそういう期待が集まるのもこれはむべなるかなと云うところではありましょう。
 笑いというのは、自分の持っている常識と、目の前で起こっている現象とのズレによって発生する現象だという話があります。
 これはどういうことかと云えば、つまりもっとも単純な、バナナの皮を踏んで滑って転ぶ人を見て笑う人は、「バナナの皮で滑って転ぶ人なんていない」という「常識」で以って生きているからこそそれを見て笑うのであって、「バナナの皮で滑ったら転ぶよ。そういう人もいるよ」という「常識」で生きている人は、それを見ても何も面白くないわけです。
 パロディ系のネタが「笑える」のは、「この作品の中に別のこの作品のネタが出てくるわけがないよ」という「常識」に反するからこそなのですが、これが「作品同士だからそういうこともあるよね」という「常識」に変わってしまえば、パロディ系のネタというのはこれっぽっちも面白くなくなります。
 パロディが安直に笑いが取れる理由もこれならば、何度もパロディネタを繰り返されるとなんだか白けるのは、それまで「常識」でなかったものが「常識」に変化するからに他なりません。
 パロディでないネタで「笑い」をとる難しさは、ひとえにここに起因します。
 我々がそれぞれ持っている「常識」の枠の大きさというのは、それこそ一人一人違うわけで、できるだけ大きな枠を設定しておかないことには、「笑い」でシナリオを構成することができません。しかも、それぞれ一つ一つのネタは単発ですから、ネタの引き出しはいくつも必要になってくるわけです。
 この作品では、それを非常に高いレベルでクリアしています。だから、何度もやり直すプレイが苦痛になりません(システム的な問題でちょっと躊躇う部分はあるのですが……それはのちの項目へ譲るとして)。
 今回、選択肢以外にも、一回ロードするごとにランダムでメッセージが(というか、ギャグのネタが)変わるシーンもあり、そういう意味での総当りもしたくなります。
 繰り返しになりますが、物語そのものは至ってシンプルで、終わってみれば、そういうことかという納得感はあるものの、それで感動して涙を流すとか云う類のものではありません。こういう方面でストーリーに期待すると、あらゆる面でがっかりしてしまうのではないかと思います。
 決してつまらないということではなく、きちんと落ちるところに落ちる話ではあるのですが、じゃあストーリー展開そのものが印象に残るかと云えばそれほどでもなく……といった按配で、これだけならシナリオ面で見るべきところはさほどありません。
 とは云え、あたりまえの世界に小さな異常を入れることから生じる物語としてはまとまっている話ではありますので、物語そのものに不満が出ることはないでしょう。ただ、それがゆえに、特にこの作品の「ウリ」であるギャグ要素が少なくなってくる後半部分において「長く冗長に感じる」ことはあるかもしれませんが。
 尤も、比較的綺麗にまとまっている月乃や雛梨に比較して、寧々子のシナリオはちょっと無理があるとは思いますが。これはまあこの作品に限ったことではないのですが、実際の姉弟がくっついたときのまわりの衝撃の描写があまりに適当すぎるような気がどうしてもしてしまいます。ままならんなあ。

<CG>
 ややクセのある絵なので、どうしても最初のうちはちょっと敬遠され気味になるかもしれませんが、やっているうちにさほど気にならなくなります。もともとこの絵が好きならばそれほど気にならないでしょうが、いまどきのアダルトゲームの絵に慣れていると、どうしてもアクの強さは隠し切れません。
 むしろそんなことよりも、キャラクターによっては立ち絵一枚一枚、CG一枚一枚の表情などにかなりの差があって、これが気になります。表情のバリエーションや立ち絵のバリエーションはかなり多くて楽しいのですが、たとえば小雪なんかはまるで別人物のような変わりようで、ちょっと極端すぎる気がしてしまいます。唯菜とかは可愛くていい感じなんですが。
 ディフォルメイラストはさすがに描き慣れている感があり、可愛らしくて良いです。

<システム>
 これはちょっと……いや、かなりしょっぱいです。
 パッチを充てないと7日目にループに入ってしまうのは、パッチファイルを充てることで修正できるのでまあいいとして、全体的にできることは一通り揃っているのですが、メッセージスキップ関係に不備があります。
 まずCTRLキーでのスキップができないことがひとつ。いくらCTRLキーを押しても何の反応もありません。それから、既読部分でも、ゲーム内日付が明けてから選択肢が出るまでの間は自動でも(もちろんCTRLキーでも)スキップできません。ここが長く取られている共通パートでは、かなりかったるい思いをすることになります。これはパッチを入れた後も変わることはありません。
 そのほかにも全体的にどこがどうというわけではないのですが、いちいち操作のかったるさが目に付きます。
 また、オープニングムービーが飛ばせなかったり、セーブポイントが選択肢の割に少なかったりと、細かいところでのストレスは結構あったりして、システム的にはあまり褒められた感じではありません。クリア自体はそんなに難しくないのですが、CGを全部回収しようとすると結構大変なのではないかと思います。

<音楽>
 オープニングの主題歌『太陽の咲く星で』が名曲です。サビの部分が非常に気持ちいい曲で、単独でCDに入れて収録してほしいくらい。しんみりした感じのエンディングもなかなかの名曲ですが、オープニングのテンポのよさは結構耳に残ります。
 ゲーム内の曲も『fairly song』とか気持ちのいい曲が多く、全体的にBGMとして悪くありません。
 なお、いまどきのゲームとしては珍しいですが、ボイスはありません。

<総合>
 単純に数字だけ見ると評価低そうなのですが、それでも総合で見たときにこの高評価に収まったのは、ひとえにこの作品、「笑える」ことに全力を注いだからなのではないかと思うのですよ。そして結果としてそれがハイレベルにまとまっているという文章力まで含めて、この作品のシナリオは単純に「凄い」と思います。
 パッケージにまで「抱腹絶倒」の文字が躍るそのコピーは決して嘘偽りではありません。ライターからの「笑わせてやるぜ」という意気込みが、ひしひしと伝わってきます。
 確かに絵などにとっつきにくい部分はありますし、システムもかなりアバウトなところはありますが、実際にこの作品を買ってクリアしたところで、ああ、損した!と思うような類の作品ではありませんでしょう。
 こういう作品があってもいいと思うんですよね。確かに感動して泣くのもカタルシスですが、しかし大笑いするのだって同じくらいのカタルシスだと思います。それならばこの作品は、かつて同ブランドが出した『秋桜の空に』のように、高い評価を受けて然るべきだと思うのです。
 しかし上にも書いたのですが、お姉ちゃんとくっついたときのあの周りの反応の薄さはどうにかならんかなあ。この作品だけではないのですが、ソフ倫レベルで実のきょうだいでのエッチシーンが解禁されたことでこういうシチュエーションは増えたように思うんですが、どれも非常にまわりの反応が薄いというか。
 普通、姉と弟、兄と妹が恋人同士になったなんてことをまわりの人間が知ったら、それはものすごく「引く」と思うんですよね。それをほんの少しの葛藤であたりまえのように受け入れてしまうというのがどうにも馴染みません。物語だからそんなもんだよと云ってしまえばそうかもしれませんが。
 なにはともあれ、作品そのものは「名作」ではないものの、自ら謳う「ラノベ風」のキャッチは伊達ではありません。
 まさにライトノベルのように、気楽に読めて笑える物語。ライトノベルよりも圧倒的にボリュームはありますが、全体として漂う気楽さ、楽しさ……そういう意味で、この作品はものすごく優秀な一作だと思うのです。

2007/10/05

戻る