MOON.

 今年やった作品(18K・非18K通して)の中で、もし傑作だと思ったものを三つ挙げてくれと言われたら、間違いなくこれはその中の一つに入る作品だと思う。とにかくいい作品なんだな、これが。
 ストーリーとしては、主人公の少女が、殺された母親の謎を解くため(復讐のため)に、生前母親がいた「FARGO」という教団に忍び込み、そこで会った仲間とともに、それぞれの過去と戦い、やがて真相を知る、といったようなAVGで、まったくもっておおっ、斬新だなぁ、というほどのものではない。概要はね。
 だけど内容は違う。ストーリーのディテイルはものすごく深い。ゲーム自体のコンセプトにもあるが、まさに「心に届く」んだな。
 個人的な考え方で恐縮だが、僕は、ゲームが終わった後に、一つでも残っている(つまり自然と、なぜか思い出してしまう)イベントがあるゲームというのが「いいゲーム」の第一条件であると思ってる。それってつまり、ストーリーの断片であれ、はっきりとした一つのシーンが、つながっているストーリーの中でくっきりと浮かび上がってくるほど、しっかりした筋を持っているということだからね。個人的に面白いと思った作品・・・「痕」とか「雫」とか、「晴れのちときどき胸騒ぎ」とか、このへんの作品群たちは、やっぱりこの「残るシーン」をしっかり持っている。そして不思議なことにというか、ある意味では当然なのかもしれないが、こういったシーンは、みな一様に共通なのだ。
 この「MOON.」に於いても、しっかり「残るシーン」を持っている。しかし、それだけでは、ただ「面白いゲーム」にだけにしかなり得ない(もちろん、それになるのもかなり難しいことではあるのだけれど)。しかしこれが本当にすごいのは、「残るシーン」が一つや二つではないのである。そこで起こるイベント一つ一つ、下手をするとそのすべてが「残る」のだ。これだからこそ、この「MOON.」は、「傑作」から「名作」になり得るのである。
 とにかくキャラクタの書き込みがしっかりしているせいであろうか、一人一人が持っているストーリーはとてつもなく深い。見えない部分がしっかり書き込まれているのである。それによってすべてのキャラクタは深みをもち、人間味をもち、最終的な結果として、ストーリーが「虚構」から「真実」へとより近くなっている。だからこそ、本当にストーリーでいやな気持ちになったり、キャラクタが助かればさっぱりしたりできる。本気で「思える」ことが大切なのである。だからこそ面白い。僕はそんな風に推測している。
 ・・・などという難しい話は実は別にどうだっていい。(笑)
 要するに早い話が、ストーリーがうわべをなぞってハイ終わり、といったようなゲームではなく、一人一人が感じた「真実」を、あたかも自分の「真実」のように感じ取ることができる作品なのである。逆に言えば、それができない人にとっては、あんまり思い入れることができる作品ではないのかもしれない。最近の18K作品に多いけど、いかにも!というようなえっちシーン(なにそれ(笑))はそんなに多くないわけだからね。
 とにもかくにも、「すばらしい」作品である。買ってはずすゲームではないことは確かだ。まだやってないよ〜、というかたには、ぜひお勧めする。

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