430セドリック 購入まで
たぶんクルマが好きな人なら、誰しも「生まれてはじめて好きになったクルマ」があると思うんですよ。
それはスーパーカー世代の方ならカウンタックやフェラーリかもしれないし、家にあったなんてことないカローラかもしれないし、近くの金持ちの家にあった高級国産スポーツカーとかかもしれない。
まあ、人によっていろいろでしょうけど、いずれにしても、その「最初に好きになったクルマ」が後々の嗜好に影響を与えるのは間違いないでしょう。
そして、えてしてそういう「はじめて好きになったクルマ」への思い入れというのは強いもので、いつかそのクルマを手に入れたいと思ってる人というのもまた多いのではないでしょうか。
でも、たとえばカウンタックとかのスーパーカーなら今でも買うのは難しいですし、年をとればとるほどその時代のクルマは当時は大衆車でも今では希少車になってるはずですから、やはり難しい。ケンメリスカイラインが好きだったんだよなーなんて思っててもむっちゃくちゃ値上がりしてるし、マイナーな車だったりすると捜すのすら難しいわけで。
だからこそ、昔のクルマやバイクのデザインをリメイクして現代のクルマとしてアップデートした、ミニやビートルみたいな車種がよく売れるんでしょう。
というところで、わたしがはじめて好きになった車種というのは、カウンタックみたいなスーパーカーでもなければフェアレディZやスカイラインみたいなスポーツカーでもありませんでした。
結論からいくと、日産のセドリック/グロリアだったんですね。型式でいうと430型というやつです。たしか5歳とか6歳とかの頃だと思いますが。
このあたりのクルマが好きだと云うと、だいたいが当時の人気ドラマ『西部警察』で破壊されるパトカー役として出ていたからなんでは、みたいな人は多く、実際にわたしも『西部警察』は大好きだったんですが、わたしがこのセドリック/グロリアを好きになったきっかけはこのドラマではなかったと思います。
430セドリック/グロリアには、当時の高級車ムーブメントとしてクラウンもそうであったように、いわゆる法人やそれこそ覆面パトカーに使われていたセダンと、スタイリッシュでパーソナルユース向けのハードトップという2モデルがありました(正確にはそれにワゴン・バンもありましたが)。
上記『西部警察』で派手に壊されていたのは、当然覆面パトカーの設定ですからセダンだったわけですけど、わたしが好きだったのは後者の「ハードトップ」だったんです。
そうすると逆に、幼少のころのわたしがなんでこのクルマを好きになったのかよくわからないんですけど。家の近くにあったのかなあ。
昔話はおいとくとしても、430のハードトップってカッコイイんですよ。特にリアのデザインが秀逸で、尻下がりのトランクと角ばった上品なテールレンズまわりがすごく好きなんです。4ドアだけどBピラーがないので、ドアを全開にするとものすごい解放感がありそうな雰囲気もパーソナル高級車な感じがしましたし、当時の「高級車」感のカタマリみたいな車種だったんですね。高級大型セダンでありながらスポーツカーみたいなフォルムもとてもカッコよかったですし。
今までわたしは結構速いペースでクルマを乗り換えてきていて、車検ごとに乗り換えるとか、長くても3年とかそんなもんで、新車で買ったDテントむしはさすがに長く乗ってますし飽きもこないので長いですが、それまではけっこう車検が近くなると次何乗ろうかなと思ってたんですよ。
いや、別に買うときは長く乗ろうと思うんですよ。思うんですけど、乗ってるうちにああいうタイプがいいなあとかこれがいいなあとか思い始めて買い換えちゃうという、そういう感じだったわけです。
でも、なんとなくですけど、この430セドリックを買う時がもしあれば、それはきっとクルマを趣味で買い換えるのは打ち止めのときだろうなあと思っていたんですね。
だって、それ以上に欲しいクルマがなくなっちゃうわけですから。
もちろん430以外にも欲しいクルマはいっぱいあります。130クラウンとか、GX51クレスタとか。このへんがまたやっぱり430セドリックが原点だなあって感じがありますけどね。スポーツカーではないという。ただ430よりも欲しいクルマは存在してないんです。旧車が好きなんじゃなくて、430が好きなんですよ。
探す条件は、430のハードトップでフルノーマル車、純正マニュアル車、というもの。
それさえかなえば色とか前期後期なんてなんでもよかったし、セドリックでもグロリアでもどっちでもよかったし、もっと云えばグレードもターボでもNAでもよかったんですよね。どうせ飛ばして走る気なんかないし、むしろターボじゃないほうが壊れる条件少なくてよかったんでは、という気さえしないではないです。
んが、しかし、これが難しい。
まず「フルノーマル」ってのが難しい。
わたしはクルマやバイクはノーマル派でして、基本的にあまり目に見えるところを変えたくないんです。
430自体は、スカイラインとかフェアレディZみたいに走り屋に愛されるようなクルマではないので、エンジンとかをいじられたりするようなタイプのものではありません。が、残念ながら夜中に爆音をたてて走り回るような一部の好ましからざる人たちにはこよなく愛されていた車種でもあり、今売られているものも派手なエアロパーツがついてたり色が変わってたり、ホイールや内装まで純正を残しているのはなかなかないわけです。
ただ、ここを妥協してしまうと、内装や外装の純正部品というのは探そうと思うとなかなか出てこないので、改造車を買って純正に戻そうというのはなかなか云うほど容易ではありません。
ので、内外装がストックのまま、というのは絶対的な条件でした。
さらに、当時から高級車として売られていた車種なので、オートマチック車がほとんど。乗せ換えではない純正のマニュアル車、という条件を付けた時点で難易度はハネ上がります。
なんでこんなクルマでマニュアル車なんだっていうと、マニュアル車が好きだから、ということ以外理由はないんですが。
載せ換えちゃえばいいんですが、それはそれでなんか違うんですよ。この当時、セドリックみたいなクルマにも純正でマニュアル車があった、ということがなんというかステキなんです。
載せ替えがOKなら今時のクラウンにだってマニュアル化できちゃいますからね。
もうひとつ、探すうえでの何気ない難点は、430は発売当時は圧倒的にハードトップが人気だったものの、ハードトップは上に書いたように当時から好ましからざる人によってサスペンションを切られたり挙句屋根を切られたりと無茶な改造をされて廃車になってしまった個体も多く、それに比べて営業車やショーファーで乗られていたセダンのほうはそういう改造をされた個体が少なかったうえに今でも『西部警察』などの影響もあってそこそこ人気があり、セダンよりもハードトップのほうが不人気車になってしまって圧倒的に数も少なくなってしまっているんですね。
それでもちょっとでも芽があればあちこち見に行き、あまりのボロさに絶望したりしつつ、しばらくの間探し続けてようやく条件にぴったりの車種を佐賀県の中古車屋で発見しました。
色は黒、5速マニュアル・ターボのSGLエクストラ、内外装フル純正。写真で見る限りはボディもそんなに悪くなさそうで、コーナーポールがついてるあたり年配の方が乗ってたのかなと想像できました。
見つけてすぐに会社を休み、飛行機で佐賀へ行って見てきましたが、やはりそれっぽい感じ。
しばらくの間乗られないまま納屋に放り込まれていたらしく、ボディや内装には紫外線によるヤレや割れはありませんし、内装の剥がれなどもなし。
ほぼその場で決めてきてしまいました……が、これが苦しくも楽しい旧車生活のはじまりでした。
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