○BMW 116i (E87)

 330iが不具合で入庫しているときに出てきた代車です。
 まだ4000キロ程度しか走っていない「ほぼ新車」状態の車で、流石に代車なだけあり、装備的には丸裸。ETCはおろかナビさえ付いていません。流石にオーディオは付いてましたが。
 最初に車を受け取ってしばらくはずいぶんかったるい車だなあと思ったんですが、前に乗った人がレギュラーガソリンを満タンにしていたんだらしく、一回空にしてハイオクを入れたら体感できるほどにキビキビと走るようになりました。代車だからって適当に扱うのはやめましょうね。

ロードインプレッション

 アクセルを踏むと、「びょえええっ」という音とともにそこそこの勢いで吹け上がりますが、回り方はちょっとガサツです。決して「シルキー」ではありません。
 BMWの4気筒エンジンを、6気筒エンジンの呼び名の伝統に倣って「シルキーフォー」などと呼ぶ向きもありますが、少なくともこの1.6リッターエンジンについては「シルキー」と呼ぶには程遠いガサツな回り方をします。エンジン音も含めて、BMWユーザが求めるであろう官能性はあまりありません。
 ただ、サイズの割に補強が効いたどっしりしたボディに対しても、パワフルではないにしてもパワレスではありません。ゼロ発進でも置いていかれることはたぶんないと思います。実用車としては充分、という感じでしょうか。
 ただ、いわゆる「中抜けトルク」と云うのか、40〜50キロくらいからの加速はちょっと苦手みたいです。これはミッションにも原因があるんだと思いますが。MTだったら解決する問題なんでしょうけど、日本にはATしか正規輸入されていませんのでどうしようもありません。ステップトロニックを積極的に使うしかないでしょう。
 これが120iになるとまたちょっと違うのかもしれません。E90の320iと同じエンジンをさらに軽いボディに積んでいるわけですから、こちらならある程度の官能性は得られると思います(もちろん130iや135iクーペは別格。あれは通常の1シリーズとはある意味「別物」です)。
 高速道路では、高回転で安定する設定が効いているのか、100キロ程度での巡航は割と楽にこなします。音もそれほど入ってきません。110キロくらいから音が気になりだします。ただ、100キロから追い越しをかけようとすると、さすがにパワーの問題から加速がかなりゆっくりなので、余裕を持ってまわりを見ての追い越しを心がける必要があります。
 ワインディングに入ると、上りは流石にきついですが下りだとそこそこに楽しめます。ATをスポーツモードにしていくとかなり「攻めた」走りも可能。FRならではのハンドリングは流石によく、狙ったところに気持ちよくピタリと行きますので、ちょっと重すぎる車重さえもうちょっと軽ければ、かなり楽しめる車になると思うのですが。
 ただし、このステップトロニック、マニュアル変速モードにして変速しても、シフトを手動で変えてから実際にギアが変わるまでに0.5秒から1秒程度のタイムラグがあり、これが微妙に運転感覚にズレを感じさせます。
 特にシフトダウンの時にそれが激しく、コーナー直前でタイミングを狂わされることもしばしば。別に攻めなくてもエンジンブレーキが欲しいときにこれを使うことはよくあるわけですから、このタイムラグは結構気になります。
 代車なので手荒く扱われているからこうなのだというこの個体特有の問題だったらいいのですが(よくはないか)、116のATが全部こういうフィーリングだとすると、「駆け抜ける喜び」を掲げるBMWとしてはあまりよろしくないなあ、という気がします。  燃費はかなりよく、基本的に高速道路中心、ワインディングで下りを攻めて、渋滞に10分ほど巻き込まれて……という感じで走ってリッターあたり12〜13キロ。
 ただしこれは80〜100キロの法定速度を守って巡航したときの場合で、それを超えての巡航はエンジンを極端に回すため、燃費はがくんと落ち込みます。
 逆に渋滞に巻き込まれても330iのように見る見る燃費が落ち込むことはありませんので、高速道路で120キロで巡航すれば燃費がよくなるけれども渋滞に巻き込まれるとがくんと落ち込む330iとまったく正反対だと云えるでしょう。
 足回りについては、普段乗っているMスポーツに比べてやや柔らかめですが、普段の街乗りならこれくらいがベストだと思いました。正直、Mスポーツの足回りが固すぎる、というのはあるんですが。
 あと、なぜかハンドルの切れ角がやや浅いと云うか、小回りが効きづらい気がします。特にバックでの車庫入れのとき、いつもの330iのタイミングでハンドルを切ると、どちらかに寄りすぎてしまって困る、ということがままあります。
 おそらくこれ、パワーステアリングが重いのも原因でしょう。日本車に比べて欧州車は概してパワステが重いものですが、330iと比べてはもちろんのこと、操作系が全般的に重いメルセデスよりも重いです。女性が乗るにはちょっときついかもしれません。

 数日間乗ってみて、さてこれ、誰がターゲットの車なんでしょうかということが問題になってきます。値段は諸費用を入れると300万円を超えるわけですけども、テンロククラスのコンパクトハッチバックにしては明らかに高いです。
 特に近年、国産車はこのへんにもっと安くて使い勝手がよくて高性能なエンジンを積んだ車のラインナップが豊富ですから、単に「コンパクトなハッチバック車が欲しい」だけだと辛いでしょう。
 いや、国産じゃなくてやっぱりボディがしっかりした外車がいいよ、と云うのであれば、ここにはもっと値段の安いVWゴルフと云う強敵がいます。
 TSIやDSGをはじめとした最新デバイスを搭載した上で、ハッチバック車のベンチマークであるゴルフ(ポロでもいいですが)にこの116iの走行フィーリングが勝てるとは思えません(特にこのATの出来は、VW自慢のDSGと比べるべくもありません。と云うか、DSGの出来が良すぎるんですが)。
 となると、「BMWというブランドが欲しい」「ハンドリング性能が欲しい」「FR駆動のハッチバック車が欲しい」の三種類になりますでしょうか。
 最初の「ブランド」という意味では、ここまで出すならもうちょっと出すか認定中古車で320iあたりを買った方がイバリが効くと思いますのでこれはまあいいとして、2番目・3番目の、FR駆動であるがゆえの高いハンドリング性能は確かに惚れる人がいてもおかしくないと思います。パワレスであるがゆえにこれを思いっきり振り回して遊びたい、とか。
 それに300万円をかけられるというのはある意味でものすごい贅沢なことだと思いますので、それはそれでいいと思います。
 ただ、広さやパッケージング、ユーティリティ性能など、近年日本でコンパクトカーに求められる要素を重視するのであれば、安く上げるなら国産のホンダ・フィットなどがいいでしょうし、輸入車ならゴルフ、ちょっと贅沢にならメルセデスのAクラスのほうが(しかもメルセデスのほうが僅差とはいえ安いわけですから)、座席も荷質も広くて快適ではあります。
 そうなるとちょっと難しいですね。BMWファン以外にはちょっと勧めづらい車ではあるかもしれません。決してダメな車ではないんですけど。

 ボディ正面。ぎょろりとした目つきが印象的です。いわゆる「イカリング」もついていてなかなかオシャレ。E90などの「ツリ目」とはまた違った趣のある顔立ちと云えるかも。どちらかというとE46(前期)あたりの顔に近いです。ボトムレンジのボトムグレードではありますが、ヘッドライトはHIDになっていました。これがオプションなのか標準なのかはよくわかりませんが。
 ボディ後部はなんとなくBMWの共通デザイン。Z4あたりと共通性が見られます。この位置からだと、滑らかに屋根がスラントしている様子がわかります。デザイン的にはスマートに見えるんですが、このおかげで後部座席が著しく圧迫されているのが欠点です。
 インパネはE90などとそんなに変わりません。シリーズによって露骨に差別をしないのはヨーロッパ車では割と共通ですが、これもその例に漏れず、と云ったところでしょうか。この車ではダッシュボードのセンターには小物入れがついていましたが、たぶんオプションでナビをつけるとここに入るんでしょう。
メーターもある意味「BMW伝統」のカタチです。メーター内のオンボードコンピューターでは、平均燃費をはじめ、平均速度、航続可能距離などが表示されます。E46に比べ、時計と温度計がオンボードコンピュータのディスプレイと分離したのはいいと思います。
 エアコンはオートで、なんと温度調整は左右独立型。こんな小さい車で左右独立が要るのかと云われるとちょっと微妙ではありますが。ただ、なぜかあまり効きはよくありませんでした。季節柄なのかもしれませんが。これにはメルセデスで使い倒した「REST」モードもついており、E46に比べての進化が感じられます。正直、このエアコンは羨ましいです。
 オーディオはCDプレイヤーです。実はコレ、MP3を焼いたCDも読めるんですが、驚いたのはディスプレイ部分に漢字も表示できること。せいぜい出来てもカタカナくらいだろうと思っていたのでこれは驚きました。表示可能文字数が少ないのが欠点ですが、後付のものでも漢字が表示できるモデルというのはそんなに多いわけではないことを考えると、かなり優秀なのではないでしょうか。音質もそんなに悪くありません。欠点は、エンジンを切るたびにランダム再生の機能がオフになることくらい。
 ただし、後に代車で別の116iにも乗る機会がありましたが、こちらはオーディオの日本語表示ができず、そこだけ空白になっていました。マイナーチェンジ前・後とかがあるのかもしれません。
 で、これがAT。普通のトルコン型6速ATで、「D」レンジから左側に倒すと手動変速も可能になるという、最近のBMWでは主流のシステムです。ですが、上にも書いたようにこのAT、あまり賢くありません。手動変速にしても変速時のタイムラグが大きく、積極的にシフトチェンジを楽しむのはちょっと難しいかも。上にも書きましたが特にシフトダウンのときにその傾向が激しく出ます。
 後部座席はちょっと狭いです。座面や横幅はある程度あるんですが、全長が短いせいでどうしてもレッグスペースが狭くなるのと、屋根がゆったりとスラントしているので、体が大きい人だとおそらくヘッドクリアランスがきついです。まあ、長距離はきついけど近距離なら……といったところでしょうか。こういうところでもやはりどちらかといえばシティコミューター寄りです。
 荷室は結構広いです。FR車なのでどうしても同じクラスのFFハッチバックと比べて床が高くなってしまいますが、広さは充分。二人で旅行に行く、くらいの荷物なら楽に飲み込んでしまいそうです。


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