秋桜の空に (Marron)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4−1+5−8−
シナリオ:竹井十日
原画:岩舘こう
音声:無
主題歌:有(オープニング:『さよならを空に』/エンディング:『癒』『Everlasting Flower』)

<シナリオ>
 秀逸です。前半は普通の学園生活が、後半は割りとシリアスな内容で描かれるわけですが、この前半部がとにかく秀逸。女性キャラは勿論ですが、主人公や男性キャラを含めたそれぞれのキャラクター設定が巧いので、学園生活パートがとにかく楽しくて仕方がありません。「笑える」というのもありますし、とにかく読むことが楽しいというのがなにより大きいです。しかもこれにキャラクターによる差がほとんどなく、どのキャラクターのシナリオに対してもこのクオリティを保っていることは本当に凄いです。
 一見して、かなり「ONE」や「Kanon」に影響を受けていることはわかります。話が似ているというよりも、それはキャラクターの作り方や立たせ方が極めて似通っているのです。ONEもKanonも、それぞれのキャラクターにとても膨大な量の設定があって、それをしっかり確立した上でシナリオを振っているからこそあそこまでキャラクターが立った物語になっているわけで、このやりかたをこの作品もきっちり踏襲しています。もっとも、口癖や仕草があまりにあざとく「萌え」方面に振られているというのを感じるので、そのあたりでちょっと引いてしまう点もないわけではないのですが。まあ、それを踏まえたとしても、キャラクターの立たせ方がシナリオを魅力的にしているのは間違いないです。なんだってみんな可愛いんだ、これが。
 シナリオ前半は、どのキャラクターのシナリオにおいても、かなり「笑い」に振られています。出てくる選択肢のどれを選んでもまっとうな結果にならないことも少なくないですし、特定の選択肢以外はキャラクターのエンディング進路へ一切影響を与えませんので(まあ、これもちょっとどうかと思うんですが、シナリオを見せたいとかエッチシーンを見せたいとか明確な目的があるのなら、これもアリなんでしょう)、結果がどうなるかさっぱりわからない展開ばかりなので、「すべての選択肢を試してみたくなる」魅力に駆られます。「全部のCGを埋めたくなる」とかの作品ならほかにもありますが、「全部の選択肢を見たくなる」なんて作品はそうそうありません。
 しかも、その「笑い」の質が、よくあるパロディ系の笑いではないところもまたポイントです。「知っている人なら面白い」というネタなら今までいくらでもありました。ペンギンワークスの『Rumble』あたりは、それを究極的にまで突き詰めて楽しませてくれたわけですが、そこまで煮詰めない中途半端な作品では、幾分閉じた印象を与えることが多かったのもまた事実ですし、逆にモトネタを知っているが故に不快になった作品も多々ありました。しかしこの作品の楽しませ方は「開いた笑い」とでも云うべきもので、純粋にそのシチュエーションやテキストだけで勝負してくるのです。「この漫画を知らないから楽しめない」「このゲームを知らないから楽しめない」という状況がありません。良質のお笑い番組を見ているような楽しみ方ができるのです。ここにテンポがよくて読みやすいテキストが加わって、純粋なエンターティメントとして楽しめるシナリオができあがっています。ちなみに、文体や文章の展開のさせ方は、メディアワークスから小説を刊行している田中哲弥氏ときわめて近いものがあると思うんですがんなこたどうでもいいですか。
 反面、後半部はちょっと消化不良を起こしている感じ。前半の雰囲気はどこへやら、一気に「泣かそうとする」感動系シナリオへと持っていきます。まず、この前半から後半への切り替えが急すぎです。まあ、最初のほうからその展開を伏線として張ってはいるんですが、その伏線があまりに印象に薄すぎて、展開のあまりの急勾配についていけないという感じでしょうか。
 さらに云えば、そのキャラクターに対する書き込みの細かさが、この「泣きシナリオ」では露骨なあざとさになってしまっています。とにかく感動しろ、さあ感動しろと突きつけられているような、過去に張った伏線を無理矢理回収しているような、そんな印象を受けてしまうのです。
 この作品、「癒し系アドベンチャー」などと銘打っているわけで、なるほど「笑い」と「泣き」という二つの感情のカタルシスを最も激しく発散できる感情活動を喚起させようとしているのはコンセプトからも伝わってくるんですが、「ONE」や「Kanon」などの作品が成功していた「笑い」と「泣き」の微妙なバランスが、「泣き」シナリオの消化不良感の影響で幾分弱いものになっているという欠点があります。まあ、物語として見た場合、この「泣き」パートの物語も、しっかりと張った伏線の処理を含めてきっちりこなしているわけですから、これはこれでいいんですが。
 エッチシーンに関しては、こういう作品でありながらきわめて濃いです。というか濃すぎです。とにかくこいつら、普通のエッチをしやがりません。お互いに初めてなんじゃないのかというのに毛は剃るわ母乳は出るわ、言葉にするとなんだか物凄く下品ですがとにかくそういうなんじゃそりゃあというような想像を超越したエッチシーンに驚かされること請け合いです。引く人はこれで引くかもしれません。ことこのエッチシーンに関しては、癒し系というコンセプトから激しく逸脱しているのは間違いないです。エッチシーンが薄いなんて云わせないようにしてやる!とでも云うようなシナリオライターの強烈な執念を感じずにはいられません。気のせいだと思いますが。

<CG>
 決してどこからどう見ても巧いという絵ではありません。涼香の斜め向きの立ち絵は露骨に首のアライメントがおかしかったりしますし。でもなんだろうなあ、なんか魅力的なんですよ。ほんとみんな可愛い。好みの問題もかなりあると思いますけどね、絵に関しては。わたしは好きです。特に晴姫絡みの絵は、なんとなく立ち絵・一枚絵ともに特にクオリティが高いように感じたのはわたしだけでしょうか。
 背景もなかなか丁寧でいい感じです。巧くは云えませんが、全体的に今風エロゲーの絵、という感じですかね。

<システム>
 これはもう、かなりなことになっています。まずパッチを当てないとどうにもならない時点で終わってます。まあ、修正ファイルを当てれば「とりあえず」動作はするようになるのですが……正直な話、快適性とはほど遠いです。
 まず、メッセージの速さ。「ノーウエイト」以外はどれもまったく変わりません。「ノーウエイト」でようやくそれなりに気持ちよく読めるかなあ、という感じ。CTRLキーで既読スキップができますが、これも決して早くはありません。んで、さらに、このメッセージの速度やらなんやらを、一度終了させると記憶してくれていないので、いちいち起動するたびに「ノーウエイト」に設定しなきゃならんというのも面倒です。
 さらにはクリックの応答性の悪さ。これはまあ「おまけ」モードに限ったことなんですが、ボタンをクリックしても反応は頗る悪いです。何度もクリックしているとようやくちゃんと反応してくれるかなあ、という感じ。なにが原因なのか、押すタイミングにコツがあるのかとかいろいろ探ってみましたがさっぱりわかりません。こりゃもう、どうにもなりませんな。ほかがいいだけに勿体無いことこの上ないです。

<音楽>
 なんか妙に古臭いです。PC-98時代のPCゲームミュージックって感じ。いや、音の数とかはちゃんと今風なんですけどね、なんか作風が妙に昔っぽい。でもそれが逆にいい味出してます。それだけじゃなくて、曲そのものはかなりよく出来てるんで、聞いてて飽きません。キャラクターのテーマミュージックにしても、それぞれきっちり雰囲気に合わせて作ってあるあたりはかなり好感度高いです。
 あと歌。主題歌、挿入歌、エンディングの3曲。歌詞からして、この作品をちゃんと見て作られているのが解ります。中でもこのエンディング「Everlasting Flower」がなんかお気に入り。ほんと、綺麗な曲です。

<総合>
 絶対にバッドエンドがないシナリオシステムとか、キャラクターが持つ「萌え」強調の口癖とか、なんとなく賛否両論ありそうな部分も少なくはありませんが、概して「ONE」とか「Kanon」あたりの作品が好きなのであれば、間違いなくハマれる一作だと思います。まあ、いくらエッチが濃いとはいえ、エッチが少なくてなにがエロゲーかという人にはお勧めできませんが、話を読むのが好きならこれは絶対楽しめます。あとはなんというか、「萌え」概念が強い人とでも云いましょうか。登場キャラクターは、「萌え」方面にアクの強いキャラばかりですので、とにかく女の子が可愛ければいいや、という人にも安心して薦められます。
 決して「感動して涙を流す」というものではありません。ですが、単純に「泣かせる」よりもある意味でははるかに難しい、「エンターティメントとして楽しめる物語」を提供してくれた一作でした。


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