D.C. -ダ・カーポ- (CIRCUS)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3+5−4+7−
シナリオ:
原画:
音声:
主題歌:

-美しさとの引き換えに得た「萌え」-


<シナリオ>
 学園モノのラブストーリーです。一応舞台は田舎の小島ということになっていますが、あまりそれを感じさせるような描写は無く、いわゆる郊外の一都市と云う感じですね。ちょっと不思議な能力を持った主人公ですが、決して特殊な能力者として描かれるわけではなく、あくまでもその舞台は日常です。それぞれのキャラクターごとにシナリオが用意されるスタンダードなエロゲー型進行で、登場する女の子は、まあそれぞれに何らかの悩みやヒミツを抱えていて、それぞれのキャラのシナリオが進行したところでその結論が解るようになっています。
 シナリオ自体も、エロゲーとして考えれば至って普通と云うか、大変などんでん返しがあるわけではありません。かと云ってオチが読めてしまうような単純な物語かと云うと決してそうではなく、ストーリーはかなり高いところできっちりまとまっている感じはします。まあ、感動して涙をボロボロ流させてくれると云ったタイプの物語を期待すると若干肩透かしを食らいますが、話そのものはちゃんと読んでいけば特に難解なこともなく、なるほど、そういうことだったのかと踏みしめながら読むことができます。キャラごとのシナリオの差も(やや特殊なところにある芳野さくらシナリオを除けば)特にあるわけではないので、ストーリー系エロゲーとしてのシナリオとしては間違いなく楽しめますでしょう。エッチシーンは全体的な割合からするとあまり多くはないのですが、それを補う可愛さがあるのでこれもまあよしです。
 ただ、イベントシーンが日常を描くにはちょっと不足しているような感じは受けました。この作品、CGが用意されているような大きなイベントが後半部にまとまってしまっているため、前半部分は実に起伏なく進んでいくことになります。確かにいろいろな出来事が起きてはいるのですが、それを知らせてくれるような目印となる大きなイベントCGなどが圧倒的に少ないため、どうにも起伏が感じられず、ともすれば単調にクリックさせられている感じを受けてしまいます。極端に云えば、前半から中盤にかけてが非常に退屈なんですよ。用意されているキャラクターは魅力に満ちていますし、その仕草も思わずニヤけてしまうような可愛いものが多いんですが、この前半部の平坦さがどうしてもその魅力を薄めてしまっています。どんなにキャラクターが魅力的でも、その魅力をどうこうする前に一気にクライマックスに突入してしまうので、どうしても印象が薄められてしまうんですよ。もちろん、作り手としては学園恋愛モノとしてそういう「起伏のなさ」もひとつの大切なエレメントであるということで意図的にこうしてあるのかもしれず、これはまあ個人的な趣味の差なのかも知れませんが。
 この作品、同ブランドの前作品となる「水夏」とはまったく別モノですし、比較してはいけないのは当然のことです。作品のコンセプトからして基本的に異なっているわけだし、別にシリーズものであるというわけではないのですから、この二作品を比較してどちらが優れているとか劣っているとか云うのは間違っています。ただ、それでも、ブランドの前作が「水夏」という(わたしの中で)最高傑作であったというのは重い足枷で、やっぱりどうしても無意識のうちに比較してしまうのです。
 で、「水夏」と比較すると云うイリーガルな評価方法を取った場合、この作品は(あくまでも、わたしにとっては)残念ながら「水夏」よりも低めの評価になってしまいます。否、もちろんこの作品がつまらないとか云っているのではありません。この作品も非常に面白いのですが、件の「水夏」に比べると、なんとなく普通のエロゲーになってしまったな、という印象を受けてしまうのです。
 「水夏」でわたしが気に入ったのは、とにかく作品や文章、雰囲気が持つ圧倒的な美しさでした。「月陽炎」の時も同じような美しさを感じましたが、それすら超えてしまうような、もはや感覚的なものでしか語れない美しさが「水夏」にはあったのです。この作品にもそういう美しさを無意識のうちに期待してしまったのですが、絶妙な云いまわしや作り出された雰囲気が持つ美しさは、この作品からは感じられませんでした。
 雰囲気はまあ仕方がない部分があると思います。「水夏」の舞台になった常盤村というのは、緑と美しい海岸線に囲まれた、「故郷」を理想として描く日本人的美学のひとつの結晶であったわけですから、これを現代風の学園モノに要求するのは間違っています。なのですが、この作品には、「水夏」が持っていた文章の微妙な美しさも同時に感じられなくなってしまっていたのです。
 文章そのもののテンポは決して悪くありません。読み進めていくということに関してはすらすらと読める絶妙なリズムですし、キャラクター同士のせりふの掛け合いも楽しいくらい軽快です。まあ、これならば問題まったく無しなのですが、先の評価基準……つまり「水夏」との比較で云えば、云いまわしや独特のリズムや台詞回しによる美しさが無いのは残念なところではあります。
 ただ、「水夏」は最後のオチ全体を含めた物語の概要や台詞回しがともすればやや難解だったので、それをよりわかりやすいものにするのならこの作品はひとつの完成形です。文章の持つ表面的かつ感覚的な美しさを切り捨ててでも、描き出そうとするキャラクターの魅力を前面に押し出そうとするというのはもちろん大正解なわけですから。実際、キャラの性格付けや展開はかなりのもので、素直にお気に入りのキャラにお気に入りだと云える作品であることは間違いありません。音夢なんかは、描かれる仕草や台詞回しなんかがあまりに絶妙で、正直めちゃくちゃ可愛いと思いますし。繰り返しになりますが、本来、土俵の違う「水夏」とこの作品を、同じスタッフが作っているからと云う理由だけで比べることが間違っているわけです。
 ただ、そんな中でもどうしても解せないのが、あまりにも気軽にジャーゴンや既存作品のパロディを、結構な量作品の中に入れてしまっていることです。文章の美しさ云々の話は前述の理由でまあよいとしても、そういう作品の中にある文章そのものを壊してしまうかのようなパロティを持たせてしまうと云うのは、なんというか本当にわたしにとっては残念なことだったのです。「シスタープリンセス」のパロディなんかはまあなんとかだとしても、「さくらたんハァハァ」とかなんとか出てきた折には、もういいかげんにしてくれと思ってしまいました。
 こういうパロディは、パロディとしてはまったく成立していません。これはあくまでも文章の体裁をした記号でしかないのです。「さくらたんハァハァ」という言葉は、その額面どおりの意味すら持たず、知っている人にのみ通用する記号でしかないのです。もちろんパロディと云うのは、本来は知っている人がニヤリとできればそれでいいというのもありますから、それはまあそれでもよいでしょう。ですが、この手の「文章のようなもの」は「記号」です。顔文字なんかと同じで、これらを作品の中にごく普通のこととして入れるのは、物語の世界と自分とをつなぐラインを根底から断ち切る行為だとわたしは思います。
 すべて含めてわかりやすく、ほのぼのした学園恋愛アドベンチャーを目指した結果であると云われてしまえばそれまでですが、物語そのものはやっていても素直に面白い作品だったからこそ、このあたりが余計にわたしには目に付いてしまいました。こんなのは気にならない人にはまったく気にならないだろうから、まあ、これがどういう評価につながるのかは無責任ながら個々人の判断にお任せいたします。

<CG>
 なんとなく複数の人が原画を担当しているような印象は受けますが、キャラクターによって極端に差があるというわけではなく、それなりに統一感はありますので気にはなりません。美春に関しては眼の書き方が明らかに他のキャラと違っているような気はしますが、それも別に気になって仕方が無いというほどではありません。総じてキレイで可愛いです。一枚絵はもちろんですが、立ち絵のバリエーションの豊かさでも楽しめるのがこの作品の特徴で、たとえば楽しいことをしゃべっているときには音符マークが立ち絵の後ろに出たり、怒っている時には血管の浮き出たマークがキャラの上に出たりと、非常にマンガチックな表現で楽しませてくれます。
 もちろん、背景やエッチシーンを含めた一枚絵のクオリティの高さは文句なしです。

<システム>
 「水夏」と同じシステムだけあって、安定度、使い勝手、ともにきわめて良好です。一度読んだシナリオを簡単に紹介してくれるあらすじモードは今回も装備されていますし、既読未読を判別してくれるスキップも便利です。さらにホイールマウスでテキストの履歴が読めるのはもちろんですが、これがクリックの変わりに使えるというのもかなり使えます。ただ今回、移動をマップ上で選択して選択した場所へ行くというシステムになっていて、これが若干面倒かもしれません。
 目新しいのが、目覚まし時計の起床時間設定とガヤシステム。前者は夜寝る前に次の日に起きる時間を三つの中から選択できて、それによって早起きしたのと遅くまで寝ているのとで微妙に話が変わってくるというシステムです。後者はマップの移動画面で女の子の声が聞こえてきて、それによってどこに女の子がいるかのヒントが得られるというものですね。
 ですがこれ、あまり生かしきれてません。前者はともかくとしても、特に後者は不自然きわまりないです。「ガヤシステム」というくらいだから、ガヤの中に混じってかすかに声が聞こえてくるのかなあそれなら面白いなあと思っていたんですがそうではなく、マップ画面で唐突に女の子の声が聞こえてくるだけなので、ちっとも「ガヤ」じゃありません。まあ、ヒントを得られるという効果は出ているわけですが、それならば別にマップ上のどこにどの女の子がいるかをアイコンかなにかで示してくれたほうがよっぽどありがたいです。その趣の無さを懸念しての「ガヤシステム」なのでしょうが、これではあまりに無骨でしらけてしまうだけです。新しいシステムとしては非常に面白いんですけどもね。

 <音楽>
 あいかわらずの巧さ。歌モノを含めてどれも聞かせてくれる曲が揃ってます。特にエンディング曲「Dream」は名曲。一度聞くと忘れられない曲です。BGMも「水夏」のときはどちらかというとしんみりした曲が多かったんですが、今回は圧倒的に明るい曲が多くなってますね。個人的にはしんみり系の曲のほうが好みなのですが、それはまあ本当に個人の趣味の問題です。
 声はやっぱりかわらずのクオリティ。どうすれば可愛く、魅力的に見せられるかというのをちゃんと意識してやっている演技と云うのは、やっぱり聞いていても心地いいものです。特に音夢とさくらの演技はあまりに魅力的。どうやら音夢は「水夏」のさやかと同じ人らしいという話なのですが、さやかとはまったく違った印象です。普通に読むとちょっと鼻につきかねない台詞が多いこの作品で、そういう印象をまったく受けさせないという時点で、声の演技に関してはもう文句なしでしょう。今度は男性にもちゃんと声がありますし、音関係はもう大満足です。

<総合>
 いちおう最初に云っておきたいのは、これは間違いなく良作です。今回の文章でわたしが否定しているポイントは、ほぼすべてわたしの感情的なものから来ているに過ぎません。だから、なんでおまえはこんなことが許せないの?とか、なんでこんなことがマイナス要素になるの?と首をかしげている人も非常に多いと思います。とにかくわたしにとってはそういう作品だったのです。それがマズいことであるとは云え、やはり同じスタッフが作っているとすれば前作にあったものを期待してしまうのはある程度仕方がないことだと思いますが、その流れを意図的にかそうでないのかはわかりませんが断ち切ったことに関しては大英断ですし、「水夏」という先入観を持っていたとしても、この作品の魅力が理解できないわけではありません。
 ですが、「水夏」という基準を抜きに考えたとしても、同じスタッフの作品ながら、雰囲気や物語からの美しさが消えてしまっているのはやはりわたしにとっては何より残念なことでした。まあ、作品そのものがそういうものを目指していないのだとすれば当然で、読みやすく素直に楽しめる物語というのは間違いなくそこにありますから、美しさが無いのと作品のつまらなさはかならずしも正比例ではありません。むしろ物語は「おもしろい」か「つまらない」かと云われれば間違いなく「おもしろい」のですよ。ただ、わたし個人としては「残念」。本当に、それだけの話なのです。

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