-BMW 330i Mスポーツ(E46)-

昔話

 購入した330iの話をする前に、ちょっと昔話を。
 はじめてBMWという車を意識したのは、中学生の頃でした。
 中学生の頃に親がBMWを乗り回していたとかそういうわけではなく、通っていた学習塾の英語の先生が、E30型の320iに乗っていたのです。
 折りしも時代はバブルの頃、W201メルセデスベンツ190Eが「小ベンツ」、E30型BMW3シリーズが「六本木カローラ」なんて言われていた時代。小さな学習塾の先生がどれくらい儲かる職業なのかは知りませんが、特別に金持ちには思えないような普通の生活しているように見えた先生が乗っていたことを考えると、やはりバブルと云うのはよくも悪くも凄い時代だったんだなあという気がします。
 当然の話ですが、当時、E30型はモデル末期とはいえ新車で売っている現行モデルでしたから、新車で買ったか中古車で買ったにしてもかなり高い金を出して買ったかどちらかでしょう。
 ただ、そんなことは知らない、中途半端に車好きだった我々は、「あの先生BMWで一番安いやつに乗ってる」なんてはやしたてていたものでした。
 320iは当時の価格でも新車で400万円以上するモデルですし(なんせ同じ時期に出ていたR32スカイラインGT-Rが430万円ですからね)、そもそも当時の320iはBMWで「一番安いやつ」ではなかったのですから、子どもとは云え無知とは恐ろしいなあ、というのを感じずにはいられません。
 当時、クルマ好きではあったものの、国産車贔屓外車嫌いだったわたしには、この「BMW」という車はさほど印象に残るものでもなく、ある程度の年齢になってクルマというものにより一層興味を抱いても、メルセデスベンツが頭をかすめることはありましたが、BMWというメーカーのクルマについて想いをめぐらせることはありませんでした。
 こんなことを云ってしまうと反感を買ってしまう、というのを承知の上で、あくまでもメルセデスの2番目、という印象だったからだと思います。

ドイツ車にハマる

 そんなわたしがBMWを意識するきっかけになったのは、皮肉にもはじめて買ったドイツ車・メルセデスベンツでした。
 当時乗っていたタウンエースに、主に走行面で不満を感じて、1999年式のW210型メルセデスベンツ・E240ステーションワゴンに乗り換えるまでのいきさつは「メルセデスベンツ」の項目を参照いただくとして、このクルマをきっかけに、ガイシャというものの力を見せ付けられた感じでした。
 このEクラスワゴンに乗るまで、ガイシャなんてものはちょっと金の余った金持ちが「ほかと違う高い車が欲しい」みたいな感覚で買うものだ、程度の認識でした。
 だいたい、同じクラスでも値段がぜんぜん違うのはおかしい、ラージクラスでも1.5倍、コンパクトクラスなら下手すれば2倍近いプライスタグがつけられているものもあるじゃないか、走って止まるだけのものが何が違うんだ、なんて思っていたのです。
 余談ですが、この中学生時代、わたしはなぜか『月刊自家用車』というバイヤーズガイド雑誌を買っておりまして、中学生が『Option』とか『CAR BOY』とかじゃなくて『月刊自家用車』かよ、というところではあるのですが、この雑誌で、初代のクラウン・マジェスタが発売されたとき、比較インプレッションとして、当時現行モデルだったメルセデスベンツSクラス(W140)とマジェスタを比べると云う、今考えればなんだかよくわからない企画をやっていました。
 結果は当然W140の圧勝だったわけですけども、価格がマジェスタ600万円に対してW140が1500万円。「国産党」のわたしとしては、そんだけ値段が違えばベンツが勝つのなんかあたりまえじゃないか、などと憤っていたものです。
 ま、今になって思えば、そもそも当時のマジェスタなら、車格的にも価格的にもW124あたりと比べるべきなんじゃないかとかいろいろ突っ込みもできるわけなんですけども、それはともかく。
 ところが、外車って中古車なら意外と安く、下手な国産コンパクトカーの上級グレードや、ミニバンなんかを買うくらいの値段で買えて、昔に比べて信頼性が上がった昨今では昔ほど「中古外車」らしい故障も多くないからと、Eクラスの購入に踏み切った……というのが、メルセデス購入記でのお話でした。

 乗り始めてからは驚きの連続でした。
 全体的にしっかりした作り、疲れないシート、シンプルで飾り気はないけど使いやすいインパネ、高速道路での安定性……その他諸々、素人のわたしにもこんなにわかりやすく違うものなのかと驚いたものです。
 W210型は、同じEクラスとして発売されていたW124型と比べて「全体的にコストダウンした造り」などと貶されがちなモデルです。
 雑誌などでもそういう論調は多いですし、事実そうなのかもしれません。が、それでも、まさにクルマのベンチマークたる造りのよさは、W210のステーションワゴン、しかも正規輸入されているモデルでは最下級グレードとなるE240でもはっきりわかりました。

 このEクラスワゴンに二年ちょっと乗ってきて、車検も通してタイヤもバッテリーもエアマスセンサーも新品にしてまだまだ乗るつもりでいたのですが、ここでふとした欲望が頭をもたげてきます。

 もともと、このEクラスを買った理由は、「メルセデスを上がりのクルマにしないこと」でした。
 メルセデスというクルマは、なんとなく、クルマ人生での「上がり」のクルマのイメージがあります。国産党の人は「いつかはクラウン」で上がりはクラウンなんでしょうけれど、ガイシャまで視野に入れている人にとって、「老後はベンツのSクラスかなにかを転がして」なんていう、そんな感じです(勝手な思い込みかもしれませんが)。
 そこで、クルマ人生の中間点に、「最高のクルマ」と評されるメルセデスを置いたら、なにかクルマに対しての視点が変わるんじゃないか、という思いがありました。
 なので、ある意味ここで欲望が出てくるのは、当然といえば当然の話だったのかもしれません。

 なんども書いていますが、E240ワゴンは本当にいい車です。
 パワー不足というほどでもないほどほどのパワー、高速道路ならリッター12キロに届く燃費など、移動の道具としてはまさに最高峰でしょう。デザインもシンプルで飽きがくるものでもなく、内装外装ともに既に旧型なのにも関わらず、特別に古臭い感じもしません。
 中が広いこと以外のほぼすべてが犠牲になっていたタウンエースのときと違い、移動するにあたってドライバーや同乗者にストレスを与えないという意味合いでもこれは大きいです。ステーションワゴンなので荷物もたくさん積めますし、いざとなればサードシートで7人が乗れるというのも便利です。
 ただ、その反面、刺激が少ないクルマでもあります。というか、意図的にあまり刺激を与えないようにしている造りなのかもしれません。
 間が悪いことに、10万キロを超えてしばらくしたところで、ATの調子も少し悪くなってきた感じでした。明らかに変速ショックがあり、ちょっと危なげな印象を受けます。
 もし故障したら、オーバーホールで最低30万円。30万円を払ってこのまま一生モノの覚悟で潰れるまで乗り続けるか、あるいは刺激を求めてまた別のクルマに手を出すかという選択肢です。
 ここで出てきた欲望は後者、つまり「乗り換えてみようかなあ」ということでした。

買い替え?

 ただ、車検もたっぷり残ってますから、そんなに焦る必要はまったくありません。ゆっくりと探していって、いいのがあったらそれにしようかな、くらいでした。それまでにATが壊れたら仕方がない、別にEクラスが気に入らないわけではないので、直してまた何年か乗るか、と。
 一時期はいろいろ浮気的に探して、それこそビートの頃から憧れていた4人乗りのオープンカーがいいなあとかいろいろ考えており、W210Eクラスと同じ顔のCLK320カブリオレを買おうかなあとかいろいろでした(いわゆるメルセデスの「クーペグリル」が嫌いなもので)。
 ですが、そういう非日常性が強すぎる車は飽きるのが早そうなのと、ビートの頃に散々苦労した雨漏りが心配なのと、後席シートベルトの義務化によって4人オープン時の後席の快適性が著しく損なわれるだろうなあという想像から消えるに至りました(もちろん安全性を考えれば後席シートベルトは必須でしょうが、足元が狭い4シーターオープンに3人で乗る場合、後席の一人が足を横に投げ出して座れば快適に移動できると思っていたのです)。
 とりあえず頭を絞り、探すにあたって条件は以下のものに絞りました。もちろん新車なんか買えませんので中古車です。

(1)ドイツ車(ディーラー車)
(2)3ペダルのマニュアルミッション車
(3)E240よりもパワーのある車(つまり170馬力以上の車)
(4)助手席エアバッグが着いている車
(5)ボディはセダン・クーペ
(6)ディーラー以外でも、民間の専門工場で修理できる車種
(7)色は今乗っているのがシルバーなので、シルバー以外
(8)サンルーフ付き
(9)駆動形式はFRか4WD

 上から順番に優先順位が高いものです。
 (1)はまあいいでしょう。メルセデスですっかりトリコになってしまい、もうクルマを選ぶ上で外せない条件になってしまいました。人間変われば変わるものです。ちょっと前まで、ガイシャなんか眼中になかったというのに。
 フランス車やイタリア車、イギリス車なんてのもいいのかも知れませんが、やはり信頼性と趣味を天秤にかけたところで一番つりあいが取れるのは、国産車を別にすればドイツ車が浮上してきます。
 なら国産でもいいじゃないということになりますが、長距離移動に使うことが多いことを考えると、ドイツ車特有のしっかりしたシートはもう手放せません。でも並行輸入車両に手を出せるほどの経験も知識もないので、ディーラー車という条件は必須です。
 問題は(2)です。
 メルセデスベンツという車に心から心酔していて、是非ともまた乗り換えはメルセデスで、と思っていたのですが、この(2)を入れると車種選択の中からほぼメルセデスの選択肢が消えてしまいます。
 ビート・タウンエースとマニュアル車を乗りついできて、このEクラスワゴンではじめてオートマチック車を買ったわけですが、やっぱり自分でクラッチを切ってギアチェンジする楽しみは何にも変え難いなあ、というのを実感しました。
 ディーラーでティップシフトのような変速できるオートマチック車も試乗してみましたが、やっぱり何かちょっと違います。どうせ買うならマニュアル車!というのは譲れない条件でした。「壊れる」ことに対してはオートマチックより頑丈でしょうしね。
 ところが、この(2)でほとんどの車種が脱落します。ラグジャリー傾向にあるガイシャの中にあって、スポーツカー以外はマニュアルミッションは圧倒的に少数なのは当然です。本国では普通にあるのになあ、なんて云っててもはじまりません。
 (3)は、今の車よりもパワレスなら買い換える必要もそんなにないかな、というそういう理由からです。E240も必要充分ではありましたが決してパワフルではなかったので、それなりのパワーのある車に乗ってみたい、という希望です。
 (2)と(3)の条件を合わせると、残っているのは、メルセデスベンツだと190E2.3-16のみ、BMWがE36型M3、E39型M5、E46型330iとM3、MINI クーパーS、旧型アウディS4・RS4、TTクーペ、VWゴルフGTI・VR6・R32、ポルシェ911あたりが残ります。
 BMW Z3やポルシェボクスターも入るのですが、これは二人乗りなので今回は除外しました。二人乗りのいざというときの不便さはビートで散々経験してますし、後部座席で横になれないのはちょっと問題です。
 ここで、(4)に行く前に、だいたい250万円くらいまで、無理しても350万円までという予算面でアウディRS4が落ちます。(4)はせっかくのドイツ車ですから、やっぱり安全面での妥協はすべきではないという判断で、190Eと予算的に90年近辺のものしか狙えないポルシェが落ちます。
 (5)は、ステーションワゴンを買ってはみたものの、荷室が仮眠のベッドになるのは便利ではありましたが、思ったより大きな荷物を積む機会がなかったので、次はそんなに荷室優先でなくてもいいかなあ、ということで。ただ、ハッチバック車が個人的に趣味ではないので、必然的にセダンかクーペになります。
 この(5)でゴルフとMINI、BMW 130iが落ち、MT車のタマ数のあまりの少なさでアウディS4が落ちると、この時点で実はもう残るのがアウディTTとBMW勢のみになってしまいます。
 アウディTTはちょっと迷うところだったのですが、デザイン的に「旬」のある車のため、旧型がちょっと古く見えてしまったのが今回見送りの原因でした(あくまでも個人的な感覚です)。新型をディーラーで試乗させてもらったとき、ほんとに楽しかったので迷うところではあったのですが。
 あといくらなんでも後部座席が狭すぎる、というのもちょっときついかもなあ、というのはありましたね。仮眠もできないのでは二人乗りと変わらないよ、ということになりかねません。
 BMWは、ちょうど新車ディーラーの試乗車に乗せてもらったりして、一度「シルキーシックス」というのを所有してみたいと思っていたので、これはある意味なるべくしてなったというか、当然の帰結かもしれません。
 (7)以降は絶対的でない「希望」なので、コンディションと条件とのバランスで決める感じですね。

 で、ここからさらに絞っていきます。
 E36型のM3なら値段もまあまあ現実的なセンで、パワーも運転のフィーリングも申し分なさそうですが、やはり年式と値段のバランスを考えるとちょっと割高感はあります。
 しかも、せっかく車を買い換えるのに、今乗っているのより年式が古くなるのは覚悟が要るなあ、というのもありました。
 もちろんM3は特別なクルマだから、というのはあるでしょうが、それでも15年前のクルマが250万円と云われるとちょっとうっとなるのは仕方がないところでしょう。
 前期型のM3Bならもうちょっと安くなりますが、これは助手席エアバッグがないのでちょっと安全面で気が引けるところですし、せっかくならM3Cを、と考えるのも仕方がありません。
 E39型M5は、「ちょっと無理すれば」の範囲内にある車両があったのですが、フェンダーに某有名BMWチューニングショップのステッカーが貼られており、さらにマフラーなどのパーツが変えられていて「かなり弄られた」形跡が濃いことと、いくらなんでも5000ccの排気量と400馬力は持て余しそうだし維持していく自信もないなあ、でも一度こういうのに乗ってみるのも悪くないなあ、などと思っているうちに売れてしまいました。実はこれはちょっとだけ今でも未練があります。V8ですけどねコレは。
 E46になってくると安全面での装備は手堅くなります。予算内で探せるM3になると、ちょっと過走行気味ではありますが、一応サンルーフがついていたり色もフェニックスイエロー(金色みたいな色です)だったり赤だったり、やや賑やかな色ではあるものの「シルバーではない」という条件は満たしています。
 ただ、これを買うとなると小額とはいえローンになるのですが、できればそれは避けたいなあというのはありました。あと流石に色が派手すぎるなあという。

330iのMTに決定

 そして残ったのが330iでした。
 330iのMT車は極端に数が少なく、値段も下は150万円から上は300万円までまちまちなのですが(2008年7月現在)、だいたい出てくる中古車は00年式か01年式に集中しています。03年式以降になるとミッションの段数が6速になるのですが、探し始めてからついぞこの後期型を中古車で見かけることはありませんでした。車が車ですから、皆さん大事に乗っておられるのでしょう。
 ただ、平均値は250万円前後なので、これならそんなに無理もなくいけるだろうし、WEBなどでの評価もそんなに悪くなさそうだということで、目標を330iのMT車に絞ることにしました。
 これなら自動的にMスポーツになりますから、キセノンヘッドライト、電動パワーシート、アルミホイールなどの装備のほか、何よりMスポーツシートがついてきます。
 このMスポーツシート、以前BMWディーラーで試乗車の5シリーズ(排気量は忘れましたがたぶん525i)のMスポーツに乗せてもらって以来、「このシートだけでも欲しい!」と感動したくらいいいシートなんですよ。
 BMWを買うならこのシートだけは、と思っていたので、渡りに船と云ったところでしょう。
 330iのMT車には右ハンドルの設定がなく、強制的に左ハンドルになってしまうのはちょっと不安はありましたが(よりによって初の左ハンドルがMT車になるわけですから)、それもたぶん慣れてしまえば大丈夫だろうという結論に落ち着きました。

 ただ、上にも書いたように、330iのマニュアル車はものすごく貴重です。(7)以降の条件を完全に満たす車種、特に年式や装備、色などの選択肢は針に糸を通すような狭さ。とりあえず「330iのマニュアル車自体レア」なんですから。某ドイツ車専門雑誌にも、「330iのMT車は非常に少ない。が、年式や色、装備などでうるさいことを云わなければ見つかるかも」と書かれていたくらいです。
 ただ、あえて330iなら2001年モデルのエアロパーツのデザインが変わった以降(中期型、という呼び名でいいんでしょうか)がいいなあというのはありました。
 もともと、E46登場時にあった328iが330iになり、同時にMT車が設定されたのが2000年なので1年しか差はないのですが、エアロパーツの見た目がいかにも新旧ではっきりしていることと、2000年式だと前のメルセデスと1年しか違わないわけで、それもなんだかなあ、と思ったのですね。
 なんだかんだ云って、「年式や装備、色でうるさいことを云っている」のだから、見つかるものもなかなか見つからなくて当然と云えば当然です。

330iはいつ出てくる?

 そこで、タイミングを計るため、「330iのMT車」が市場に放出されるのはどういう時だろう、と考えてみました。
 まず、E46の330iは当時の3シリーズではM3を除けば最上級グレードです。
 ボトムグレードの318iにもMT車の設定はありましたが、これは「走るのが好きな若い人」が買ってるんだろうなあというのはあります。反面、最上級グレードの330iでわざわざMT車を選ぶ人というのは、それなりにお金があってMTが好きな人だろうという推測ができます。
 さらに、E46でMTの設定があるのは、M3、318i、330iの三種類だけです。つまり、正規輸入車でMTのBMWが欲しければ、このボトムグレードの4気筒、通常のトップグレード6気筒、ハイスペック車の三種類の中から選ぶしかないということになります。極端なんですね(正確にはアルピナもあります)。
 そして、BMWのウリである6気筒エンジンをMTで、ということになると、M3か330iかどちらかしか選択肢はありません。
 E46を新車で買った人は、モデルチェンジしたE90に乗り換えていることが想定されるわけですが、E90の3シリーズでは、ボトムグレードの320i以外にMT車が設定されていません。
 E90の320iは4気筒ですから、BMWといえば6気筒、というこだわりを持っている人は買えません。335iというパワフルなモデルがトップグレードにありますが、E46と違いこれにはMTが設定されていません。
 ついでに言えば、M3もV8になってしまったので、6気筒エンジンの3シリーズMT車は、現在(2008年7月)、正規輸入車では存在しないことになります。
 もしこのE90 335iにMTの設定があれば、330iからの乗り換えにはちょうどよく、結果として市場に流れてくるE46 330i MTの中古車の台数は多くなるだろうことは想像できます。が、現状ATしか設定がないので、わざわざ330iでもMTを選ぶようなこだわりのある人はATを敬遠してE46を乗り続けるでしょう。
 もともと330i MTの絶対的な台数が少ないことに加えて、これが中古車市場にあまり出てこない理由の一つなのではないかと思います。
 ところが、ここにきて1シリーズのクーペ、135iクーペが発売されました。
 エンジンは335iと同じパワフルな3リッターターボ、サイズは少し小さくなりますがクーペの形をしていてちゃんとMT車の設定もあり、値段も335iに比べて手ごろ。
 1シリーズのハッチバックは嫌だけどこれなら、という人もいるはずです(というか、お金があればわたしが欲しいです。見に行ったディーラーのセールスの印象がよくないせいでいまいちいい思い出がありませんが、それは個人的な問題なので)。
 つまりここで、330iのマニュアル車のユーザの一部が、この135iクーペに流れるんじゃないかと想像しました。
 今は135iクーペの納車期間が長いため停滞していますが、ある程度流通してくると、代替として330i MTの中古車も市場に流れ始めるんじゃないかと思ったのです。
 それを待つ感じで、W210の車検の残りはまだまだありますし、その隙に出てきたら買う、くらいの感じでいたのもありました。

実車探し……そして

 そんなこんなで、マニュアルミッションの330iを、ネットのBMWの認定中古車検索を中心にカーセンサーネットなどを駆使して毎日のように調べはじめました。
 BMWの認定中古車は、他のメーカーの認定中古車と同じように、町の中古車屋に比べて保証が手厚いのとある程度の品質が保証されるかわりに価格が高くなります。
 ところが、これは車として売れ筋のモデルに限ったことで、全体的な市場から見れば「BMWのMT車」というのは「欲しい人は喉から手が出るほど欲しいけど、多くの人は興味がない」モデルです。
 ここがポイントで、マニアを相手にする専門店などではプレミアを付けて売る車種でも、基本的に多くの人に向けて商売をするディーラーでは、ちょっと安めに価格が設定されることになるのです。
 318iの場合、税金が安かったりするので若い人が買いやすいためかあまり極端に下がりませんが、330iマニュアル車の相場で見ると、町の中古車屋の相場とたいして変わりません。ただ極端に数が少ないだけなのですね。
 それならば、素性のしっかりしている認定中古車を狙いたいのは当然でしょう。
 ただ、そんなことばかりもいってられないほど選択肢は狭いので、もちろん普通の中古車店の在庫も随時チェックしてはいました。
 ただ、それであってもなかなか条件にぴったり、というクルマは出てきません。
 色はシルバーじゃない、サンルーフもついてるけど相場よりむちゃくちゃ高いとか、相場通りで認定中古車で距離も走ってないけどシルバーでサンルーフもなしとか。
 いちおうそういうのも程度や条件によっては、ということで見に行ったりはしたものの、見ていくうちにせめて「色」「サンルーフ」どちらかの装備は満たしていて欲しいという欲望が高くなってきてはいました。そこを落としどころと考えたわけです。
 例えば、ディーラー系の認定中古車で、2000年式チタンシルバー、走行距離3万キロ台の予算内車両も見つけたのですが、サンルーフがなかったことと、オーディオ後付が困難なハーマンカードンシステムが着いていたこと、足回りやマフラーがノーマルでなかったことが気になって見送ってしまいました。
 あとは店ですね。ある中古車専門店で第一希望の黒のサンルーフ付きのクルマが出ていて、ちょっと遠かったのですが行ってみたものの、応対してくれた店員さんはなんとなくやる気ないし、なにより車検が残っている車なのに諸経費だけで40万円近く取られている見積もりに、こりゃダメだと判断しました。
 値段的にもダメですが、なにしろこれではさすがにちょっと店が信用できません。店構えが立派だからと云って一概に信用できないのが中古車屋の難しいところです。
 ほかにも、シルバーだけどサンルーフ付きの車があったので、問い合わせフォームからメールで問い合わせてみたのに一切なしのつぶての店とか、ネットで出してる値段と実際の値段が違う店とか、まあいろいろ行きました。そこで改めて、中古車の購入っていうのは店選びだなあ、と実感しましたね。
 中古車暦4台目にして今更ですが、考えてみれば今までの車は全部ディーラー系で買ってるんですよね。いわゆる「一般の中古車屋」というのをあまり考えなかったのでそういう結果になってるのかもしれません。
 もちろん、普通の中古車屋すべてが悪いというわけではありませんが、まあ、こういう店もありますよということで。ちょっとでもフィーリングが合わないなと思ったりしたら、その店から買うのは避けたほうがいいですね。高い買い物なんですから。
 あと、一般の中古車屋さんだと、保証期間が一般的に3ヶ月と短いのはともかくとして、「工賃のみの保証、部品代は有償」というところが比較的多いのもちょっと敬遠してしまうところでした。
 例えば、納車直後にエアコンのコンプレッサーが壊れたら、20万円近くする値段の高いコンプレッサー代は自分で払って、せいぜい数万円の工賃だけが無料になるというのは、せっかくの保証もあまり意味はありません。正直、現状販売とあまり変わらないです。せめて逆なら考えようもあるんですが。
 中古車専門店で買うときは保証内容は要注意ですね。もっとも、それで車両が極端に安いなら、整備費をその分に回すことでイコールになるのですが、今回の車探しで回った店では、残念ながらそういうこともありませんでした。

 そんな折、ネットで見つけたのはちょうど実家からクルマで二十分くらいのところにあるBMWディーラーにあった認定中古車です。
 色は残念ながらチタンシルバーで、走行距離もディーラーものとしてはちょっと多いですが、年式的には比較的新しい2001年式、ワンオーナー、レアなサンルーフ付きで何より走行距離からか相場よりかなり安い。200万円を切る、予算内でお釣りが来る価格です。
 これは普通の中古車屋でも稀な値段ですし、認定中古車ですから素性もしっかりしてますし、もちろん保証もついています。
 また、店も実家からそんなに遠くないので、修理のときなどにあんまり遠くへ行かなくて済むのもポイントでした。メルセデスを買ったお店は埼玉にあったので、点検や直してもらうのも結構大変だったのです。
 これはチャンスとばかりに見つけてすぐに電話をしたのですが、「既に商談が一件入っていますので、その方の商談がまとまらなかったら」と言われて週末まで待つことになりました。
 果たして週末、落ち着かない気持ちで電話を待っていると、「すみません、売れちゃいました」と。もうこのときのガッカリっぷりったらありませんでしたよ。
「そのかわり130iのMTなら入ってきたんですが」というお誘いもありましたが、ハッチバック車が個人的にあまり趣味じゃないということでお断りさせていただきました。130iもディーラーで試乗させてもらったときはかなり面白かったんですけどね。スタイルの好みってやっぱり大事です。

 やれやれまた探しなおしか、まあ中古車は縁だからねえ、希望の色が出るまで探しますかなんて思って一夜を明かすと、次の日(日曜日)の午前中に電話が。
「昨日の330iなんですがお客様の都合でキャンセルされました。どうしますか」とのこと。
 もう一にも二にもなくお願いして店へ向かいます。雨のせいで渋滞していましたがそんなのたいした問題でもありません。
 果たしてディーラーに着くと、件の330iは濡れない場所に保管されており、ゆっくり見られました。ファブリックシートなのにシートヒーターがついてたりと装備面も比較的充実しています。内装も距離相応に使われた感じですが、悪い印象はありません。
 何よりいいのは、オプションのアルミペダルがついている以外はマフラーや足回りなどがフルノーマルだったこと。
 自分で手を入れるなら最初からパーツがついてたほうが得なこともありますが、フルノーマルというのは荒く使われてないことの証明ですから、これは結構大きいです。わたしは基本的にノーマル派なもので。
 特に330iでわざわざMTを選ぶような人はクルマをいじっていることが多く、この「ノーマル」を満たすクルマは何台か見てきた中ではじめてでした。
 また、これにはハーマンカードンのシステムもついておらず、そのへんも個人的にはポイントでした。もちろんついていたほうが音はいいんでしょうけれど、使わないシステムの音がよくてもあまり意味はありません。
 試乗もさせてもらい、一通り動かしたところでまったくコンディションに文句はなしです。
 見積もりを出してもらうと、車検二年取ってもらって諸費用が13万円くらい。車検付きで40万円の諸費用を取ってた店があることを考えると信じられないくらい良心的です。ってかこれが普通なんでしょうけども。こういうところはやっぱりディーラーの安心感ですね。
 ただ、このクルマにはナビがついておらず、さらにオーディオも通常のCDプレーヤーです。iPODもつなげない、MP3も読めないオーディオというのはちょっと今では耐えられませんし、ナビなしなんてのはもうどうにもありえません。
 そこで、今のクルマについているオーディオとナビの移設をお願いすることに。これが結構な金額するんですね。仕方がないことですが。
 下取りに出す予定のEクラスワゴンの査定額は他の新車ディーラーとさほど変わらずで、特に高くもなく安くもなく。
 ここでちょっと迷いました。車のコンディションはいいし、希望のサンルーフはついてるし、値段は想像以上に安いし、店(ディーラー)にも問題はない、ちゃんと保証もついてる認定中古車。文句はありません。経済的にも余裕があります。
 だけど色がシルバー。二台続けて同じ色に乗って新鮮味がないかなあ、というところです。でも、値段と装備の折り合いが条件的にいい車はもう出てこないかもしれない。ほんとにここで決めていいのか、まだW210の車検は残ってるんだぞ、という葛藤でした。
 とは云え、ほぼ決めるつもりで「迷ってるんですよね」ということをほのめかすと、そこでセールスさんの「ETCをセットアップと取り付け料金料金コミでサービス、値引きを乗せてさらに査定もアップで」という言葉。
 いろいろ親身になって電話をくれたりした人ですし、何より「売りたい」という熱心さがあって気持ちがいいセールスさんだったので、それならいいかとその場で決めてしまいました。
 きっとキャンセルされて回ってきたのもなにかの縁でしょう。中古車って、一台一台がそれぞれ違う商品なんで、この「縁」って結構大事です。オカルト的な意味ではなく。
 思えば、新車での値引き交渉というのは何度かやりましたが(と云ってもわたしは新車を買ったことがないので親の車ですが)、中古車は値引きしないもの、という思い込みがあって、最初のビートとタウンエースはほぼ云い値というかそのままの価格で買っていた気がします。メルセデスは何も云わなかったのにセールスさんが勝手に値引きしてくれましたので、交渉っぽいことは何もしてないのですが。
 本格的にMT車の330iを探し始めてから3〜4ヶ月くらいでしょうか、無事契約と相成りました。思ったより早かったですね。色や装備を選ばなければたぶんもっと早かったでしょうけれど、高い買い物ですし、なるべく妥協衣はしたくないなあと。
 もちろん中古車ですし予算にも限りがありますので、妥協できるところと絶対に妥協できないところの見極めでしょうね、大切なのは。
 結果的にはいい買い物だったと思ってます。


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