ファウスト (Tail)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4+3−7+
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

- 隠れた名作 -

 今回の「ファウスト」に関しては、上のショートコメントにも書きましたが、「こういうのこそ前面に押し出したい」と思わせてくれる一作です。と云うのも、確かに「Air」とかの名作ソフトと呼ばれる作品を推したいというのもそれは勿論あるんですが、それとは別の意味で、こういう「地味だけど魅力的な作品」というのが、なんとも好きなんですよ。
 実際、わたしはこれを発売日に買ってるんですが、これが出た日(2001年12月14日)というのは、他にも数多くの人気ソフトが発売された日でもありました。ほかのそういう人気ソフトには、テレカなんかの特典物がついていたにも関わらず、こちらはそういう特典はなし。値段も他の作品より安めです。あまり注目されていないのは誰の目にも明らかでした。悪く云えば、「あまたの「その他大勢」の作品群に埋もれてしまう作品」であるというのが、発売日の市場の評価だったわけです。  わたしがこれを買ったのは、単純に「絵が気に入ったから」に他なりません。雑誌なんかに出ている記事を見るにつけ、個人的に好みの部類の絵に強力に惹かれるものがあったのです。発売元のTailは、前回ここのレビューでも書いた「雪語り」を発売したTarteと同一ブランドで、「雪語り」がなんとも評価しにくい作品だったということもあり、正直購入にあっては少々迷うところはあったのですが、そういう状況ならと購入することに。これが他の人気ソフト同様の扱いであったなら、たぶん買うことは無かったと思います。天邪鬼ですが…。

<シナリオ>
 中世ヨーロッパを舞台にした吸血鬼物語。正直、物語の構造としては使い古されているテーマでしょう。ですが、そのアプローチはかなり異なっています。
 この作品のシナリオで注目すべきは、なによりまずその雰囲気作りの巧さでしょう。産業革命直後の中世近代ヨーロッパが舞台になるのですが、そういった、過去と現在の狭間にある微妙な雰囲気や、日本を舞台にしたのとはまた違った独特の雰囲気を、実に見事に描き出しています。こういう、キャラ名が横文字の名前の作品というのはなかなか面白いものにはなりにくく、これはなぜかと云えば「名前に感覚として順応できない」ことによるシナリオへの回帰の難しさに原因があると思うのですが、キャラクタの数を必要最低限に絞り込むことで、そういう限度の線を越えないようにきちんと配慮されているのです。それを狙ってやっているのかどうかはわかりませんが。
 つまり、「本を読んでいる」ような感覚なのですね、これは。だからこそ、世界観とか雰囲気とか、そういう根本にあるものが物凄く重要になってくるのは明らかです。そのへんの描き方とか描写が実に巧みなんです。勿論、厳密に歴史と照らし合わせてみればおかしいところも出てくるのでしょうが、「世界観を作る」という観点からすれば、その差異は決して大きなものではないでしょう。
 だからこそ、そういう世界観を壊すような、21世紀の現代を匂わせるようなギャグの挿入は、例えそれがギャグであっても入れるべきではなかったのかなとも思います。そのへんが残念ではありますね。
 メインキャラクターは主人公含む男性キャラ三人、女性キャラが五人。キャラクターの演出も巧いです。まあ、主人公をお兄ちゃんと呼ぶロリキャラとか、そういうお約束通りのキャラもいますが、本作ヒロインとなるフィーあたりのキャラクタ設定というのはある意味でとても魅力的です。あざとさをできるだけ薄めて、キャラクタを「可愛く見せる」というのは、おそらく非常に難しいことだと思うのですが、それをきっちりこなしている印象でした。
 物語は……まあ、多くは語りません。が、なかなかに良質、印象的な話です。少なくとも、読んでいて飽きのこない展開だったので、単純に「物語を楽しむ」という上でも十分に魅力的な一作でした。

<絵>
 クセのある絵ではありますが、総じてなかなかのレベルだと思います。もっとも、わたしは最初にこの絵に惹かれて買ったのでアレですが……。一枚絵はもちろんですけど、男性キャラの立ち絵や背景に至るまできっちりしているのがポイントです。やっぱりこういうのは見ていても気持ちがいいですね。背景からシナリオに至るまで、すべてに統一感があるので、作品全体としても非常に落ち着いた印象です(ただし、これは悪く云えば地味でもあるので難しいんですが)。少なくともこういう絵って、好きな人はもう絶対的にお気に入りになるのではないでしょうか。

<システム>
 「雪語り」と基本的には同じシステムのようです。機能としてはとくに過不足ないのですが、唯一、未読のメッセージに対するスキップができないのがかなり面倒です。セーブの個所も多いしメッセージ表示速度も速いので、そのへんは文句なしなんですが。
 あと忘れちゃいけない、演出面ではきわめて優秀。途中に挿入される絵本のシーンや、章の切り替え方は、作品を彩るに十分な演出効果だと思います。

<音楽>
 「雪語り」の時もよかったんですが、このTail/Tarteというブランドは、もしかして音楽面ではきわめて優秀なんではないでしょうか。そんなことを思わせてくれる出来の、数々の名曲が作品を彩ります。ここで云う「優秀」というのは、なにも曲として名曲であるということだけを指しているのではないです。うまく作品の雰囲気を演出する効果を出しているかという点も、ゲーム音楽としてはきわめて重要なのですが、そのへんもばっちりです。中世欧州を舞台にしているということで、作中の曲はちょっと古風な感じの曲がメインになっていますし、主題歌もそのテーマや雰囲気を語るにあたっては十分であると云って差し支えないでしょう。
 こういうのを聞くと、ほんと、嬉しくなりますな。

<総合>
 ほんと、地味な作品です。それはシナリオも絵もシステムも、あらゆる面に於いて地味な印象です。ですが作品自体は非常に魅力的な一作。埋もれてしまって、結局これに触れてくれる人が少ないというようなことになってしまうのは、なんというか実に哀しいことです。
 なかなかこういう、数々の人気作の影になってしまって日の当たりにくい作品にお金を出すというのは度胸がいることだとは思いますが、ちょっとこれは、機会があれば是非触れてみて欲しい。結構、本気でそんなことを思う一作でした。

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