Blue-Sky-Blue【s】 -空を舞う翼- (EMU)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント3+5−
シナリオ:門司
原画:甲斐
音声:有
主題歌:

-ライトに楽しめる良作-

<シナリオ>
 シナリオの概要を説明する前に、この作品はさしあたって主たる登場人物の人間関係を整理しておく必要がありますでしょう。と同時に、人間関係を説明してしまえばストーリーの説明もほとんど事足りてしまいます。
 まず主人公。飛行機が好きな普通の青年で、気象予報士である父親はいますが、母親は彼が幼い頃に亡くなっています。それに関連して、主人公は父親を恨んでいます。
 そして主人公の幼馴染みである少女、美砂。幼い頃に両親に捨てられた孤児で、引き取られた家での家庭環境があまりよくなく、いつからか主人公の家にいつくようになっていました。
 そんなあるとき、父親の仕事の都合で、主人公と彼の父親は北海道へと引っ越すことに。実際の家族ではない美砂は当然ついていくことができません。そこで彼女は彼の父親と結婚し、強引に家族になっていっしょに北海道へついてきてしまいます。その先で彼らは「翼」をキーワードに集う少年少女たちと出会って……。
 概要としてはこんな感じです。シチュエーション自体は突飛ですが(幼馴染みが主人公と結婚する、というのならまだありそうなものですが、なんせいきなり「母親」になってしまうわけですから)、実際のストーリー展開は良くも悪くもあまりそれを感じさせません。ここが面白いところで、まあ云い方によっては「シチュエーションが生かされていない」ということにもなるわけですが、むしろさまざまな場所でそう云う設定がふと顔を出してくるという状況が、「平凡な日常」とその崩壊が一つのテーマであるこの作品で生きていると云えますでしょう。それまで本当に普通に生活していて、まさに「幼馴染み」以外の何者でもなかったその関係にふと顔を出す自らに課せられた異常なシチュエーションと、いわゆる「エロゲーの常識」で「二人の関係は幼馴染みである」という前提で物語を進めていた中にふと顔を出す見慣れないシチュエーションというのは、現実と物語の世界を感覚的にオーバーラップさせます。このへん、あまり語られることはないでしょうし、これが計算されたものなのか偶然の産物なのかもわたしには知り得ませんが、無意識のうちに物語の世界へと没頭させてくれるという意味では絶妙な「シチュエーションの演出」です。
 さらに、前作『雨に歌う譚詩曲』でもそうだったのですが、この作品が持っている視点というのは実に特殊で、主人公からの視点とそれ以外の人の視点が交互に登場します。ですが、『雨に歌う譚詩曲』と比較して、こちらの作品はより視点の揺れを演出として生かすことに成功しています。
 『雨に歌う譚詩曲』でも存在した視点のズラシは、ズレた後のフォーカスはその人そのものに移動しており、結果として視点が主人公に戻っても、主人公の知りえる情報とプレイヤーの知りえる情報に大幅な乖離が生じていました。その『雨に歌う譚詩曲』における解決方法は、「それ自体を表現にしてしまう」というものだったわけです。最初の頃は主人公とプレイヤーは同一であったものが、さまざまな視点を取り入れて「揺らしつづける」ことで、次第にプレイヤーと物語の世界の位置関係を変化させるという「表現」ですね。
 対して今作では、最初から最後まで一貫して主人公は主人公のままです。プレイヤーとの位置関係も変化しません。ゲームの中で語られる「俺」は、最初からプレイヤーと同一の距離を置いてあります。だからプレイヤーは「神の視点」から主人公の知らない事実を知っていることに違和感はありませんし、逆にそれだからこそ、「俺」で語られる主人公の行動の意義を知りうることが出来るわけです。
 だから、他の物語によくあるように、本作は「主人公が成長する」物語ではありません。もちろんそういった側面は大いにありますが、それよりも、主人公は「知っている」存在です。まわりからの影響を受けて変化するのではなく、まわりの人々を変化させてしまう存在です。それは「視点を揺らす」ことから出てくる、主人公とプレイヤーの距離感の演出によりより強調されているのです。
 また、本作でもやはり笑いの要素はかなり大きく詰まっています。物語自体は単独で見ると結構話として難解な部分がないわけではないのですが、それでもこちらの笑いの要素で十分満足はできるかもしれません。『雨に歌う譚詩曲』の今日子役で笑わせてくれた声優さんが、本作でもやはりお笑いキャラを演じているわけですが、テキストのテンションの高さは相変わらず。後半部分のちょっとシリアスな部分とのバランスは見事で、満足感は高いです。
 そしてわたしがこの作品、なにより好きなのは、とにもかくにも表現一つ一つ、キャラクターの台詞一つ一つが持つ美しさです。風景などを表現する凝った云いまわしというのではありません。単純に、キャラクター(ないしは世界)をどう動かすかというその一点において、です。
 シナリオというのはもちろん大まかな物語展開が見事であれば、それはそれなりに読後感の心地よさというものが残るものなのですが、本作はその一つ一つの要素である状況説明が本当に絶妙です。例えば風花と主人公のはじめてのキスのあとの「じゃあお返しに、ふーかさんからするけど、それでもいいですか?」なんていう台詞。これ自体は本当に緊張感のない、なんてことのない台詞に過ぎないのですが、これが風花というキャラクターやその状況が合わさると本当に美しさを持つのです。これはまあ、キャラクターが個性的で非常に立っているというのもあるのですが。
 まあ、全体的に物語自体は非常に綺麗にまとまっているのですが、不満がないわけではありません。この作品、『雨に歌う譚詩曲』同様に、前半から中盤にかけてのほとんどのシナリオをすべてのキャラクターにおいて共用しています。ちょっと解りにくいかもしれませんが、つまり、どのキャラのエンディングにたどり着くにしても、別のシナリオに入るのは後半に入ってからで、エンディングがある四人のキャラクター全員、プレイ中にまったく同じ文章を読まなければなりません。なので、二人目以降は、後半までまとめてスキップして、分岐が始まったところでようやく読み進めるという流れになってしまいます。
 まあ、これはシナリオの根底が分散しないという意味においてはそれなりの意味を持つのですが、しかしやはり若干のボリューム不足を感じないではいられません。どうしてもセカンドプレイ以降は機械的な作業になってしまいます。
 また、美砂・風花の話に比べて、恵奈・香澄の話が必然的に薄いものになってしまっている印象も拭えませんでした。後半二人はどうしてもその存在からして、共通部分においては主人公との結びつきが薄くなってしまうのはやむをえないことではあるのですが、それがゆえに主人公が対象の女の子を恋愛対象として見るまでの動機付けは若干弱いように思えてしまいます。
 物語方面から見れば、本当になんというか普通に楽しめる作品ですね。決して超大作ではありませんが、時折入ってくる重みのあるメッセージにはちょっとどきっとさせられるところがあったりもします。

<CG>
 一枚絵はほんとに魅力的です。ゲームの一枚絵というのはどうしても必然性から先にありきで、今ひとつぱっと見たときの印象というのは薄いものが多いのですが、本作は絵としてまとまっている感じですね。まあ絵柄の好き嫌いは誰にでもあるとは思うのですが、わたし個人的な好みから云えば好きな系列。『雨に歌う譚詩曲』よりも明らかにイマ風になっている感じですね。時折入るアイキャッチ風の処理もうっとおしくないし、モノローグシーンに使われる色鉛筆のような淡い色彩の絵柄の美しさも格別です。

<システム>
 クイックセーブや未読・既読スキップを選択できるスキップ機能など過不足はありません。まあ、逆に特に目新しいシステムはありませんが。セーブポイントの数も非常に多く、困ることはありませんでしょう。バグなども特にはありませんでしたが、ちょっと誤字が目立ったのは愛嬌ってところでしょうか。ただ、シナリオのところでも述べたように、前半部分はほとんど共通なので、「選択肢まで一気に飛ばす」スキップがあってもよかったかなあという気はしますが。

<音楽>
 I'veによる歌もあるんですが、それよりもわたしはどちらかというと劇中曲のほうが印象的でした。特に一番良くかかる「夏風」という曲。まあ、ゲームの曲としては本当に普通の曲なんですけど、それが逆にどんな台詞やシチュエーションにもぴたりとハマります。ほんとに気持ちのいいくらいさわやかな曲でお気に入りですね。エンディングの曲なんかも聞かせてくれるんですけど。
 で、声。こちらはもうほんとに秀逸。最初にやったときは美砂や香澄に若干の危なっかしさを感じたのですが、進めていくとこれはもうこの声じゃなきゃいかんなあと思えるようになります。
 特に風花役の人。風花というキャラは典型的な天然ボケ系で、それでいながら決してあざとさを感じさせてはいけないキャラクターという非常に難しい役柄なのですが、これを見事に表現してしまっています。風花とのやりとりが非常に楽しくて仕方がなくて、一回読んだところなのにスキップを停めてもう一度読み返してしまうというのは、この声の魅力がかなり大きいです。
 あとはともみ役の声優さん。前作では今日子という爆弾キャラを演じて笑わせてくれたのですが、今回も役柄はやっぱり同じでした。テキストから笑いを誘発するテンポがあまりに絶妙。
 何役かを一人でこなしている方もいるのですが、それをまったく感じさせないあたりも素晴らしいです。

<総合>
 個人的に前作『雨に歌う譚詩曲』から追いかけているブランドということもあって期待はしていたのですが、まさにこれは前作の良かったところを崩さずにパワーアップしたなあという感じですね。まあ、何度か繰り返しているように、決して大作ではありません。これが語り継がれるような名作になるかというとそれは難しいでしょう。なのですが、「プレーヤーを楽しませる」という点から考えれば、個人的には非常にオススメしたい作品です。考える人には考えさせてくれるし、ただ楽しむこともできるという懐の深さは前作同様。シナリオを構成する要素から考えても、なんとなく夜中の九時から二時間の特番でやる推理モノのテレビドラマのようなノリです。こういう「普通に楽しめる作品」って、案外探すのが難しいんですよね。

2003/1/19

戻る