はじめてのおてつだい(Studio Ring)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント2−4+3−3+6−
シナリオ:
原画:
音声:有
主題歌:有(オープニング:『ハートのベルはring ring ring』)

<シナリオ>
 突然、双子の姉妹と一緒にメイド喫茶を手伝うことになってしまった主人公のドタバタ物語。ま、ストーリーなんてこのくらいで、実質的にあってないようなもんです。別にそれはいいです。展開に無理があるとか、女の子を待たせてもう一人の子とエッチするとかそりゃないだろうとかそういう野暮なことを云うつもりはありません。
 こういう作品ですから、当然重要になってくるのは「キャラクタの書き込み」ということになりますでしょうか。「メイド喫茶」なんていうのを舞台に持ってきて、さらに双子の可愛い女の子たちとエッチが楽しめますみたいなコンセプトがすべてですから、これでキャラクタが弱ければどうにもなりませんよ、ということになるのは当然のことです。
 ……なんですが、これがちょっと弱いんですよ。弱いって云うか、すごく記号化されたところでキャラクタを作ろうとしているのはわかるんですが、その記号を利用しようとしすぎて印象がものすごく薄くなっています。見てくれで可愛いなと思ったというそれ以上のものがどうしても伝わってきづらいんですよ。台詞回しでも物語展開でも。
 記号と云ってしまうとあまりいい感じはしないかもしれませんが、キャラクタを文章で書く、というのは、究極的には記号の羅列になります。それはどんなに優れた作品であっても同じことで、優れたキャラクタであればあるほど、いわゆる「典型的記号」を組み合わせることで幾何学的記号……つまり、新たなキャラクタ性を持っているというだけに他なりません。他の作品を引き合いに出すのはあまり好きではないのですが、そういう意味合いでヒットしたのがKeyやLeafがかつて生み出した「Kanon」や「To Heart」などのヒット作キャラクタになっているのだろうと思います。
 そういうところからこの作品のキャラクタを見てみると、まず、そこへ行こうという跡がほとんど見られないのがすごく気になります。例えばこの子はすごくドジでいつもなにかしら失敗してしまう、というキャラクタ性を作ろうとしたとき、「仕事中に転ぶ」という仕草だけですべてを説明してしまうのです。これを一つの記号として発展させるでもなく、これを思考のきっかけにするでもなく、ただただその行動や特徴だけを並べて一己のキャラクタを作ってしまっているのですね。
 これはこれですごくわかりやすいのですが、逆にわかりやすすぎて、結果としてものすごく紋切り型のキャラクタたちが大量生産されるだけになってしまうという最大の欠点が生まれてしまいます。
 そこにストーリーが付随すれば、さらなるキャラクタ性がバックボーンに与えられた物語によって一人で歩き出すのですが、この作品は先に述べたように、「メイド喫茶を手伝ってその過程にデートしたりエッチしたりする」だけしか展開がありませんので、それも不可能です。
 つまり、キャラクタがファーストインプレッション以上に発展することがありません。ゲームをやる前にはまったくノーチェックだった女の子が、実際にやってみたらむちゃくちゃツボにきた、という経験はこの手のゲームをある程度やっている人であれば誰しも経験のあることでしょう。
 そういうことがあるというのは実はすごいことで、見てくれとキャラクタの説明書きではわからなかったプラスアルファの魅力が、物語や舞台によってキャラクタに与えられたということなのです。これをすべてのキャラクタに埋め込むというのがキャラクタが登場する作品においての理想なのでしょうが、それはさすがに難しすぎます。
 この作品、もともと伝統の(?)シリーズですから、ストーリー部分でキャラクタを書き込むのは反則というか、それはちょっと違うんじゃないの、というのはすごく理解できるところではあります。
 そこで、前回までのシリーズでは、いわゆる典型的記号だけで書かれたキャラクタ二人に対して、最初から最後までエッチをするだけに通すことで一つの一貫した流れを作ってしまいました。考えてみれば、前回までの「おるすばん」「おいしゃさん」「おしえてABC」は、すべてキャラクタのパターンが同じで、違うのは若干のシチュエーションと見てくれだけだと云っても過言ではありません。
 しかし、それはそれでよかったのです。このシリーズは、そういう「記号」で固められた二人とエッチができるというそれだけでキャラクタを作ってきたのですから、それはそれで一つの形として受け入れられ、人気のシリーズになったわけです。しかし、じゃあそのキャラクタが単独で人気になって一人歩きしたかというと決してそうではありません。
 そうではないのですが、少なくともその作品を楽しんでいる間だけは、そのキャラクタに対して思い入れることができました。
 それはなにも難しいことではなく、ただ「エッチをする」というそれだけのために彼女達が存在していたからに他なりません。物凄く極端に云えば、そのなかで「俺はこっちの子のほうが好み」というキャラクタ性のみが受け入れられた、という云い方になります。
 果たしてそのシリーズの最新作になる今作でもその流れが受け継がれていればまだ違っていたのですが、この「おてつだい」では、新しい要素として「キャラクタ」を独自に歩かせようとした流れが感じられます。それは感じられるのですが、しかし、それが具体的に動いていないということについては既に述べました。
 それは例えば、今作では、攻略キャラクタである「双子」が三組六人(攻略できない旧作キャラを入れると六組十二人)登場します。つまり、「これだけ多様性に富んだキャラクタを用意しました。さあ、選んでください」という流れです。
 普通のアダルトゲームならばそれでいいのです。それは正当な流れですし、寧ろ今までの「攻略キャラが二人しかいない」ことが異常だったのですから。
 しかし、それはあくまでもバックボーンの物語を書いたり、記号を組み合わせた新たな記号を用いたキャラクタが確立しての話です。すごく偉そうな云い方を許していただけるのであれば、この作品ではそこにまったく届いていないのですね。
 まずメインであるあゆか・まゆかがいます。「活発な子」「おとなしい子」という今までの作品で培ってきたパターンを用意して、はじまってすぐにこの二人とエッチができてそれで通せば、この作品はまた変わっていたのかもしれません。しかし、形だけ複雑にしようとしたバックボーンがそれを阻害します。
 最初は男の子だと思っていたけど実は女の子ないつき・ゆうきの二人。この二人の扱いというのはシチュエーション的に難しいとは思いますが、しかしそれにしてもポイント一つ一つでの扱いがあまりにも適当すぎる気がします。特に「実は女の子でした」とバレるシーンなんて、ええ、それでいいの?くらいのもので。どうして男の子のふりをしていたのか、という動機付けの弱さがどうしても目立ちます。
 この二人については、たぶんバックボーンのストーリーを抜きにして……つまり、従来のシリーズの方法論の延長でキャラクタを魅力的に見せるのは非常に難しすぎると思うのですよ。これ、既にそういうレベルの設定ではありません。その設定をそういうレベルまで落としてきてしまったからこそ、設定の浅さみたいなものばかりが強調されてしまったのではないかと思うのです。
 反面、不思議キャラとして「記号」のわかりやすいひとは・ふたはについてはまだ成功しているというかわかりやすいかもしれません。ただ、それにしてもやはりちょっと物足りないんですけどね。特にこの二人、他の双子達のように髪型をはじめとした見てくれの特徴による区別がつきづらいこともあって非常に印象が薄くなってしまいます。
 従来、このシリーズの売りは「すぐにエッチ、いつでもエッチ」みたいな、面倒くさいことは抜きにしてエッチシーンが楽しめますというあまりにわかりやすいコンセプトにあったと云っても過言ではありません。そこに、「双子」とか「ロリ」とか、そういう要素を入れてわかりやすくキャラクタを絞ったという割り切りですね。
 この「おてつだい」では、シナリオ面においてあらゆる意味でその割り切りを捨ててしまいました。キャラクタを増やし、エッチまではある程度物語を進めないと辿り着けません。エッチシーンもちょっとあっさりしていて、おや?と思うこと請け合い。それが結果として、キャラクタたちの印象を終わった後にまで残さない、作中でも入り込みにくい原因になっているんじゃないかと思います。
 ただまあ、一人と仲良くなってもう一人がそれに嫉妬するとか、そういう展開がないのは伝統ですね。逆にキャラクタ同士のつながりがむちゃくちゃ希薄で、姉妹間ですらそうなのだからほかの双子との関係なんて言わずもがなというくらい関係があっさりしています。姉妹を超えたイベントがまったく存在していないあたりが象徴的でしょう。一組の双子姉妹を構っているときはほかのペアはまったく絡んできません。
 なんだか世界観という意味では、あっさりしすぎていてどうしても違和感があるんですが、実際のところ「エロを見る」ためのアダルトゲームであるということからすればこれくらいのほうが気楽でいいのかもしれません。

<CG>
 これはね、悪くないんですよ。立ち絵もイベント絵も可愛いくてすごくいい感じ。エッチシーンのシチュエーションがあっさりしているので、エッチでの絵のバリエーションはあまり多くないんですが、反面、普通のイベント絵がすごくいいです。悪く云えばあっさりした絵柄ではあるんですが、クセもなくてハマる人には旧来のシリーズの絵よりもハマるんじゃないでしょうか。過去のキャラも新しくリライトされているので、作品を超えたことに関しての違和感はまったくありません。
 シナリオ面でのキャラクタがどうしても弱くなってしまう分、絵がツボった人は買っても損はありません。特にメインの二人はすごくいい。あゆかは片目がすっぽり隠れた髪型とか、まゆかはおでこのあたりに最初は違和感を覚えたりもするんですが、しかしそれもすぐに慣れてきてなんとなく可愛く見えてくるから不思議なものです。
 特徴的なのは作中、ぽんと突然入ってくるカットインのイラストとシミュレーションパートのアニメーションでしょうか。どちらも本編のものよりも頭身の低いディフォルメ絵なんですが、これがワンポイントとして結構映えます。

<システム>
 バグなどは特にありません。普通のアドベンチャーに簡単なシミュレーションゲームのようなものがついてくる感じです。アドベンチャーパートについてはほんとに普通。やっぱり過不足ないシステムですし特に文句もないかわりに特筆すべきもありません。
 シミュレーションパートは、メイド喫茶の運営がメインになります。一見すると複雑そうなんですが、はっきり云ってむちゃくちゃ簡単というか、適当にやっててもどうにかなるレベルですので悩むことはありません。悩むことはありませんが、別にハマることもないのであってもなくても同じかも。エッチを見たい向きにはちょっと邪魔かもしれません。ま、単調な流れにうまく挟まれる感じになって悪くはないんですが。

<音楽>
 歌モノが一曲。非常にポップな感じの、いかにもな雰囲気なオープニング曲ですね。実はこれ、結構好きだったりするんですよね。サビ部分のノリのよさがなんだか楽しげで、聴いてるとちょっと入ってくる感じがまた。
 劇中曲は軽い感じの曲がメインで、「げんき!」とか「おひさま」とか結構好きだったりするんですけども、ものすごい名曲があるとかいうわけでは。それよりなによりも曲のタイトルがみんな投げやりで、サウンドモードのタイトルがあっさりしてることこの上ありません。ま、これはこのシリーズの事情が事情なんである種仕方が無い面もあるんでしょうけれども。
 このサウンドモードには出てこないんですが、過去のシリーズのキャラクタが出てるときには、過去のシリーズの主題歌のインストアレンジが流れます。これが実はかなりいい感じ。なんでサウンドモードで聴けないかなあと思うこと請け合いです。
 声はさすがにいい感じ。とくにひとはの声はものすごくハマってる感じがします。

<総合>
 なんというか、総合的に特徴のない「地味なエロゲー」になってしまったのかなあ、という印象です。もちろん従来のものも、「エロゲー」としてみればかなりのものであったことに間違いないんですが、あれはあれで一貫したポリシーのようなものがあって、そういう意味合いで完成していた世界だったのだなあ、という感じですね。
 それならそれで別にいいんですが、そうして考えるとキャラクタがちょっと印象薄な感覚はどうしても強いですし、じゃあエッチ方面では……っていうとそれもお手軽に、というわけにはいかない。へんなジレンマに挟まれてしまっている感じというか。
 正直、過去のシリーズのファンは、おそらくこの作品をシリーズの一つとして見るのは難しいんじゃないかと思います。だって、雰囲気から作りからまったく違うんですから。ただ名前が継承され、なおかつ過去の作品のキャラが出ているというそれだけに過ぎません(さらに云えば、別に過去のキャラが攻略できるわけではないんですが)。
 しかし、この作品を見て新しく入ってくるファンというのも必ずいるはずで、シナリオ面でのキャラクタ性の弱さはどうしても出てくるにしても、絵の魅力は多分にあるので新たな流れを作り出すことができる可能性もあります。そちらに期待、という感じでしょうか。とりあえず絵を目当てで買う分にはまったく損はありませんでしょう。
 しかしこれで、このシリーズに「次」があるのであれば、それがどういう作品になるのかというのは非常に楽しみなところではあります。今までのシリーズのようなものに戻れるのか、あるいはこの路線を拡大していくのか。それによって、この作品シリーズのファン層というのは大きく変わってくるんじゃないかと思うのです。

2005/12/11

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