ef -the first tale.(minori)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3+5+3+
シナリオ:鏡遊/御影
原画:七尾奈留/2C=がろあ
音声:フル
主題歌:有(主題歌:『悠久の翼』)

<シナリオ>
 震災で焼け落ちたところから復興した町、音羽。この町を舞台に繰り広げられる、ちょっと不思議な物語……とか、ストーリーをなんとかいう感じになるんでしょう。これだけだとなんだかよくわかりませんが、ストーリー的に概要を説明するのが難しい話ではあるわけでして。
 『ef』という話自体は、パッケージの説明書きによれば大きく六章からなる話なのだそうです。ただ、この「the first tale」の位置づけは「第一部」であって、そのうち最初の三つが描かれるにとどまります。と云うと聞こえはいいのですが、云ってしまえばまだ話自体がプレイヤーの中で未完結なわけでして、このへんなかなかどうこう云うのも難しいところではあります。
 話自体はすごく巧いんですよね。
 展開も、プロローグで謎を投げかけて、そのエピソードとして第一章・第二章を描くその流れが巧く生きています。基本的には大きく話をひっくり返すような特殊要素があるわけではない、ごく普通のラブストーリーなので、実に淡々と話が進んでいくように見えるんですが、その中で語られる事件と事件が巧く繋がっているので、読んでいるときはさほど冗長には感じません。
 しかし、だからこそ逆に「話が退屈」だと感じる向きもあると思います。
 事実、そこで起こっていることはなんらたいしたことのない「事件」なわけでして、結果として読み終わったときにじゃあ何が残っているのかというと、話そのものはあんまり覚えてないなあ、ということになるかもしれません。
 結局のところ、根底にあるのは「男女の成長物語」ですし、これはある意味で仕方がないことではあるのでしょう。事件の結果として発生するのは「二人の成長」という非常に判りにくい事象だけなのですから、終わった後にじゃあ何があったっけ、と振り返りづらいのもむべなるかなというところではあります。
 この作品、章立てになってるとは云っても、ストーリーレベルで分断しているわけではなく、キャラクターも時間経過も同一軸上のものとして扱われています。つまり、第一章である二人が恋人として成長しました、という話があり、第二章ではそこで残ってしまった二人が(この云い方も微妙に適切ではないんですが、まあ、便宜上そういうことにしといてください)その後繰り広げる話、という形で展開していきます。
 ですので、普通に考えれば必然的により盛り上がるのは第二章であるということになるわけなんですが、これがなぜかちょっと物足りないのですね。
 第一章では、かなり丁寧に二人の仲が書き込まれています。確かに登場するキャラクターはアダルトゲームによくあるようなトンデモ系なキャラと物語ではあるわけでして、別に恋人とかでもないにもかかわらず留守中に勝手に合鍵で部屋に入ってて部屋中漁られてももこれっぽっちも怒らないとか、云ってしまえばなんだそれではあるんですけども、それはまあこういうゲームの話なので仕方がないと割り切ってさえしまえば、ほかはキャラクターの心の揺れとか、結構丁寧に書き込まれてるんですね。
 だから、「最初は見ず知らずだった二人が恋に落ちました」という段になっても、ああそうかと納得できる展開ではあるのです。そこに至るまでの動きにちゃんとした動機と結果がついてきてるんですね。
 ところが、これが第二章になると弱くなります。無論、逆に第一章からの流れを引っ張らなければならないからこそ難しいというのもあるのでしょうが、平たく云ってしまうと、「二人はいつの間にかお互いを好きになっていたのでした」という話に、プレイヤーへの理由付けがやや不足気味。駆け足で語られるが故に、どうして(第二章の)主人公がその子を好きになったのかの説明が弱いので、キャラクタや物語に感情移入がしづらくなってしまうのです。
 ただ、それを補う存在として「雨宮優子」というキャラクタがいます。
 このキャラクタの立ち位置の絶妙さというのが、この二つの物語を引き立たせていると云ってもおそらく過言ではないでしょう。
 ちょっと話がズレますが、この作品では、プレイヤーは「神の視点」を与えられています。
 つまり、ある特定のキャラクタによってのみ語られる一方的な視点ではなく、その都度、男と女側の視点が入れ替わるようになっているのです。
 尤も、その章の主人公になっている男キャラには声が付かず、女性キャラには声がナレーションにまで入るようになっているというところから、あくまでも「演出としての神の視点」ではあって、その作品内にあるすべての事象を把握できる俯瞰の視点を持っているというわけではないのですが。
 で、この視点の存在に加え、さらにプレイヤーが見えない一段上のところから俯瞰するキャラクタとして登場するのが、この雨宮優子というキャラクタです。
 ですから、雨宮優子というキャラクタは、話すことは基本的にその謎に直結していきますし、「すべてを知るもの」として物語に参加しながら、その物語に俯瞰視点から見下ろされる側の一員でもあるという、きわめて特殊な位置に存在しています。
 彼女の存在のおかげで、この物語はぐんと深みを増しています。彼女は云ってしまえば、物語に「感情移入させない」ための存在でもあります。だって、彼女が云うことは基本的に「わからない」んですから。彼女自身が物語内で見下ろされることによって、彼女を見るプレイヤーの位置はますます定まらないものになり、プレイヤーの立ち位置があいまいなものにされてしまうわけです。
 通常、プレイヤーの視点を定まらせないというのはあまりよいことではありません。それは、物語そのものに矛盾を生み出すからです。
 主人公であるプレイヤーは、主人公以外の内心を知ってはいけませんし、逆に神の視点を持つプレイヤーは、すべてのキャラクタの心理状況や動きを把握していなければなりません。それが定まらないと、結果として主人公キャラの立ち位置がブレてしまい、話が破綻します。
 この作品は、意図的に視点(正確には、視点の「高さ」)を変え続けることによって、ひとつの物語からいくつもの新しい物語を作り出しています。だからこそ、ひっくり返るような事件が起きているわけではないにもかかわらず、読んでいるときに自然と、飽きることなく読めるんじゃないかと思うのです。もちろん好き嫌いはあるでしょうし、ドラマチックなことが起きていないのは事実ですから、それはある程度は人によるところはあるとは思いますが。
 基本的に、トリッキーな話でもないですし、感動して涙を流すような話でもありません。そういうのを期待すると確実に肩透かしを食らいます。が、アダルトゲームに「読ませる力」を求める方であれば、このなんとも云えない世界観と、キャラクタたちの台詞回しの巧さは一度読んでみて損はありませんでしょう。

<CG>
 これはもういろいろ凄いです。何が凄いってまず枚数が凄い。
 システム上、その多くが立ち絵と背景の組み合わせではない一枚絵で描かれるため、一枚絵の枚数がとんでもないことになっています。さらに一枚絵も立ち絵も目パチ口パクありという、どんだけなんだこれはというような、アニメを見ているような感じですね。
 画面の切り替えポイントや構図も絶妙なので、読んでいてうっとおしくなく、かつ退屈になりません。ある意味、ものすごい贅沢な絵の使い方だと思います。
 ちょうど同ブランドの『はるのあしおと』もこんな感じではありましたけど、それをさらにもう一段進化させてボリュームアップさせたような感じになっています。
 で、肝心のクオリティ面はどうかということなんですけども、これも申し分ないでしょう。キャラクタもそうなんですけど、特に背景が素敵過ぎます。背景が綺麗なのはminoriの伝統っぽくもあるんですけども、この作品ではさらにその構図切り替わりの多さからして、背景の美しさはさらに生きてる感じではあります。
 キャラクタCGの豊かな表情などすべてひっくるめた魅力も含め、CGに関しては不満はありません。

<システム>
 基本システムに関してはまあよいです。セーブポイントはあまり多くありませんが、選択肢自体が多くないので充分でしょうし、メッセージスキップも高速です。バックログでの音声再生は画面再生もできますし、機能的にはこれ以上ないくらいです。
 しかしまあ、一番のポイントは、上にも書いたように、背景の上に立ち絵を重ねて時々一枚絵が入ってくるというのではなく、見せるポイントでふんだんに一枚絵を入れてくるという、フルアニメーションと静止画アドベンチャーの中間とも云えそうな演出ですね。これが巧すぎます。
 しかし反面、微妙にバグが多いのはちょっと欠点。パッチなしでやるとエンディングで急にゲームが終了し、パッチを入れてもなぜかうちの環境だとなぜかメモリアルモードでムービーが見られません。「Show Movie」を選んでも何も起きない。
 というか、そもそもムービーなんてゲーム中一個も再生されてないんですけど。オートで進んでいくシーンならありましたが。
 攻略を間違ったわけでもなし、なんでなんだろうなあこれは。WindowsXPのノートパソコンのほうにインストールしてみたらきちんと再生されたんで、Windows2000だといろいろ不具合出るとかそういうことなのかも。

<音楽>
 主題歌はいつものminoriの曲と比べてちょっと雰囲気が違いますが、それでも結構聴ける曲なのは間違いないです。アニメーションと併せて見るとさらにいい感じですね。ゲームの雰囲気とは合ってますし、なかなか気持ちいい曲です。
 劇中曲に関しては、基本的に静かな曲が揃っていて、じっくり聴かせてれる感じですね。「A moon filled sky」とか「Free and easy」とか、落ち着いてて聴いててほっとします。
 声もミスマッチなキャラクタはいませんし、男性キャラにもきっちり声が付いているのは良いです。ただ、ときどきモノローグまで声が入ることがあって、これが微妙にうっとおしく感じることがあるかも。演出上仕方がないのかもしれませんが。

<総合>
 確かにいい作品ではあるんですけど、これがいまいち大手を振って勧められないのは、やっぱりこれが「二作品あるうちの前編である」ということなんですよ。いろいろ都合はあるんでしょうけれども、やっぱり一本にして出して欲しかった。
 いえ、世の中にはこういう分けて出る作品なんてたくさんありますし、そういう手法もありだとは思います。演出として分けてじらしたほうが面白くなる作品もあるでしょうし、まあその、ちょっと下世話な話をすれば、利益率を考えれば8800円のゲームを一本売るより、6800円のゲームを二本売ったほうがいいのは明らかですしね。こういうのを否定するではありません。
 ないんですけども、この作品の場合、「一気に全部読ませてはじめて魅力がある」作品だと思うんですよね。
 一本目はまだいいんです。でも、この一本目がすごくいいところで終わってて、「二本目に続く」になってるというのはやっぱり多少のストレスであることは間違いないですし、二本目をはじめたとき、どうしても一本目との話の分断を感じてしまわないかということがものすごく不安なのです。
 正味、この作品の評価は、この二本目が出るまでは正確に確定させることはできないでしょう。結局、一本目で語られたこれらの話や、雨宮優子というキャラクタがどういう風に物語に絡んできて、この伏線がどう収束するのか。おそらくそれがこの作品の一番の見所なのですから。
 そういうことからさらに云ってしまえば、この「the first tale.」は、「さあこれから盛り上がるぞ!」というところで終わってしまっているという云い方もできるわけでして、それを考えればさらに辛いものがないわけではありません。
 とりあえず後編を待ってみるというのも手だと思います。今やって、クリアしてもなんとなくモヤモヤするだけですし。それなら前後編一気に通してやったほうが絶対にいいと思います。いえ、もちろん返す返すも、「いい」かどうかは後編の内容次第なんですけどね。
 しかしムービーが再生されないのはなあ。ユーザーサポートに問い合わせてみるか。

2007/01/28

戻る