○ホンダ・スーパーカブ90



 バイク趣味はカブにはじまりカブに終わる、という言葉があります。  実際にメジャーな言葉かどうかは知りませんが、まあ、なんとなくわからないではないかな、というか。

 実はスーパーカブは、いまの90ccを含めて三台乗り継いでいます。
 最初は50ccのプレスカブで、ネットオークションで買ったもの。
 いま考えれば相場より高かったかもなあと思うんですが、まあ、そういうのを繰り返して人は大きくなっていくのですな。



 これは、なんとなくスーパーカブに乗りたい!とふと思って、なんでもいいからってんで買ったものでした。
 もちろんスクータのようにシート下に荷物を放りこんだりはできないわけなんですが、プレスカブでしたからフロントのカゴはとにかくでかかったですし、それで困ることもなく。
 ラフに扱っても壊れないエンジンも含めて、なるほど足としてはすごく便利だなあと思ったものです。
 まあ、別にこれでカブにハマったとかいうのは特になかったんですが。

 その後、東京のはじっこから逆の東京のはじっこ、23区側で一人暮らしをはじめまして、こうなると50ccのプレスカブではいろいろ不便なんですよ。
 環七を30キロで走るとか二段階右折とか、とにかく制約が多い。
 それがイヤで、最初は二種スクータでも買うかと思ってたんですが、次に選んだのもなぜかカブ。
 これもまたネットオークションで買ったもので、70のスーパーデラックスというマニアック(?)なグレードでした。



 これはいまはもうないグレードで、カタチはカスタムなんですが、セルがありません。
 このカタチ、さらに70ccという半端な排気量、おまけに6Vの電装と不人気要素が重なり、安く買えたんですね。
 見ての通り、社外品のダブルシートが付いています。このダブルシートのおかげですごくアジアンテーストが増幅してる感じで、デザイン自体は好きです。あと、この色はすごくいいと思うんですよ。これもすごくアジアンテーストですけどね。

 これは普通に足代わりに乗ってたんですが、乗ってるうちに電装が完全にイカれてしまいまして。
 バッテリが消耗したまま乗ってたからか、ウインカーがつかなくなったり、わりと致命的な壊れ方をしてきたので、さすがにここまで古いの直すんなら買い替えるかと思ったんですね。
 で、そこで選んだのはやはりカブでした。欲しかったのは90ccのDX。一番人気のモデルですね。

 ところが、このときおりしもスーパーカブがモデルチェンジをするタイミングで、90tは生産中止になってしまっていて在庫僅少でした。
 たまたま近くのホンダに、新車のカスタムとDXが一台ずつあって、その場で契約。
 実は新車ってのを買ったのはこれが生まれて初めてだったんですが、新車でも中古でもあんまり変わらないくらいプレミアが付き始めてたんですよ。
 それをいまだに乗ってるのがこの90です。改造点なし。後から前カゴとリアキャリアを増設したくらいですね。



なぜスーパーカブ?

 実のところ、よくわかりません。
 おそらくスーパーカブのイメージって、働くバイクならではというか、荷物がとにかく積めるとか燃費がいいとかそんなんだと思います。
 で、実際乗ってみるとわかるんですが、ツルシの状態だと荷物はそんなに積めません。
 いや、積めるんですが、スクータのように買ったものをシート下に放りこむとかってのはできないんですね。前にカゴをつけるか、リアキャリアに箱をつけるか、それが嫌ならリアキャリアにヒモでくくるかするしかないんですよ(逆にそういう気合の入れたパッケージングをするのであれば、ツーリングなんかの荷物はかなりがっつり積めます。でかいリヤキャリアはだてじゃない)。
 足代わりなんで別にスクータでもいいんですが、スクータよりももうちょっとバイク寄りというか、操っている感じがあるんですよね。便利さでいえばスクータのほうが圧倒的にいいんだと思うんですけど。
 スーパーカブは頑丈なことでも知られますが、多少行きすぎていたり、「頑丈である」方向性が違ってるきらいもあって、オイルがサラダ油でも走るとかってのはさすがに嘘だろうってのもありますし、Youtubeとかに上がってるカブをビルから落っことしたりみたいなのは頑丈性の方向が違ってる気がします。
 別にヤマハのメイトだろうがスズキバーディだろうが、はたまたゴールドウイングだろうがハヤブサだろうが、サラダ油入れたってしばらくは走ると思うんですよね。ただ、ずっとサラダ油を入れ続けて、普通に乗って廃車にするようなペースまで走るかってと、カブでも壊れると思うんですよ。
 まあ、もちろん排気量が大きいエンジンとか高回転エンジンなんかだと、カブよりサラダ油のままで走れる距離は短いと思いますが、それはカブが頑丈とかってこととはまた別問題です。
 つまり、カブがサラダ油でも大丈夫ってのを検証するなら、ずっとサラダ油を入れ続けて普通に乗り続けていけるかどうかってのを検証しないといかんと思うわけですけど、そんな気の長いこと普通はやっとれんわけですね。
 このバイクの頑丈性はもっと根本的な、たとえば暖機もせずに近距離を乗ってすぐエンジンを切るような乗り方をしても調子を崩さないとか、なんかそういうことだと思うんですよね。
 そしてそれは、おそらく「道具としての」バイクに求められるもっとも大きな事象だと思います。
 朝の一分でも時間が惜しい通勤通学時とか、あるいは仕事で配達なんかに出かけるとき、いちいち暖機していたわりながら走るなんてことやってたら、足としては失格なわけですから。
 わかりやすい、オイルがどうしたとかってことよりも、なんかカブが持つ頑丈性って、そういうところで発揮されている気がします。

燃費

 スーパーカブといえば燃費。
 カタログ値でリッター100キロってのは、プリウスとかがカタログでリッター30キロだなんて云ってることを考えると恐ろしい数字です。エコだなんだって人がみんなカブに乗りかえたら、ハイブリッド車なんぞいらないんではないかってレベルですね。
 ガソリン1リットル、つまりコンビニで売ってる500mmのペットボトル2本分のガソリンで、東京から御殿場あたりまで行ってしまうわけですよ。
 もちろんカタログ値がそのまま出ることはありませんから半分だとしてもリッター50キロ。
 90ccはもう少し燃費が悪くなるので(とはいえ、エンジンを回さなくていいぶん50よりよくなるケースもあります)、リッターあたりコンスタントに30キロくらいでしょうか。
 わたしは毎日乗ってるとかってことはないんで、これだけ走ってくれるともうよく云われる「給油したことを忘れる」レベルです。
 経済性云々もそうなんですが、燃費がいいということは一回の給油で遠くまで行けるってことでもあるんで、このあたりがビジネスユースでも個人ユースでも便利というか遊び甲斐があるところなんではないかと。
 ただし、ガソリンタンクの容量はそれほど大きくはないので(といっても原付バイクとしては標準的なサイズです)、ロングツーリングの際には給油ポイントは気にしておいたほうがいいかもしれません。

走行性能

 90cc、5馬力ですから、ヨーイドンで走らせたらまったくたいしたことはありません。最高速度は85キロくらいですが、それだけ出すとエンジンが爆発するんじゃないかというくらいの唸りをあげます。
 とはいえ、軽量であることは結構な武器。
 特に荒れた道では、実はこのスーパーカブというのはかなりの走破力があります。



 もちろん、足回りはビジネスバイクそのものですし、車高が低いのでオフロードバイクにはかないませんが、普通の林道くらいの荒れ方であれば、オフロード車にひけをとらない走破力は持ち合わせています。
 まず、町中ではギア比が低すぎて使い物にならない1速と2速が、荒れた道のようなゆっくりとトルクをかけながら走る走り方と、荒れた道の障害物を乗り越えたりする際には強い味方になります。
 クラッチがないロータリ式ミッションなのでエンストの心配もありません。
 そして、たとえば車幅一台分くらいの余裕しかない倒木の横を抜けたり、クレバスを乗り越えたりするときには、転びそうになっても垂直にバイクを立てて足がべったりつく足つきのよさと、これまたエンストの不安がないロータリ式ミッション、86キログラムという軽量な重量がいい仕事をしてくれます。
 なんの関係があるの?ってなもんでしょうが、これによって恐怖感が一気に減るんですね。
 こけそうになるとき、両足を使って押さえがきくかどうかというのはすごく大きいですし、万が一バランスを崩しても、両足で押さえられるというのは心理的に安心するんですよ。
 あとは、どうしても降りて押さなくてはいけないとか、持ち上げながらアクセルをあけて無理矢理障害物を乗り越えるようなときも、軽量な車体とクラッチのいらないミッションは有利です。
 つまるところ、街中ではけっこうネガになりやすい要素も、ガレた道では有利になるんですね。意外なことに。
 林道アタックでカブを使っている人というのは少なくないみたいですが、なるほどこれは納得というか、林道向きに作ってある感じはします。

さいごに

 スペックがとりたてていいわけではない、配達用ビジネスバイクのイメージが強くおしゃれイメージともほど遠かったスーパーカブが若者の間で流行したのはそんなに昔のハナシではありうません。ホンダもそれに追従して小柄な女性にも乗り降りしやすいリトルカブを出したりして、原付〜原付二種を選ぶ際の車種選択の中にカブが入ってくるのは今では珍しくないと思います。
 それまで野暮ったいイメージしかなかったスーパーカブが、その野暮ったさとそれに伴う質実剛健な感じが逆におしゃれになってきた感じでしょうか。
 上にも書いたとおり、スーパーカブ90はわたしが買ったタイミングでのモデルチェンジで消滅し、いまは50ccと110ccになっています。
 このモデルチェンジで生産国が中国に変わり、エンジンはキャブからインジェクションになって、外装も鉄やメッキをふんだんに使ったものではなく、プラスチック外装になりました。
 ネット等での情報しかないのでホントかどうかは眉唾ですが、やはり昔のカブに比べるとつまらない故障が出てくるというハナシもちらほら見かけます。
 それでも、他のバイクに比べたら圧倒的に頑丈なんでしょうけどね。
 いまの業界においてコストダウンは命題なんでしょうけど、それによって信頼性を落としてしまうのはちょっと本末転倒な気がするなあ(とはいえ、90と110を比べると110のほうが2万円ほど高いので、もしかしたら昔のカブの作り方で110を作るともっと高くなってしまうのかもしれません)。
 それに伴って程度のいいカブ90は、中古車では当時の新車を超える値段で取引されたりしてるみたいですね。わたしの90もまだ1500キロ程度しか走ってないんで、もしかしたらそれなりに高く売れるのかも。

 スーパーカブってバイクは、日本だけでなく全世界、それも中央アジアあたりの国では「ホンダ」といえばスーパーカブのことをさし、同時にバイクのことをさすというとんでもない乗り物です。「そのヤマハのホンダください」とか、そういう云い方になったりすると。
 頑丈でシンプルなエンジン、大量の荷物や人を乗せてもゆるぎなく走るフレーム、燃費はもちろんオイルやチェーンなど安い維持コストなど、走る道具としての優秀さは語りつくせないわけですね。
 それでいて、走らせるとそこそこ速いんです。もちろん馬力はたいしたことないですし、ギアは3速ですから、スポーツバイクについていけるかっていうとそんなことはないでしょう。サスペンションはただ硬いだけだし、アンダーボーンフレームだからニーグリップできないですしね。
 ただ、街中走らせるぶんには、ものすごく俊敏です。加速力もあるしボディも小柄で軽いだし、なぜかこれがけっこう速い。
 ついでに上にも書いたとおり、オフロードでも結構走ってしまうんですよ。ツルシのままで林道はもちろん簡単なガレ道も入っていけてしまいます。車体が軽いので押し歩きも簡単です。
 ロングツーリングに行っても、この燃費性能と積載力はものすごく大きくて、やっぱり使い勝手がいいし、どこでも走れてしまう。
 そして、素人でもバラせるうえに昔から基本構造が変わらないエンジンは簡単にいじれて、パーツも数多く出ていていくらでも遊べる。
 道具としても、そしてどんな趣味でも便利で楽しめる、つまりどんな使い方にも対応できるのがこのスーパーカブというバイクなんですね。
 だからこそ「カブにはじまりカブに終わる」んでしょう。

 よく、スポーツカーとか高級クーペみたいなおしゃれなクルマのカタログ写真は、都会の夜景とかヨーロッパあたりの海辺とか、そういうおしゃれなスポットで撮影されています。
 それは「このクルマには、この景色が似合うから」という理由にほかなりません。これが、たとえばフェラーリ360モデナの写真で田舎の収穫中の田んぼとトラクタがバックにあったら、やっぱりちょっとそれはどうかということになりましょう。
 そういう意味で、このスーパーカブは「どこにいても違和感がない」バイクなんだと思います。
 北海道の雪が舞う漁村も沖縄の夏の海も、都会のビル群も、そして雑多な住宅街でも田舎の田んぼとトラクタの前でも、日本国内どこでも……へたすれば世界のどこにいても違和感がない。というか、どの風景にもあっておかしくないモノなんですよね。
 ってことは、ツーリングにいって、街に景色として溶け込めるんですよ。
 もちろんそうじゃないほうがいいこともあって、非日常感を味わうなら、ハーレーで軽トラの停まってる漁港に行くのも楽しいと思います。でもやっぱり、軽トラと並びで写真を撮ったときに、そこだけ浮く感じになるわけで、それが非日常でもあり、ひとつの味です。それはCB750もシルバーウイングも、みんなそうでしょう。あれはやっぱり「非日常」です。
 それとは真逆の、どこにいても溶け込めるバイクってのがあるとしたら、このスーパーカブ以上のものはないと思います。
 それはそれで、きっと素晴らしいことだと思うのですよ。
 今日もまた世界中のあちこちで自分と同じバイクが、ごく当たり前のように、誰にも気にもされることなく走っているのって、すごく楽しいじゃないですか。

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