銀色 完全版 (ねこねこソフト)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3−
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

<シナリオ>
 全五章構成になっていて、それぞれが独立した話になっており、間にまた別のエピソードが入るという仕組みになっています。
 確かにこれは演出としてかなり優れていて、だらだらと長い話が続くのではなく、話を合間合間でびしっと引き締めてくれますし、「次はどうなるんだろう」とプレイヤーをひきつける魅力を持っています。
 これは演出だけではなくて、それはシナリオという文章そのものについても云えることでして。
 それぞれ、時代を違えての話作りなんですが、どの章も完成度は高いです。
 露骨に説教めいている点が鼻につくという人もいるかも知れませんが、作品のテーマがテーマなのでこれは仕方がないでしょう。
 実際、そんなことを気にさせないくらい文章のテンポも文句なしですし、思い出深く、印象深い言葉を巧みに使っているあたりのセンスのよさはなかなか真似の出来るものではありません。
 ただ、残念なのは、章によってそのシナリオの出来にバラツキがあることがまず挙げられます。
 第一章では、名前の無い少女と名前を無くした夜盗の男とのかかわりを描かれます。
 この第一章に関しては、本当に見事な出来。必要最低限の言葉で、時間の流れやその場の雰囲気を見事に書き出す文章力とでも云いましょうか。物語の中に引き込まれていくような感覚です。
 こればかりは、何でも溶かす液体を入れておくコップが存在しないように、言葉を使ってこの言葉の美しさを語るのは難しいので、実際に見てもらうより他にはないのですが、言葉の一つ一つにムダがありません。
 その情景の美しさは、ちょうど久しぶりに帰った故郷で、山の青を目にしたときの感動とよく似ています。面白いとか感動したとかそういう話ではなく、ただ「美しい」というその言葉が全てを語り尽くす感覚ですね。
 次いで第二章。未プレイの方のために詳しくは語りませんが、これがなかなか難しいです。物語の結末は実際にまあ心打たれるものでしたし、言葉の使い方もキャラの描き方も非常にハイレベルです。
 この第二章が一番文章的に露骨に作者からのメッセージが解き放たれている……のですが、これは悪く言えば「もっとも説教臭い」とも取れるわけでして。
 こういうのに拒否反応を起こしてしまう人もいるのではないかと思います。ただ、それがゆえに、物語は引き締まった完成度を保っているのもまた事実で、ドラマとしての出来はいいのですが、如何せん、キーになる場面場面でのオチというか、本来読ませてはいけない展開を読ませてしまうというのはちょっとどうでしょうかという気はします。
 せっかく伏線を張っているのに、その伏線があまりにメインの話と近いところを走っているので、「これはこういう展開に収束するのだろう」という読みの通りに展開が突っ走っていってしまい、最後までそれが裏切られないところはちょっと残念ではあります。
 第三章は、一見するともっともエロゲーチックな物語です。
 二章とは打って変わって、シナリオの「こういうことを言いたいんだ!」という主軸が、かなり裏に回っています。
 「(馬車道風の)制服のファミレス(?)」、「不幸な姉妹」というキーワードで、いわゆる「萌え」派の人々に媚びているだけの話に見えてしまいますが、あながちそれだけでもないのではないかなあ、と思うのですよ。
 この章、とにかくキャラクターの描写が深いんです。「今日はあんなことがあった。次の日はこんなことがあった」という日記風の文章ではなく、二人の姉妹を中心に、キャラクターの心と心の会話がメインで話が進んでいきますので、変な云い方かもしれませんが話のペースは尋常ではない速さです。
 だから、人によっては「置いていかれて」しまうこともあるかもしれません。
 この話、それが故に物凄く深くて、ただ「姉妹愛」で片付けてしまうには惜しいくらい見事なメッセージが託されている(と云っても、シナリオライターが意図的に託したのではなく、読んだ人の心の奥の波長とマッチする感覚を喚起する力を持っている、と云ったほうが正解に近いかもしれません)ので、このシナリオを終えて、「朝奈が可愛いなあ」とか「夕奈が可愛いなあ」だけで終わってしまうのは、個人的には物凄く勿体無いことだと思うのです。
 第一章が、「感動的な美しさ」を感じることができるのだとするなら、この第三章は、奇妙な言葉ではありますが、「感動そのもの」を感じることができる物語だと思います。
 決して話そのものは、展開や結末を含めて斬新なものではありません。どこかで見たような話ではあるのです。
 ただ、それでも何か違うものを感じるのは、徹底した「キャラクターが持つ感情」の書き込みの結末なのではないでしょうか。
 続く第四章。現代が舞台です。あくまで個人的な話ですが、最もぴんとこなかったのがこの第四章でした。
 なんと云いますか、物語があまりにスタンダードで、却ってテーマが掴みにくいのですよ。
 三章のようなキャラクターに対する徹底的な書き込みもないし、一章のような「間が持つ美しさ」があるわけでもない。云ってしまえば、「話にオチをつけるために作った話」という印象が否めません。
 さらに、「銀色」というタイトルの持つ意味付けがここでなされるのですが、このために、舞台が現代、過去と物語中に次々と入れ替わります。
 それはまあ、演出としてアリだと思うのですが、問題なのは、「現代をプレイしている間」と「過去をプレイしている間」の間があまりに短いため、テレビのチャンネルを次々に回して違う番組を見ているような感覚になってしまうことです。
 現代がずっとしばらく続いて、過去編のことを忘れた頃に過去編が入ってきて、また過去編がずっと続いて、現代編のことを忘れた頃にまた現代編に戻って……というのであればいいわけですが、現代、過去、また現代と行ったり来たりするので、物語に入り込む前に引き戻されてしまうのですね。
 どうもぴんとこないのは、このあたりにも原因があると思います。
 もっとも、この「過去編」をやらないことには物語に結末がつきませんから、同時にやらなければならないというのは理解できます。ですが、それだからといって、安直に「現代編」と「過去編」を行ったり来たりさせるのでは、物語に入れなくなってしまうのではないかと思うのです。
 これが終わって、ああ、なるほどと思ったところで現われるのが、第一章へと繋がっていく「錆」という実にシナリオ。
 これはまた秀逸な出来です。状況と展開がとにかく見事の一言。個人的には、作中で最も印象的だったのが、この「錆」でした。
 ただ、第一章へ繋げるための物語ではなく、それが単独で印象的なシーンを作り出すというのは、これはもう本当に凄いことだと思います。
 で、最後が、章の合間に入っていたシナリオの結末が語られます。ここでまだ色々なことが解決されていないということが改めて解るのですが……あの終わり方は、ここまで引っ張ってきた物語を終わらせる終わらせ方としてはあんまりなんじゃないかと思ってしまいます。ネタバレになってしまうのであまり詳しくは書きませんが、なんじゃそりゃ、という。
 総合的に見てみると、間違いなくいい出来です。いくつか不満点が残るというのもまた事実ではあるんですが。
 あと、時代考証はめちゃくちゃです。平安時代やそのあたりを想定して作られているはずのシナリオのキャラクタの第一人称が「俺」だったり。まあ、別にこんなこと気にする必要もないとは思いますが。それで作品の面白さが変わるでもなし。

<絵>
 うーん……どう云ったらいいのか。「完全版」は、元々の「銀色」にシナリオやCGを加筆したものだそうですが、それが故に昔のものと新しく追加されたものとでクオリティにかなり差があります。中にはこれは本当に同一人物なのかと思ってしまうようなものも少なくありません。
 特に四章の現代編はそれが激しいような気がします。逆に比較的安定しているのは三章でしょうか。
 幾分クセがないとは云えませんが、好きな人は徹底的に好きな絵ではあると思います。

<システム>
 映画のような画面効果はかなり巧いです。見せる場面では大きく画面を使って見せてくれますし、文字も読みやすくてゲームをやる上ではまったく支障はありません。スキップも早いですし、DVD版ならインストールしてしまえばディスクも要りません。
 目立つバグや誤字もありませんでした。
 特徴的なのはメッセージの日本語・英語切り替えシステム……なんですが、これはまあどうなんでしょうね。どういう場面で使われるのを想定して作られたのかはわかりませんが、まあ、オマケみたいなものでしょう。

 <音楽>
 巧いです。歌を含めてシーンと見事にマッチしています。演出としての音楽を見事に使いこなしている感じ。声もかなりのレベルですので、音に関してはまったく非の打ち所がありません。
 ただ、やっぱり「女性のみフルボイス」がどうしてもいただけません。こういう作品だからこそ、男性キャラにもちゃんと音声をつけるべきだと思うんですが……。

<総合>
 伏線があまり有効的に機能していない点を除けば物語としてもハイレベルです。
 尤も、この作品の場合、そういう目先の物語よりも何より第一章と「錆」の間の取り方や美しさですね。こういう類のものが秀逸なので、終わった後の余韻にゆっくりと浸ることができます。
 このクオリティで三千円でお釣りが来るんだから、これはもう間違いなくお買い得。決して感動して泣く、と云ったタイプの作品ではありませんが、その物語の深みにハマる意味合いでの「感動」がある一作です。

2003/8/21 一部変更


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