11eyes −罪と罰と贖いの少女−(Lass)

項目シナリオシステム音楽総合
ポイント4+4+9−
シナリオ:LEGIOん/剣技マナ/獅子雰塵
原画:ちこたむ/萩原音泉/小沢悠/鳴海ゆう/KENGOU
音声:フル
主題歌:有(オープニング:『Lunatic Tears…』/挿入歌:『忘却の剣』/エンディング:『穢れ亡き夢』)

<シナリオ>
 主人公・皐月駆のもとに突然に訪れた、現実と同じでありながら誰もいない別世界「赤い夜」。そこにいた謎の存在「闇精霊」。それをきっかけに、空には「黒い月」が現れ、彼の現実は次第に狂い始める……。
 というような、出だしとしてはそんな感じです。この後から、集まってくる仲間たちと、この謎の世界や謎の存在との戦いや謎解きが始まります。
 この作品、そういった戦いの下に、かなり凝って作られた世界設定があります。それは東洋・西洋の宗教や歴史的事実をベースに架空の設定を織り交ぜ、深みのあるタームを意図的に出すことで完成された、かなりしっかりしたものです。
 オカルティックなものに興味がある人ならば、実際に存在する組織や人物などの名前に頷くことができるほどには、物語自体「リアル」ではないですが「リアリティ」は作られているわけです。
 ちょっとこのへん言葉としてわかりづらいので補足しておきますと、魔術だの異世界だのというのが存在しており、そこで激しい戦いが行われている……という設定自体は「リアル」ではないのです。
 これは当然でしょう。これをリアルだと云うならば、「魔術を使える人間なんていないし、あんな世界に突然入っちゃうことなんてないよ」で終わりです。
 そういった意味での、つまるところ「現実に即した」リアルさはありません。ありませんが、「現実的に、自分のいる世界の延長での世界」の感じさせ方としてのリアリティが作りこまれています。
 つまり、自分がいるこの世界の延長にある違う世界(ものすごく曖昧な云い方ではありますが)で、こういうことがあるかもなあ、と思わせる力があるのです。
 現実にあるものの中に架空のものを混ぜていくことで、世界をより身近なものとして感じさせる手法というのは過去の物語でもいくらでもとられてきたものではあります。が、この作品の場合、その作りこみが非常に細かい上、架空の事象を混ぜる割合が絶妙です。そこからなんとも云えないリアリティが生まれてきているのです。
 この作品で巧いのは、まずそこでしょう。この舞台設定の細かさによるリアリティと、その中で一部をわざと覆い隠すことによって最初から見えている謎が気にさせる手法が巧く機能しているが故に、ついついゲームを「進めてしまう」魅力があります。
 そういった、作りこまれた舞台設定に裏打ちされた物語展開による魅力というのは大きくて、作品のボリュームはかなりあるにも関わらず、そのボリュームを肥大化したものとして感じさせることがありません。
 もちろん単純に、文章のテンポのよさもあります。なんというか、すらすらと読める感じの文章なので、読み進めていくストレスがさほどありません(なぜ「さほど」なのかは後述します)。
 特にそのテンポのよさが顕著になるのは戦闘シーンでしょうか。文章そのものが読みやすいおかげで、この戦闘シーンはかなり魅力的な、迫力あるものになっています。
 やたらとテンションの高い戦闘シーンというのはなんだか読んでるほうとしても疲れてくるものですが、この作品の場合そういったテンションの上下が巧いところでコントロールされており、基本的には淡々と光景を語りつつ、ここでちょっとだけ賑やかな、ここで落ち着かせて、という文体が生きています。
 戦闘にもちゃんとテンポがあるので、単純にたとえばRPGの戦闘シーンのような「○○はダメージを受けた! モンスターにダメージを与えた!」の応酬のような退屈さは微塵もありません。
 そういった意味で、世界観とそれに伴う文章全体についてのレベルは極めて高いです。読んでいても安心できますし、そこに熱中できるだけのクオリティは確実にあります。
 基本的に一本道のストーリーで、そこから各キャラクタごとに微妙に分岐していく感じの話の展開ですが、その骨格部分は筋の通ったものなので、読み終えた後にストーリーが印象的なものとして残ります。
 各キャラクタごとに分岐するその分岐が細やかなもので、ストーリー自体は変わらないため、共通部分がどうしても長くなってしまうのはちょっと辛いところではありますが、基本的な部分は非常に魅力的だと云えますでしょう。
 ただ、全体的な出来がいいだけに、気になるところもないわけではありません。
 まず一つ目は、こちらは瑣末なことかもしれませんが、ちょっと安易なパロディ系のギャグが目立つこと。
 まあ、好き嫌いの問題だと云ってしまえばそれまでの話なんでしょうけれども、これ見よがしに他社のゲームやアニメ等のネタを持ってくるのは、ギャグとしてはあまりにも安易と云うか、もともとの話のテンポがいいだけにちょっとがっかりするところではあります。
 こういう安易なパロディ系のネタというのは、会話の間に唐突に入ってきて別の世界観を感じさせ、物語を切断してしまう危険性を孕むわけですが、この作品においてもそれは例外ではありません。
 そしてもう一つ、同じように「テンポを阻害する」という意味合いにおいてはこちらのほうがより問題としては大きいのですが、せっかくの深みのある設定が非常に「説明的」であることがひっかかります。
 上にも書いた通り、この作品では、舞台設定となる深みあるタームが次から次へと出てきて、さらにそれを「説明」する必要が出てきます。これは当然の話です。
   で、これがこうだからこうなった、という流れや、あるいは例えばある固有名詞や事象についての説明などさまざまなところで、この作品のシナリオは、そっくりそのまま文章で、教科書的な説明を開始してしまうのです。
 それを説明するのは当たり前だろうと云う話ですが、実はそうではありません。最も理想的なのは、物語の中で自然とそれが「説明されている」ことなのです。
 たとえば、もっとも単純な例として、AさんがBさんのことを好きだと思っている、という物語を考えてみます。
 このとき、AさんがBさんのことを毎晩思うシーンがあったり、あるいはBさんのために必死にプレゼントを買ったりする「物語」を作れば、その中でAさんのBさんに対する思いは読者に伝わります。
 これをこの作品では、地の分で「AさんはBさんのことが好きなのである」といきなり説明してしまうという手法で読者にそれを伝えてしまっているわけです。
 もちろん全部がそうではありません。ちゃんと物語の中でそういう論理展開がなされているところもあります。ただ、如何せんその説明を要するタームが多すぎるのか、どうしても教科書的な説明に行ってしまう展開が目立ってしまいます。
 そんなのたいした問題じゃないじゃない、と云ってしまえばそれまでなのですが、実はそうではなく、これが文章のテンポを阻害してしまうのです。
 それはそうでしょう、読んでいた物語のテンポは非常によいのにもかかわらず、いきなり頭で意図的に考えなければならない文章がだーっと続いてしまうと、これは結構ストレスになります。先の文章で、「さほど」という言葉を使ったのはこのためです。
 もちろん、すべての事象が物語の中で説明できるはずはないので、ある程度教科書的になってしまうのは仕方がないことではありますが、ほかがよくできているだけに惜しいところです。
 キャラクタの書き方も魅力的で、それぞれにみんな個性的です。戦闘の合間の会話のシーンなんかでは普通ににぎやかな会話が楽しめて、それがキャラクタの魅力をきっちり引き出しているあたりは見事の一言です。
 このあたり、シナリオを書く方がそれぞれのキャラクタをきっちり把握した上で、舞台設定同様性格付けもきっちり決められてから作られているのを感じさせてくれます。
 アダルトシーンは基本的には後半にまとまっており、あまり濃さはありません。ヒロインキャラクタ一人あたり二回から三回くらいそれぞれ用意されている感じですが、このあたりに期待するとちょっとがっかりするかも。
 とにもかくにもこれ、シナリオ的な意外性、世界観のギミックなど、見所の多い作品であることは間違いありません。

<CG>
 巧いです。どのキャラも嫌味のない、可愛らしさのある非常に魅力的な感じ。一枚絵ももちろん綺麗なのですが、それぞれにある立ち絵やポーズがまた表情豊かで見ていて飽きませんし、キャラクタの魅力をさらに演出します。このへん、かなり拘って作られている感じがします。原画家さんも複数人でやっておられるようですが、そのあたりの違和感もあまり感じることはありませんでしょう。
 あと特筆すべきは背景でしょうか。「赤い夜」での戦いの後はちゃんと破壊された町が用意されていたり、なかなかきめの細かい背景が用意されていて悪くありません。

<システム>
 普通のアドベンチャーゲームスタイルですが、途中途中のモノローグや説明部分でビジュアルノベルスタイルに切り替わるタイプのものです。このシステム自体はさして特徴があるわけではありません。
 もちろん一通りのインターフェイスは備えています。スキップもCTRLの強制スキップとスキップボタンでの既読スキップが使い分けられていますし速度も高速。選択肢の数に比べてセーブポイントも多く、一通りのことはストレスなくできます。
 細かい誤字・脱字などは結構あったりもするのですが(バージョン1.0です)、ゲーム進行の妨げになるような酷いバグなどもなく、プレイ自体は快適にできるのではないかと思います。
 そんな中でこの作品、システム面での特徴は大きく二つ。
 一つは豊かなキャラクター演出です。立ち絵を使った画面効果が豊富で、普通のシーンでもまるでアニメを見ているかのように「動いている」感じがします。
 それによってキャラクターがより魅力的になり、なおかつ戦闘シーンの迫力がより増しているのは、システム面での細かい調整が効果的に機能しているということに他ならないでしょう。
 そしてもう一つの特徴が「クロスビジョンシステム」と呼ばれるシステムです。これ、どういうものかと云うと、要するに「主人公キャラクターがこうしていた一方その頃」を、別の視点で見られるというものです(まあ、主人公が生まれる前のビジョンも出てくるので、この表現は完全に正しくはないのですが)。
 要するに、「一方その頃」をプレイヤが任意の時に見られるシステム、というのが最も簡単な説明です。
 これ、試みとしては非常に面白いのですが、なかなか巧く機能しているかというと難しいところです。
 なぜって、「任意のタイミングで別視点が見られる」ということは、つまり「別視点を見るタイミングが、物語的にベストな時でないときもある」ということだからです。
 演出上、ここでこの視点でのクロスビジョンが入ればいいなあ、というタイミングで見られればいいのですが、タイミングによっては「何で今更」になったり、「知らないぞそんなこと」になったりしてしまうので、この難しさはどうにもならないところではあるかもしれません。
 ただ、これがまったく働いていないかというとそうではなく、いわゆる「神の視点」を「ポイントごとに区切って」見せることができる演出方法になりうるわけでして、「そうだったのか!」という驚きになることも少なくはありません。これはクロスビジョンシステムならではの感覚だと思います。
 なんと云いますか、一長一短なシステムではあると思いますが、次回作では煮詰めてより楽しいものにしていただければ、進化させ甲斐のあるシステムなのではないでしょうか。

<音楽>
 劇中曲もいいのですが、歌モノ三曲のインパクトが結構強いです。挿入歌に関しては入ってくるタイミングが巧いのもありますが、テーマがテーマだけにちょっと重厚な感じのする曲調のもので、聴いていてなんだか不思議な気分になってくる曲です。
 声もいい感じ。ストーリーは重いですが、基本的にキャラクタそのものは明るい人が多いので、そういうテンションのコントロールを求められるわけですが、そのへんをちゃんとクリアしている感じがします。特に美鈴と雪子はそれが顕著で、演技力が光ります。
 さらに、音楽とはちょっと外れますが、この作品、オープニングのムービーの出来がものすごくいいです。キャラを並べるだけでなく、ちゃんとストーリーの紹介になっているあたりが光っている印象ですね。

<総合>
 とかく全体的に、シナリオも設定も絵も音楽もシステムも、丁寧に作りこまれているなあというそういう作品ですね。
 出来る限り作れるところは作っておいたその上で、重ねるように物語を置いていっているような感じ。とにかく細かいところまでいろいろと決めた上でキャラクタが動いているので、その行動原理にブレがないのはいいところだと思います。
 「闇精霊」「陰陽師」「教皇庁」なんていう、なんというかそういう設定好きな人は好きだよねえ、そういうのあるよねえ、と切り捨てるのは簡単なことなんですが、こういう設定もここまで煮詰めるとちゃんとした物語として完成度の高いものになる、という例なのではないでしょうか。
 逆に、そこまで大きな設定を作ってしまったら、ここまでちゃんとまとめないと物語としては未完成なものになってしまうということの証明なのかもしれませんが。
 そういう意味でも、基本的にはこれ、何かに似ているようで何にも似ていないという、そんな物語です。
 決して派手ではないにせよ迫力のある戦闘シーン、台詞回しの「かっこよさ」、キャラクタグラフィックの可愛らしさ、細かい設定の魅力……挙げていけばきりがありませんが、総合的に見てとかくレベルの高いところでまとまった作品でした。
 教科書的な用語説明による退屈さで投げてしまう人もいるのかなあという不安はありますが、そこはなんとか「がんばってください」という感じでしょうか。

2008/05/10

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